今はもう(夢の時間)になった、十代の頃。
ほんとうの道を、求めていた。
敷かれたレールを、嫌がった。
思えばずいぶん、{ルビ躓=つまづ}いた。
人並に苦汁を飲み、辛酸も舐め ....
通り縋りの街に
何処か懐かしさを覚えて
忘れていた記憶を思い出そうとする
ふと浮かんだ笑顔に
少し胸が痛くなるけれど
明日のお天気のことを考えてみよう
幸せは無味無臭だから
気づ ....
職場でりんごをひとつ貰った
婦長の実家が青森のりんご農園なのだ
あっちゅが
「丸かじりしたい!!」
と言うので、洗って手渡すと
にこにこして持って行った
「食べ終わ ....
無一文の今日
近所の古本屋を何件か回って
ジャンルごと本売り分けた
最後のブックオフで買い叩かれた
それでも今日、実に清清しい気分になった
別れた本にありがとうと言うのも何だか空 ....
おやすみなさい
今日の日は過ぎた
明日は親知らずを抜きに行く
二週間前に予約して
あっというまに
今日が来た
虫歯になっていますから
治療したとしてもどうせ
使いみちのない歯だ ....
人の体温に恋して
霊は家に住み着くらしい
頼んだわけでもないけれど
周りにたむろする木や草の
のぞき込む好奇心を追い返し
昼間 人が出かけても
テーブルの下 柱の陰
ドアの後ろの暗が ....
空想の翼と妄想の足枷
境はあっても壁はない
空と海のように
神学と罪状を彫刻された
流木は風と潮に運ばれる
翼もなければ鰭もない
時折 鳥が降りて来て憩い
流木の節くれだった目を ....
何かを始めるのに
手遅れなどということはない
始めた時が
始まりのとき
手を伸ばした時が取り返すチャンス
足を踏み出した時が
新しいスタート
空を仰いで
深呼吸した時が
誕生 ....
いちじくは
花を 外に 開かない
いちじくは
内側に無数の花をつけ
やわはだの秘密を 隠し持つ
ある日
たったひとつの いちじくの実に
たった一匹の 蜂が来た
....
土踏まずの深い足裏で
たわわに熟した葡萄を踏みつぶす
たちどころに
赤紫の液体が
{ルビ箍=たが}で締められた
大きなたらいの中でほとばしる
秋の森は
少年と少女の息遣いで色づき
どこ ....
帰宅早々インターフォンが鳴り
え? 宅急便?
受話器を取ると
「とりっくおあとりーと!」
子供達の雄叫びが両耳に飛び込んで来た
驚いた
かぼちゃランタンがそちこちに並ぶ時節
とうとうアク ....
夜がきた (おやすみ
夢の中で君に指と唇あげる
午前四時
君の左手首から現代詩あふれだす
月の裏から声
私は百年ぶりに私の声きいた
ざらざらしたものすべて
....
夏の空気に寄って立つ 少女はあざみの花
かな文字で記した遺書のような視線が
日焼けした少年のまだ皺のない心のすみに
紅い糸を縫い付けることは終になかった
四季が幾つ廻ろうと心の真中が憶えている ....
ラブホの電飾看板の裏でコクワガタの雌
蜘蛛の巣に巻き取られて繭のよう
俺はデッキブラシでそれを絡め取って
指先で綿菓子のような蜘蛛の巣を剥がした
もはやクワガタには重さが感じられない
外 ....
定価千八百円のはずの詩集が
アマゾンで一円で売られていた
0円では商品として流通されないだろうから
一円にしたまでのことなのか
紙代にも
印刷代にも
ならないはずの
アルミ二ュウ ....
地階の
寡黙な土踏まずから
4階の
華やかな脾臓まで
動脈としてのエレベーターは
人と花束と高揚を
送り届けた
6階の
冷徹な口角から
1階の
大らかなアキレス腱まで
静 ....
ゆくすえは
どこまで見まもることが
できるのだろう
吃音のことで
それほど悩んでいたなんて
知らなかったけれど
親は子の悩みを
まるごと肩代わりすることはできないし
してあげたいけ ....
時代に迎合したものは
腐食しやすい傾向がある
二十世紀以降は特に足が早い
あなたがガスオーブンを被り
光速ロケットに乗ったあの日から
世界は五十歳ほど老けた
だがあなたの詩は瞳のように ....
不器用だから
泣きじゃくって
のりしろは全部
切り落としてしまった
僕、という立体を
通りぬけてゆく風
端っこがめくれて
ビラビラしている
無理しないでね、と
幻のような声を ....
電話がかかってきて
行ってしまった
幸せになるんだ
といって
コケリンドウの
花をみつけた
ちいさな青
の付け根のあたり
淡く
消えそうなものに
私はいつも憧れる
たくさ ....
回転を少し止めた朝は
おだやかな
エメラルドの生地で
ひとつの心臓もない
白い砂床に
波のつぶやきを聴く
貝の肉のような
とりとめのない柔らかさに憧れ
ギリギリと角質の擦れ合う ....
めにみえないほど
ちいさなつぶだったのに
かぜにふかれて
まいあがるきりゅうにみちびかれて
のぼっていくと
だんだんなかまがあつまって
いつのまにか
かたまりになり
とてもたかいところ ....
僕たちは行進する
雨と雨と雨の合間を
かなしみの残る青空に
バシュポン
圧縮した空気は開放され
白い弾丸は
砲の初速を逃れた彼方で
小さな羽を広げる
あの
遥か積乱雲と日輪草の
....
静けさを測る術を探している。冷たさには限界があるのだけど、
静けさを測る術を探している。住宅街の、小さな公園の、真夜中、ブランコをこいで、こいで、鉄の鎖を軋ませて、泣いてしまいそうだ、どこかの家 ....
湿る度の、音
響いたあとの名残は、
何かしらのかたちで
沈んでいく
(奥底で
(深々と眠りつつ、
震える指先は
鼓膜をなぞりながら
(呼吸を、
ひらめいて ....
東京、ぼくの見た東京
髪や服に滲みついた煙草と、酒と青春と
01/06/2007
イヤフォンは四六時中、質問を繰り返す
だから答えばかり眺めている
きみのいないところで
間違い ....
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