それは古いコンクリート建築で、ステージを取っ払ったライブハウスか、あるいは陳列棚を置き忘れたマーケットのように見えた。俺は入口付近にぼんやりと立っていて、手ぶらだった。左手側の壁面が俺の腰の高さ辺 ....
時の流れに飲み込まれていく生命の波動をこぼすまいともがき、足掻き、意味の判らぬ声を発する、その刹那、常識と限界を飛び越えた者だけが新しい詩を得るだろう、漆黒の闇の中でも、微かな火種さえあれば光は生 ....
きちがいじみた雨の夜に骨まで濡れた俺は自然公園の多目的トイレを占拠して身体に張り付いた衣服をすべて剥ぎ取り蛇口だのなんだのに引っ掛けて便座に腰を下ろして朝までを過ごした、当然寝つきは良くなかったし ....
雨こそ降りはしなかったが、街はどんよりとした雲と湿気に満ちていた、人と擦れ違うのが煩わしくなり、小さな道へと逃げ込んだ、歩いているうちに、その先に昔、数十年は前に、死に絶えた通りがあることを思い出 ....
おまえはやわらかなうたを抱いて
音のない振幅をくりかえす
サンデー・モーニング、ディランは60年代のまま
新しい世紀にまた産声をあげる
高圧電線のそばで甲高い鳴声をばらまく ....
回転体のオブジェの間を潜り抜けて、濃紺の闇の中で和音の乱れた子守唄を聞いた、心の中に忍び込んだそいつらの感触は夕暮れに似ていて、ノスタルジーは現在と比べられた途端に苛立ちへと変わる、犬のように牙を剥き ....
おまえの首筋は、薄氷のような
心もとない血管を浮き上がらせて
口もとはうわ言のように
ニール・ヤングの古いメロディを口ずさんでいた
空はどぶねずみの
毛並みと同じ色をして
悲しみに ....
ねじられ、路肩の排水溝のそばに横たわった煙草の空箱が、人類はもう賢くなることはないのだと告げている、六月の夜は湿気のヴェールをまとって、レオス・カラックスの映画みたいな色をしている、そしてこの街に ....
夜を埋め尽くす雨音、夢は断続的に切り取られ、現実は枕の塵と同じだけの…薄っぺらい欠片となって息も絶え絶えだった、寝床の中で、やがてやって来るはずの睡魔を待ちながら、もう数時間が経っていた、かまわな ....
廃れた通り、その先の名前のない草たちが太陽へと貪欲に伸びる荒地のさらにその向こうに、梅雨の晴間の太陽を受けて存分に輝く海があった、水平線の近くでいくつかの船が、運命を見定めようとしているかのように ....
嗄れた外気の中で、うたは旋律を失い、ポエジーは冬の蔦のように絡まったまま変色していた、ポラロイドカメラで写してみたが、案の定浮き上がった風景にそれらは残されてはいなかった、なのでそれを幻覚だと認識した ....
光線は不規則にそこかしこで歪み、まるで意識的になにかを照らすまいと決めているみたいに見えた、ガラス窓の抜け落ちた巨大な長方形の穴の外は無数の騎士たちが剣を翳しているかのような鋭角な木々の枝で遮られてい ....
あぶくは、空襲の記録フィルムを、逆回転させているみたいに
なだらかな曲線を描きながら、届かない水面へとのぼっていきました
遮断された現実の世界の中で、わたしは
眩しくない光というのはこん ....
もしもあなたが詩人になるというのなら
その時点で未来はすべて捨てなさい
あわよくば名を上げて、などと
考えるのならはじめからやめておきなさい
もしもあなたが詩人になるというのな ....
お前の指先が深く沈めた、か細いものの吐瀉物を辿って、黒ずんだ血だまりに俺は辿り着いた、心許ない記憶みたいに浮かんでは消えていく泡はまるで戦争のようだ、俺は気を吐いて手首を切り裂き、流れ出る血をそこ ....
ディスプレイされた
高価なネズミのような
まだあどけないヴァネッサ・パラディの
コンパクト・ディスクの横で
二十八歳のアリサは
アイスピックで自分のこめかみを貫いた
死に塗 ....
十四歳のある日
ぼくは
あらゆるものが
きっとこのままなのだ、ということに
気がついた
ひとは、ある種の
限られたコミュニテイは
このまま
もう
どこにも
行くことはないの ....
漆黒垂れ流す深夜、息の絶えた獣の響かぬ声を聞きながら、寝床の中で目を開き、湿気た記憶の数を数えていた、思えば必ず身内の誰かが脳を病み、自我を曖昧にし、かろうじて自己紹介が可能な程度の人生を生きてい ....
きみはぼくが
スラックスに隠した
キャンディがだいすき
いつでもどこでも
頬張りたがって
ねえ、ねえ、とおねだり
ぼくは、待ってね、と言い
人目を避けて
さっと取り ....
空気清浄機のノイズは俺の知らない言葉で果てしない詩を連ねていた、俺はそれをあまり信用していなかった、埃やカビやダニと一緒に、生きる理由まで吸い込んで排除しているようなそんな気がしたからだ、でもそん ....
夜は味気なく
だが
絶対的に
おれの残り時間を
砂時計の
ように
くっきりと表示する
嘘だろ
マジか
勘弁しろよ
詩を
書くときに
たとえばそれが
誰 ....
どこか金属的なノイズ、揺れる路上のリズムと、スニーカーのゴム底のスクラッチ、腕時計の文字盤をスルーして時は過ぎていく、流れ去るもののすべてのことを俺は知っている―とどまるものに比べても、ずっと―狂 ....
ロザリーは十五才
廃業したスクラップ工場の敷地の外れで
ハーケンクロイツみたいなかたちになって転がってる
もう腐敗が始まっていて
あらゆるおぞましい虫に集られて喰われている
ささやかな雨 ....
暗くなる前に灯りの準備をして欲しい、悪い夢を見ないに越したことはないから、静かな音楽を流して、狂気じみた思いを鎮めて、安らかに目を閉じることが出来たらいいね、こうして話してしまうと願いというのは全 ....
ひとつひとつの意思が
水滴となって胸の底へと落ち
束の間の王冠を描いて
湖の中で何とも知れぬものへ変わる
彼らの
描く波動
振動
わたしは植物人間のように
寝床で目を見開いて
....
首筋を流れた汗は冷たかった、ラジオはゴスペルばかりで、俺は祝福など欲しいとは思わなかった、衝動は体内でハリケーンのような渦を巻いていたが、噴出する先を見つけられず色味の悪いものに変わりつつあった、 ....
些事に塗れ、気もやらぬうちに、死んで消えていくやつら、生まれるそばから、溢れかえるそばから、滅多矢鱈に回転数を上げていく、運命の歯車は煙なぞ上げない、そいつの頑丈さはヒトの及ぶものではない、俺は眠 ....
靴の甲のあたりの高さにもなれない、小さく目立たない花が板塀の脚に沿って群生している、昨夜遅くの雨でそいつらはテレビコマーシャルのように粒の小さい光を跳ねている、板塀はところどころ破れていて、それは ....
きみは遠い世界の春を抱いて、シャンソンに合わせて身体を揺らせている、昼間は夏のように暖かかったけれど、夜は北極のように凍りついている、電気ストーブよりもいくつもの薪をくべた暖炉が欲しくなる、そんな ....
裏路地にもう何十年も転がってる自転車の
茶褐色に錆びた車輪が真夜中に一度だけ軋んだ
生き過ぎた鳥のため息のような音
その時、俺の知り合いがそこに居れば
俺がひとりで何事か話していると思ったかも ....
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