通り過ぎてゆく連中の靴はどれも洗いたてみたいに艶めいていて、おれは自分の薄汚れたスニーカーを見下ろしてほくそ笑む。それはおれとやつらの「歩行」という行為に関する決定的な認識差であり、歩いてきた距離 .... 紙パックの飲料水が路上で踏み潰されて幾何学的なかたちにねじけ刺さったままのストローから血を流す、きみのモカシンはそれを石かなにかのように避けて歩いて行く、あとに続くおれは植え込みに残る昨日の雨 .... 死蝋化した骸を思わせる粘ついた月と鋲のような星々が食い込んだタールみたいな黒が
呪詛のようなリズムで這いずるやつらの頭上にぶら下がってる
駅前のコーヒーハウスで飲み干した自家焙煎にはまるで無関 ....
気もふれるほどの青い影だった
心許ない残響音と
歯軋りのようなわだかまり
鴨居の端から垂れ下がり
口笛を吹いていた
ああ、闇雲に祈る娘よ
透明過ぎるのだ、お前のその
偽りの在り方 ....
馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
寒いものを暑いと言い
増えたものを減ったという

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
声も出せない小娘に
肥えた豚が金を注ぐ

 ....
虫はやたらに
ひとの周りを彷徨くものだし
騒ぎに慣れたら
気にもならなくなるもので

ところ構わず
火を放つ若造の手際は
そもそも美しくない
顔中に吹き出すニキビと同じで
醜悪な ....
世界はいつも俺の視界の隅で何ごとかゴチャゴチャと展開している、俺はそれを自分に害が及ばない程度に―流れ弾とか、もらい事故なんかを喰らわない程度には気にかけながら、自分自身の人生を生きている、だけど ....  その建物について、詳しいことは何も判らなかった、その土地を流れる大きな川の、河原から何も無い野っ原へと続く坂道に沿うように建てられた平屋造りで、右側の端に川を目指しているかのように突き出された正 .... 数時間硬直したままの肉体は、真っ白い砂漠の中でどす黒く腐敗する夢を見ていた、血液は破れた血管から鉄砲水のように溢れ出し、もう使いものにならなくなった皮膚に無数のラインを描いてから砂地に染み込ん .... 俺の脳天に風穴がふたつあいている、ひとつは自分でどうにか出来る、もうひとつは自分じゃどうにもならない、その穴はお前にどうにかして欲しい、そいつは俺にはどうすることも出来ない穴なんだ、俺 .... きみはずっとあるドアの鍵穴に鍵を差し込んでドアを開けようとしている、まるで、鍵を持っていることでそのドアに関するすべての権利を所持していると考えているみたいだ。確かにそれはある程度までは正しい認識 .... 一匹の雄の野良猫が居た、根性も身なりも薄汚い野良猫であった。他人の捨てたものを漁らなければニャアと鳴くことすら出来ず、鳴いたところで短い、汚い声を上げる程度であった。その内容も、他の猫が聞けば .... おそらく期限切れのアンフェタミンがもたらしたのは
誰かを執拗に切り刻む紙芝居
生温かい数グラムの血しぶきが頬にへばりつく感触だけが
この世界で唯一変動しない価値のように思えた

 ....
毛細血管が狂気と絡み合って血流は金属的な悲鳴を上げながら全身を駆け巡る、オオ、産まれ持った宿命を受け入れよ、産まれ持った脈動を受け入れよと…あらゆる肉体組織の軋む音が俺のリズムだ、経年劣化した .... 凍てついた死体と古ぼけたペーパーバッグだけが転がっていたコンクリートのままの床の上で音楽が流れている、奇妙なインストルメンタルで旋律らしい旋律もそこには見当たらない…インプロビゼーション的なそ .... あたしいつかあの男を殺すからね、と、いつものようにカウンターの外側でカクテルを何杯も飲み干し、口が軽くなったネシナ・エミリーはお決まりのその言葉を吐き捨てるように言うのだった、もしも近くで警察 .... 小さな金属の塊がふたついびつなフロアーを転がってぶつかった時のような音が脳髄のどこか奥深いところで何度か聞こえた、その感触は絶対に忘れてはいけないなにかをしまいこんだ鍵付きの抽斗の鍵が壊れてし .... もっとも死臭を放つ頃合いの腐乱死体のような世界にきみは巻き取られて、叫び声も叶わず飲み込まれようとしている、手足の指先は究極に凍えたみたいに上手く力を入れることが出来ず、手に触れるもの、足を下 .... 壁掛け時計の針が示す時間を鵜呑みにする前にこめかみに鉛筆を突き立てた、そう、それはまさにくたばる一歩手前のギリギリのところだったよ、ついでに言っておくけどそれは二三時を少し過ぎたところだった、 .... 子供たちはそれぞれに武器を手にして、頭を押さえつけてきた街の中に飛び出していった、程なくいくつもの銃声がこだまする、男の声、女の声、年寄の…さまざまな悲鳴がビル街を跳躍して夜空の黒の中へ消えて .... マーガレット色の街灯が
午前三時の路上で
墜ちた月のように佇んでいる
ジンの酔いは
俺のこめかみを
左から右へ真っ直ぐに射貫いて
思考がそこから全部漏れていく
 ....
少し前に
壊れた橋の上に立って
きみは笑顔を浮かべている
ひびわれたセメントは
ゆうべの雨のせいで
稼働停止した工場の
機械のようなにおいがする

その橋を苦労して渡っても
きみ ....
ここにヨシオという男が居る。三十を少し過ぎたもの静かな男で、生活のためにある巨大な施設の厨房で洗い場を担当している。毎日日が昇る前に仕事場に入り、日が暮れるころに家に帰る。彼には共に暮らしてい .... ろくすっぽ砂も噛んだこともねえ表六が
干し過ぎた柿みたいな遺書をしたためる魂の童貞
笑わせんなよ、書き終わらないのは
心残りのせいじゃねえ、終わらせる気がないせいさ

「青い果実 ....
幻聴にぶっ飛んだ俺は、ディナーの後のデザートにカメレオンの脳味噌を喰らう、それがどこかで食されているものなのかは知らない、寄生虫や、ヤバい菌があるのかどうかも知らない、とにかくカメレオンの脳天を掻 .... 血管が最も交差するポイントで血流は行きあぐねていた、わだかまるものたちが新しい言葉を産み落とす、すんなりと流れないものだけが真実だ、俺は疲弊して仰向けに寝転びながら…その真実だけを認識していた .... おれの素晴らしき我家の隣には狂人が住んでいて、朝から晩までこちらの暮らしに聞き耳を立てている、頭を掻く音、鼻を掻く音、耳を掻く音、歯を磨く音、すべての音に文句を言って、それでまともだと思ってい .... 臓器がこむら返る、死後硬直の午後に
角膜の隙間に潜り込んだ不協和音を
爪楊枝でこそぎ出したら視界が赤く染まった
軟膏を塗りこんだらお陀仏だ
世界は白濁して
オープンリールフィルムのようなノイ ....
いくつもの美しいあかりが
真夜中の街路で飛び散る
若者たちは短い騒乱の中に飛び込んで
明日など要らないとうそぶいて見せる
ひび割れた舗装に隠された置手紙には
取るに足らない歌い手が書き殴った ....
夜の訪れとともに降り出した雨は秋の始まりにしては不自然なほどに冷たく、まだ夏を待ってでもいるような薄着の私はたちまちのうちに凍えてしまう、友達はそんな私を笑い、私はしかたなく笑い返す、自分の身 ....
ホロウ・シカエルボク(1232)
タイトル カテゴリ Point 日付
足跡に名札がついたことはない自由詩1*17/5/21 13:13
夏の亡霊自由詩1*17/5/15 22:28
夢を見なよ、この夜はまだ明けることはない自由詩1*17/5/9 22:33
デリシャス・メニュー自由詩1*17/5/4 15:58
馬鹿ってばかりの国自由詩1*17/5/3 1:29
ゴー ホーム自由詩1*17/4/27 17:06
公園の壁の煉瓦の端っこにいつの間にか書き殴られていたメモ自由詩4*17/4/22 23:36
どこに居るの、沙織。散文(批評 ...2*17/4/11 1:17
誰も思い出さないその雨のことを自由詩3*17/4/2 17:45
本当じゃない限り出来事のすべては簡単なことなんだ自由詩2*17/3/28 0:44
開かれた牢獄の中でみんな目的だけが未来だと考えながら生きてい ...自由詩2*17/3/26 0:54
哀れなAlley Cat自由詩3*17/3/23 23:34
あの娘の胸に赤いバラ自由詩3*17/3/19 0:39
真夜中を話そうとするとき血液のせいで濁音が混じる自由詩3*17/3/10 22:51
アンダーグラウンドの指先自由詩1*17/2/25 22:27
小さなやつらの大きな終わり自由詩4*17/2/6 22:46
無駄な境界線を引きたがるインサイドとアウトサイド自由詩3*17/2/4 21:37
グラン・ギニョール(ただし観客が皆無の)自由詩1*17/1/26 12:04
混沌を解いたところで簡単な現象にはならない自由詩5*17/1/15 23:13
引き算の挙句、最後に記入される解答となるために自由詩4*17/1/5 21:44
銃を取れ(それがどんな感情だろうと)自由詩10*16/12/24 23:20
12月、意味のない橋と思慮深いカラス自由詩4*16/12/22 23:25
いつか見た映画みたいに自由詩2*16/12/9 23:05
くたばる手前で生きてやれ自由詩4*16/12/2 20:30
カメレオンの脳味噌自由詩3*16/11/24 22:53
Blood on Blood自由詩2*16/11/19 22:04
neighbors自由詩2*16/11/15 23:02
炭化の街自由詩3*16/11/11 21:25
ブローニングM1910自由詩4*16/11/3 21:43
一〇月、食事のあとで自由詩016/10/25 22:23

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