{引用=
ぼくのものじゃない長い髪が浴槽の排水口へ流れた
その後を追うように
ぼくのものじゃない子供が流れていった
だから蛇口を勢いよく捻り
ざあざあといっぱいに水を浴びせ
そうす ....
{引用=
そんな言葉には
騙されないよという彼がいて
だから私は
ああ
こんな言葉では
信じてもらえないのだなと笑って
求められているのは
私の本質だろうか
生き方だろう ....
{引用=
{ルビ錘=おもり}によって、わたしの外側の水位は上昇し、その先のどこにもふちはなく、溢れることができないままの記憶を、てのひらですくっては、こぼして、すくっては、こぼす、そうやって衰 ....
*
*
電車をおりたら、正しい冬の予感がした
冬の匂い!
冬の匂い!
冬の匂い!
冬の匂い!
冬の匂いが冬の匂いで
あたしはとっても幸せだ
今年の冬はシチューのC ....
据え膳の味を思い出さない男
なんて
今この時私より欲しいものがない
って言えない
なんて
あなたは
一体
どこまで
可愛いの
はしたない
口を引き裂いて
私は
今日も
....
一度でもいいから
朝を起こさないであげたいな
ゆっくり眠らせてあげたいな
朝は寝坊したことがない
サボったことがない
勤勉なんだな
それは昼も夜も同じ
きっと宇宙は真面目なんだな
だか ....
寝返りを打つような
時計のリズム、
と
誤解して
透き間をのぞく
カーテンの、
向こう
けだるく
染まる週末と
けだるくなれない平日と
どちらの自分が本物だろう、
と ....
あちらのお客様からです
とウエイトレスが運んできた
飲み物には
温度があった
冷たいものも
温かいものも
ひとたび口にすれば
喉を通っていく
あちらのお客様からです
と ....
君が返事はいらないと言うから
取り敢えずここに記そう
私は君から逃げる事にする
ドラクエの選択肢にも
忍法の巻物にも
『逃げる』は立派な技だから
....
冷たくなってきた風に漂って
きみは何処を向いているのですか
田んぼの脇に咲くススキ
あでやかな花に囲まれて
色づく葉っぱに包まれて
それでも自らの身体を染めることはなく
華 ....
横長の陽射し
オレンジ
リビングに
果実むく手と濃淡つくる
蜜みたい
トランペットの音のびる
指ですくって
夕焼け、とろろ
朱をぼかし
うすもも塗って
金散らし ....
{引用=
ここは世界だが
誰にとって孤独だ}
水分を取らない男が居た。
目的など無く、理由も特に無い。
誰に規制される訳でも、また己に課した罰でも無く
ただ毎日を暮らす自然 ....
僕は言葉の破片を
手にしながら さまよい歩いていく 夜の間を
ただ 僕はいったい何なのだろうとやめない どこまでも止まることを
夜の間は続いていく どこまでも
子供が作った抜け道もあるかも ....
すべての人はかならず一度は行ったことのある場所
そこがカナシミビトの森
そこに行き着く道は誰も知らないが
ふかくふかく哀しい時
いつのまにか辿りついている森
そこにはカナシミビトが住ん ....
ほしいものも
いらないものもない
とあなたは
いったけれども
パンツをはかずには
いられなかった
ぼくらのまっしろな
そのむこうにある
ここにはたしかに
ちがうところがあ ....
あなたによく似たひとだった
人違いと戸惑うわたしの顔を覗き込み
どうかしたのと気遣ってくれた
これを落としたひとをずっと探しているのと
あなたの落しものを目の前に差し出した
その ....
禅寺にこもること14年間
ついに噛まない術を会得した俺は ウグイス嬢にもなれず
地方局のアナウンサーの内定ももらえぬまま
噛まずに 今日も コンビニの レジを打つ
いらっしゃいませ あ ....
あの娘がレズだった
あの娘の恋人は女の子だった
昨日の夜
私はレズの女の子たちが出てくる小説を書いてた
一昨日は音楽の才能がまるで無いバイの男の子と電話していた
私は可愛い女の子が好 ....
わたしが無職だったころ
茹で卵と塩むすびだけはんかちに包んで
毎日河原へ出かけていた
それしかやることがなかったのだ
アンケート用紙とかに
無職
と書くのが厭だったので
仕事を探してはい ....
忘れ物のような話をしました
ただ長いだけのベンチがあり
終わりの無い話を続けました
読みかけの本が無造作にふせられ
背表紙は少し傷みかけていました
マリエはすぐに人を殺そうとする
け ....
内声の矛盾した響きのなんと美しいことか
脳を溶かささる君の意味の溶けかかる声の響きに未開人のボクが
「おー」
肯定の意味もあるし否定ってこともある
嬉しいときも悲しいときも ....
うまくうたえないのよ
いとでくちをつられたきぶん
にぶいじゅうせい
にぶるかんせい
もっともっとつめたくなりたいのに
とがっていたいのに
あつさでゆるくなっていく
ちゃいろのあぶ ....
あまりの暑さに立ち止まろうとしたら
影が自分よりも先を歩いていることに気づいた
慌てて追いかけてたどり着いた交差点
道路にはみ出した自分の影が
通り過ぎてゆく車にひかれている
何 ....
カブトムシの眼はきれいだ
黒い真珠のようだ
あるいは透明な膜でつつんだ
何かの宝石のようだ
(動かなくなっても)
まるでずっと何処かを
見つめているみたいだ
動かなくなる ....
{引用=幼稚園に通っていた頃
いつもポケットに手を入れている女の子がいた
僕はそれがどうにも気になって
幼い知恵を引き出して思いついたのが
ジャンケンだった
「ジャンケンしようよ」っ ....
ある夕方
妻が台所でエリンギを持って立っていた
しげしげとエリンギを眺めている
じっくりと観察しているようにも見える
よりによってエリンギだったので
エリンギを握っている妻 ....
午後
カーテンのすきまから
迷いこんできた空想がひらひらと漂う
うまく捕まえることができずに
言葉にならないので
そのままにした
きっと
そのままの方が良いのだと
勝手な理由を知る ....
花束をもらったのは
もう随分前のことだ
大きくて赤い
松明のような花そのあかりが
次第に痩せて暗くなっていくのが
寂しかった
怪我をして入院中
病室まで訪ねて
炎のような花束をくれ ....
夕ぐれ時に
快晴だった青空が
東へ押しやられているのを見つめる
ひとすじの雲が
分かちているようだ
逃れられないこの先と
とりこぼしてしまった出会いを
ひこうき雲 ....
扉が
壁になった
観音開きの合わせ目には一ミリの窪みもなく
錠前も、蝶番もなく
光も、ざわめきも、向こう側の気配はなく
ひた駆けてきたあなたの
汗と、一千万秒が
消散した その静寂で
....
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