ゆきちゃんを迎えに行くと
金木犀の香り
静かなおうちの中には
病気のおばあちゃん
少し日当たりの悪いお庭に咲く
石蕗や
柊
藤袴
「お勉強するから遊べないの」
そういって、優しく ....
目がさめると
遮光カーテンのすそから
光がななめにすべりこんでいた
朝が
きたのだろう
ダイニングの白はつめたく
まぶたはひとりでにふるえる
カップを2つならべ
コーヒーマシン ....
コウちゃんはどうも
歌うのが苦手らしいと聞いて
ギターを抱えて
コウちゃんのところに行く
で
行ってはみたものの
お互い知ってる曲というものが
実はないのだ
君が代、とか
それは ....
正月中の 夜行列車は満席
故郷から 帰郷帰りの人々
暗い駅から ひとり
座れないので
戸口のすぐ前に陣どる
会社は あさってから
荷物はひとつ
一晩中 立つのか
....
一時間に一本だけの電車の中で居眠りをしてみると
回想の中で自分の自分に逢えるので
もう一度と思ってみても
一時間に一本なものだから
すごく困ってしまう
ぼくらは、たまに
どうしよう ....
わたしは誰でもなく
なんとでも呼ばれる
身近な人には
名前で呼ばれ
子供には
ママと呼ばれ
昔の知り合いには
旧姓で呼ばれ
離婚したことがあるので
そっちの名前で呼ばれ
再婚したの ....
今日は
なんか変だ
誰もいない部屋で
テレビがひとり
喋ったり笑ったり画面が変わったりしてる
ふと
その音が聞こえたら
もの凄く哀しくなった
テレビ ....
最近どうも
君の胸に鍵をさすことができない
手にした鍵を
むりに入れてもしっくりせずに
疑心暗鬼な手つきで
がちゃがちゃと
右や左にひねっては
君の表情を曇らせてばかり
だ ....
性交の時のあえぎは
どこまで聞こえるのでしょうね。
かなしみや
よろこびや
いとしさは
どこまで響くでしょうね
知って伝わって
心っていわれてるものの中で
精錬 ....
ゴンザレス、生まれてこの方メキシコ人
今朝も早くからメキシコ風のシチューを
食べる
ゴンザレスを見守るゴンザレスの兄
生まれてこの方メキシコ人の兄
港の町では遠い海で漁をする季節
....
子供らがそらを指さして騒いでる
何事かと思いぼくもそらを見る
この角度でそらを眺めるのは
ずいぶんと久しぶりだ
見慣れたビルの屋上付近は
見慣れない広告でひしめいている
そのすき間ほどのま ....
どううぶつえんの檻の前で親友は盤を取り出し
飛車角落ちで良い、と言う
親友の温かい手から飛車と角を受け取り
どううぶつの檻に投げる
どううぶつは隅でうずくまったまま見向きもしない
飛 ....
てんびんに いろいろのせて きみは
てんびんが かたむくより はやく
くびを かしげてしまう
いっしゅんで すりぬけてゆく
ふあんとか そうぞうとか
ほんとうは もっと
いっし ....
i
どこにでも空はある
この手元の
ガラス瓶のなかにも
耳を近づけると
かすかな雲雀の声が聞こえた
(sky in the bottle)
ii
....
夢で見る弟を追いかけてしまう
弟は時折現れる
でも触れることはできない
わたしがピアノとフルートの伴奏で
歌を歌った夜
弟は会場の一番後ろの席に座り
わたしを見ていた
「弟だ ....
崩れ落ちた家のなかに
階段だけが残っていて
空にささやく
みちびきよ
みちびきよ
夜の路の先の先に
地を照らせない街灯があり
空にささやく
みちびきよ
みちび ....
くだけちる
さくらのなかを
あるいていたよ
こごえた炎をかかえて いつも
ひらひらと 花びらは 風をまい
狂をひめ ふりつもり
さまようかれの影をそめて
そらをひろげ
へべれけ ....
うす紫に、きれいに染め上がった、
放課後の、
(優しい文脈を結んで)
ぼくは 図書館で、
大好きなきみの名前を、
水文字で書く。
水文字。
右でもなく、
左でもなく、
遠いほうの ....
亀を探している
けれど亀はなかなか見つからない
今日の僕は
誰よりも龍宮城へ行きたいというのに
いじめているべき子供たちもいない
九月になって
みんな風か何かになってしまった
....
つい
自分に残された時間は
どれだけなのだろうと
考えることがある
十年先
一年先
明日
もしかしたら一分後かもしれない
だから私は
今したいこと ....
裏返る感じがして
げぼっと吐いた
ごめんなさいごめんさないと
つぶやいてみたけど
ほんとは誰もいなかった
いないのはわかっていて
わたしは必死で謝る
ごめんなさいこんなことしてごめんなさ ....
宵闇、
五線譜の電線 で
輪郭のぼやけた影だけの鳥たちが奏でるのは
誰かの
失くしてしまった、声
あるいは、足音
にも 似て
道しるべにするには あまりにも
不たしかな
風通しの ....
スチュワーデスさん、とスチュワーデスに声をかけると
私にはケイコという名前があるんです、とそっぽを向かれる
今度こそ間違いの無いように、ケイコさん、と呼ぶのだが
ケイコは押し黙ってしまう ....
わるいゆめを何度も見たい
何度も
何度でも
口から血を吐き
股間から血を吹き
血じゃないものも吹き
わたしは裏返る
そんな
わるいゆめ
を
わたしは
わるいゆめが好き
それ ....
きみの部屋
わたし
ここで死んだらいい
ふたりで
いっしょうけんめい呼吸をして
いっぱいの
二酸化炭素へ
ほうむられるように
酸素なんか、
なくったって
生きられる
せかいへ ....
クロスワードを解いている人たちを前に、最後のアナグラムの解答を言ってはいけない
戦争をしている人たちを前に、平和を好まないあなたがたは非人間だなどと、言ってはいけない
出された家庭料理を前に、あの ....
もしも もしかして
わたしが きように よわたり じょうずな はとだったら
きっと きょうも くるっぽーとないて
ぽっぷこーんを もらうだろう
でも そんなふうには いきられなくて ....
大事だったはずのいろんなものが
どうでもよくなる
スイッチ
普段は見えない
あることさえも
感じない
でもそれが見える瞬間があって
それは
大抵
一回につき
何時間か続く
....
垂直の空を
仰ぎ見る
ここは空の縁の終わらない場所
折り重なった雲と雲が
覆い被さってくる
雨
続きを
見たいと思っている
染み込んでいく雨粒と
あの雨の後の匂いの行方を
空へ ....
4歳のこどもを
正面から抱っこすると
つい4年ほど前には
お腹の中にいたことなど
信じられないほど大きい
わたしたちひとつだったはずなのに
分裂したね
さびしいけどもう元には戻れない ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20