夜空は星に刻まれてゆく
黒田康之

それはそれは奇遇だった
女は白いシャツを着て
新しい職場で熱心に働いていた
髪は赤く、短くなって
かつて応分に満ち満ちていた肉は
適度に削げ落ち
艶のない頬で笑うその女は
相変わらずの長身で
丸い低い声で笑う
女の肌は自立していて
多くの恋を身に帯びている
愛されることも
愛することも
求められることも
求めることも自在であった
あの夏の日の
日に焼けた肌はそのままに
相変わらず優しい目をして笑う
おそらくお前は
小さな家で
やさしい母さんになっても似合う
そのやさしい願望は
いつもお前の胸中にあって
お前以外の誰かがそれをかなえてゆく
お前の目と
私の目が
こうして直線になるときは
悲しいのだろうと問う色になり
幸せなのかと問う色になる
きまってお前の目は
私の目を笑っている
笑われることの愛しさは
きっと今夜も
お前のそばで
私以外の
男がお前に刻むのだろう
時間のように
刻々と
そうして食い違ったまま
かみ合わぬままの時間を
お前は
私は
笑ったままで
また離れてゆく
夜は刻々と闇になる
その頂点はどこなのだろう



自由詩 夜空は星に刻まれてゆく Copyright 黒田康之 2006-08-03 12:53:41
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