さまよえる幼魚の骨
黒田康之

あなたの手はいつも潤っていて僕は戸惑ってしまう
涙みたいだ
そう思った

あなたが生きている時間の中には
行き場をなくした幼魚の群れが泳いでいる
おそらく何万という幼魚の群れであなたはできあがっていて
こうして咲きかけた桜の下を歩いているときも
その路に迷った幼魚は蠢いている

夕方
ただでも切なくなる時間に
あなたはメロンパンを
立ち寄ったこともないファミリーマートで買って
少し食べて仕舞った

ぼそぼそと喉を降りてゆくパン屑は
君の中の幼魚の餌になるのだろう

僕はあなたを引き止めるために
あなたの手を握った
すると
不意に小さな棘のようなものが
僕の指に突き刺さった

あれはきっと幼魚の骨
行き場のないままに死んでしまった幼魚の骨
あなたは笑った
その笑いは本当に遥か彼方からやってきたような匂いがした



自由詩 さまよえる幼魚の骨 Copyright 黒田康之 2006-03-30 17:24:41
notebook Home 戻る  過去 未来