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少年は
絶望のなかで
差し込む月の光が
僕をどこかに飛ばす
流れているのは人か風か音か時か
ただ舞い散るのは夕暮れの茜色の風
もうどこにもない世界の忘れ ....
宙に打つ
神の標
春のしるし
幾重にも
幾重にも
彩陰を重ね
時の無い静寂に
さやけき歌の
無間に響きわたり
夢幻うつし月に映え
淡きは命か
ゆるやかな風に揺れ
....
1
水溶性の喧騒に混じり入る
マーブル状の
夜の鳴き声
脈が終わって、それでもなお
時は余る
2
疎林のまばらを
記憶で埋める
蔓はどこまでも
遠く伸び
驟雨 ....
さわらないでと
胸に茨を抱きかかえたまま
叫んだね。
マゼンタの色の野ばら
きみと、ぼくの
灰に涸らされてゆく喉で
必死に歌っていた僕ら
君は僕に蕾ひとつない
花冠を作って ....
むしろ、さくらではなく
今朝の濁った空色が
薄灰色の風となって
じんわり染みこんでくるのを
わたしは待っているようだ
三寒四温の春は寡黙に地を這って
あたらしい芽吹きを迫る
枯れ枝に ....
ホワイトデーの3日前
クッキー屋の前に立ち
義理チョコレートのお返しばかり
虚ろな瞳で探してる
もの欲しそうな、男がひとり。
若い女の店員から
硝子ケース越しに
手渡さ ....
氾濫する
春の本流を立ち泳ぐ
辺りには甘い毒素が満ちていて
脳から先に侵されてゆく
あらゆる感情の結び目は解けて
それがいいことなのか
悪いことなのか
判断さえおぼつかないまま
い ....
窓際を覗く
あなたの瞳は
いつも
風の彼方の
虹を探している
窓際を覗く
あなたの耳は
いつも
時間の足音を
聴いている
窓際を覗く
あなたは
....
見も知らぬ
濃い緑の葉を拾った
落ち葉では
あったが
少し表面が艶を残し
生きてきた軌跡を
浮き彫りにしていた
その人の言葉は
繰り返し響いた
....
白い時間のうつわ
網膜のひだまり
ベンチでうつらうつらしている間に
思い出が回遊してくる
おはよう
さよなら
おはよう
さよなら
巻き戻される行き先 ....
*
世間は三連休で、海へと続く国道は、何処もかしこも車が溢れていて、どんなに急いでみても渋滞に阻まれ君の元に上手く辿り着けない
募る苛立ちは煙草の煙となって空に溶け込んで行き、延びて行く車の列と ....
白っぽい視野の中に
草の生えた道があり
知らない樹木が立っていた
母は和服を着て
道にひとり佇んでいた
すると向こうから
何年も前に死んだ父が歩いて来た
ぱりっとした背広を着 ....
あたたかな
春のひかりの
ミルク色の微笑みが
わたしの瞼におちる刻
わたしはめざめ
あなたの手をとる
ことばをともに
込めあって
わたしが風なら
あなた ....
そのお便りには
「わたしは
太陽や風に大事にされて
幸せでございました。」
と書かれてあって
ふむふむと思って
そのお便りを
あなたの胸ポケットに入れて
寂しくなったとき
その葉っぱ ....
夫がいる週末は楽しいから
なんにもない平日を
早送りする
だけど、今夜は
夫が
携帯電話と間違えて
リモコンを持って行ってしまった
夕飯を食べる時間に
夫がいないので
....
覚悟なき身の恨めしき
堪へ難き痛み抑へむと
声を限りに叫びたるも
なほつらく
覚悟なき身の口惜しき
やるせなく すべなく
さけび叫びて惑ひたるを
ただ一人
....
「平穏」という名の
鎖に繋がれていれば安全で
私はいつも、じたばたと
鎖の届く範囲でもがいてた
日の当たらないこの部屋は
いつでも、じめじめと湿っぽく
私は ....
夜の満月は探せても
昼の満月は探せない
空の誘惑に騙されて
雲の誘惑に邪魔されて
雨上がりの
悩ましげに
そろそろと晴れた
空に耳を澄ます
赦しのア ....
★
紅葉した山の宿舎を出ると 頭上を雁が渡った。その哀しげな声は、澄みきった大気にしみ透り、何人をも、氷水を口にしたときの気分にさせる。
私はボストンバッグを足元に置き、雁 ....
810210
動きの中に幽かな色がある
黒々と横たわる大海原に
一条のきらめきを感じて
振り仰ぐ東の空に
微かな朝の気配を感じる
....
あなたがそばにいるだけで
まわりが海に変わる
ほんの少しだけ夜のような
ほんの少しだけミステリアスな海
このまま小さな魚になって
あなたのまわりを漂っていたい
あなたは私の梢を揺ら ....
━聞いてな━
なあなあなあ、あんたほんまにうちのこと好きなん?
どうせまた騙されてるんやないのって、お母ちゃんは笑うねん
けどな、うちはあんたのこと
なんでか知らんけど、信じら ....
何故かあのひともそうだった
年上の素敵な奥様がいて
それなりに幸せな家庭を築いていた
そしてそんな男の軽い浮気心に惚れてしまう女がひとり
初めて出逢ったのは真冬に逆戻りしたような夜 ....
{引用=死ぬ気になれば何でもできる…
それは瀬戸際に立たされたことの無い人間の言葉}
新地に棲んでいた頃の母を良く知っているといって
狐目の男が自宅を訪れることがあった
その度 ....
堅い梢から
白い気泡がぷつぷつと生まれて
二月の空に立ちのぼる
それは
君の唇からもれる
小さな温度に似ていて
僕の尾ひれを
とくん、と春へかたむける
ふらりと現れて
はな先 ....
世界に追いつけないでいるわたしに、椅子が用意され
明日という不在について語れと言う
目を閉じたときにだけ、
かつて捨ててきた言葉たちが 戻ってくる
根を、そこここに生やしては 日々 ....
月にいるなんて嘘だけど
月に行きたいとは、おもうのよ
でこぼこの地面の上で
みんなに見られながら、お餅つき。
なんて、素敵じゃない?
寂しいと死ぬなんて嘘だけど
寂しいとは ....
机の上に東京タワーの置きものがある
上部のとがった部分を
指先でつまんで
ひょいと持ちあげ
底の部分を見ると鉛筆削りになっている
小学校のとき母に買ってもらったものだ
東京タワーは大き ....
雪深き 街
吹雪に眠る頃
天狼らの瞳
爛々と輝きだす
雪原を隔て
昏い森の始まるあたり
一人立つ 我に
天狼らその姿 現わし
天狼ら開かれた野生で我が足跡を追え
吹雪 ....
「 いってきます 」
顔を覆う白い布を手に取り
もう瞳を開くことのない
祖母のきれいな顔に
一言を告げてから
玄関のドアを開き
七里ヶ浜へと続く
散歩日和の道を歩く
....
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