風強くお前の街に吹く昼間白木蓮の揺れるのを見る

この街に急坂多く溜息の代わりに花を見上げれば春

裏道の黄色い壁の家の傍愛した人の影だけ長し
ベランダの植木鉢を動かそうとして
シクラメンに手をかけると

あやふやなその飛び方は曖昧で
不確かな何かのようだ

冬に生きる蚊を哀れ蚊と呼ぶ
ならば
冬を過ぎ
春を生きるこの不確 ....
青い月が遠くから見ている
私たちを
真昼間の
ふとした瞬間
あらゆる雲がなくなって
夏にはニッコウキスゲが咲く
あの稜線があらわになって
その雪肌を見下ろすように青い月が
遠くの空の上 ....
昼飯が終わって席に帰ると
閉じたパソコンの上に電卓があった
そんなところに置いたつもりはなかったが
なんだか光って見えたので僕は手にとってみたのだ
いつも使い慣れた電卓は実は僕のものではない
 ....
遥かの西方から雨は僕の世界にやってきて
もう三日も降り止む気配がない
大粒の
激しい雨に
僕は傍らにいるお前の二の腕をつかんだ
お前の二の腕は白く
とてもやわらかい
クニクニと何度もつか ....
それはそれは奇遇だった
女は白いシャツを着て
新しい職場で熱心に働いていた
髪は赤く、短くなって
かつて応分に満ち満ちていた肉は
適度に削げ落ち
艶のない頬で笑うその女は
相変わらずの長 ....
小さな手は星を拾った
大気の熱に
輝きは奪われ
小さな
つやつやと光る
黒い
石になったその星は
小さな手に載せられて
女と一緒に街を歩いた

街は赤紫の夕景を傾かせて
女の歩み ....
山よりも高く雲は聳えて
雲は天蓋として
瞬く間に紺碧の空を覆う
燃え立つような風が
一瞬にして地表の全てのものを清めると
卒然として雹
雹!
瑠璃色の雹がアスファルトに砕け
赤土に食い ....
女の脂肪は仮構だと友人はらくらくと言い放った
剥ぎ取って
愛して
悔やんでも悔やみきれない自由を
彼は
らくらくとどうしようもなく言い放った

夏の夜はすかっりと光を抱き取り
もう誰に ....
テレビをつけると
いつの間にかスポーツニュースが始まっていて
きっといつか見ただろう中年の男が
神の立場で
野球をカミカミ語っていた
もうすっかり名前も
投手だったか野手だったかもわからな ....
矢車草が咲いた
どこに行くのか
よく判らない
この道の辺に咲いた

青い小さな草は
私の歩みにしたがって
くるくると
風を孕んで
ゆらゆらとゆれる

お前の白い太腿は
この
 ....
お風呂場に
牛乳色の朝日がさして
白い背中は
どれもみんな
かあさんのようだ
湯船の湯気はぷかぷかと
日曜の朝のスープの湯気だ
温かなおいしい匂いがする

お風呂場に
ぶどう色した ....
もし
どうしても
どうやったとしても
このゆうやけが
おわらないとしたら
わたしは
あなたに
あなたは
わたしに
なにを
はなせば
いいのだろう

もし
どうしても
どう ....
さくらが満開になる
午後
雨になる
重力は終焉の暗喩として
天気は
午後
雨になる

君の湿った指が
きっと僕を選択して
僕に伝える文字
操作
メールとして僕の手元に来る

 ....
あなたの手はいつも潤っていて僕は戸惑ってしまう
涙みたいだ
そう思った

あなたが生きている時間の中には
行き場をなくした幼魚の群れが泳いでいる
おそらく何万という幼魚の群れであなたはでき ....
僕の足元には陸地がある
足の裏からじりじりと広がってゆくこの陸地は明らかに僕のものだ
陸地は遥か彼方から何かしらの交点をいつしか引き連れてくる
それは君の陸地であり彼の陸地であり、誰かの陸地であ ....
遠くに真っ赤な窓が見える
紫色の夕暮がだんだんと深い灰色になる時間に
遠くに見上げる団地の窓が
ただひとつ真っ赤に染まっている

僕とお前はその窓を見上げて
ゆっくりと二つのカゲボウシにな ....
手のひらに溺れかけた金魚を握って
少年の僕は旅立つ
朽ちかけた恋を語る老人の脇を抜けると
傍らには黄色い看板の中華料理屋があって
赤い文字で書かれた暖簾の奥からほとばしる いい匂いだ

手 ....
いつも見ない夕焼けを見た
空が朱色に
本当に久しぶりに染まった日に
昔は明るい笑い皺ばかりのおばあちゃんが住んでいた
もう荒れ果ててしまった家の壁にもたれた紅梅が
ポン
ポン
ププ
と ....
背伸びをする君に
降りかかる粉雪のような時間が
私の足元にはいつも堆積している

鬱蒼とした木立の中に
降りそそぐ冬の日差しのような時間が
私を背面から
ぐさりと刺して
ずるりと通り過 ....
なくしてしまった
ちいさなものを
どうしてもあたためたくなったので
ぼくはふゆのひざしのなかをあるく

ぼくにながれてくる
このふゆのひのかぜは
かなしいおととむなしいたいおんで
ぼく ....
あったかいご飯に
かつお節をかけると踊る
ように踊りたい
と思うのだけれど
音楽がない
そういえば
動物園の温室では
数百もの蝶が飛んでいて
ダチョウは飛ばない
ゾウも飛ばない
ア ....
はブラシが毛羽立ってしまった
もうすぐ今年も終わろうとしているのに
はブラシが毛羽立ってしまった

夏に出張に出かけた折に
買った
青い
はブラシ

彼が僕のそばにいる間に
僕はた ....
愛する女よ
お前は背が高い
  ただ夕暮れるだけの
  木の間に風が吹くだけの
  音楽
  濡れたアスファルト
  という名の酩酊
だから誰よりも影が長い
チューリップの茎切り落とすきみひとり満たしきれない刑罰として

明日から黄色い花のカップにはお日様だけをそそぐと決めた

春の日と呼んでみたけど私の影はきみの影よりずっと寂しい

長す ....
もう雨が降ると息が白い

プラットホームは痛いほど凍てついている

出来損ないの私の影を穿つ雨

午前六時三十分に青い電車に乗る人 他人の朝

水溜りよ青は無残に散乱する

どこへ ....
萎えてしまった
すっかり萎えてしまった
鶏の手羽を酒と醤油で炊いたものを
ラスカルの皿に一盛り食べながら
黒霧島を飲みながら
お湯割で飲みながら
テレビを見ていた
テレビではカンニングの ....
家に帰ろうとすると思った
遠くで僕が降りたのよりも
もっともっとあとの電車が
レールを軋ませて走ってゆこうとする
街灯がひとつ明滅していて
長い桜並木の
もうすでに長く葉桜のままの道を僕は ....
仕事に疲れたおまえが
こんなわたくしの部屋に帰り着くと
雨にぬれたおまえは
いつものように静かに服を脱いだ
行き場のない案山子のようなジャケットを
お前はハンガーにかける
遊んでもらえない ....
夏が去って
私は久しぶりに襟のあるシャツを着た
それでも秋風がいつのまにか
襟元から心の奥の方へとしみこんでくる
夏は毎日飲んでいたアイスコーヒーの器を
背の高い
細いグラスを洗いながら
 ....
黒田康之(113)
タイトル カテゴリ Point 日付
白木蓮短歌407/3/18 21:25
自由詩5*07/3/18 21:17
新年詩二〇〇七自由詩907/1/2 0:01
電卓は自由詩406/11/12 13:05
雨と二の腕自由詩406/9/16 19:03
夜空は星に刻まれてゆく自由詩606/8/3 12:53
星を拾う自由詩406/8/3 12:33
夏の嵐、または転位自由詩406/7/15 16:29
乳房〜その1自由詩306/6/21 23:14
兎女自由詩506/6/9 20:32
矢車草が咲いた自由詩606/5/27 13:10
温泉にて自由詩206/5/22 17:11
満開の藤の下にて自由詩706/5/13 4:25
さくらのはなと指と雨と自由詩306/4/10 0:07
さまよえる幼魚の骨自由詩506/3/30 17:24
陸地自由詩306/3/25 14:28
ゆうべの闇の恨み言自由詩106/3/9 10:49
手は そしてまた言葉は自由詩106/3/2 2:32
いつも見ない夕焼けを見た自由詩2+06/2/16 17:17
時間〜その1自由詩1*06/2/4 19:08
ちいさなもの自由詩2*06/1/17 11:30
ねこまんま自由詩405/11/25 18:50
はブラシ自由詩205/11/22 15:42
秋の景色【改訂】自由詩105/11/19 16:42
チューリップ刑罰短歌8*05/11/11 13:47
自由律十句〜青い電車〜俳句305/11/8 10:06
秋枯れ自由詩105/10/26 14:10
take it easy!自由詩305/10/16 22:15
秋の乳房自由詩505/10/6 17:25
首筋の紅自由詩205/9/28 15:17

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