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父さんの部屋には
美しい蝶たちがたくさん死んでいる
父さんのお好みの姿勢でピンに止められ
埋葬もされず
ひたすらあの男から愛を注がれている

父さんの部屋から
解放された死者たちが溢れ出 ....
わたしは悲しみを拾います
だれの悲しみだろう
なぜ悲しいのだろう
取り留めなくおもいます

掌で包んでみたり
耳をあててみたり
抱いて寝てみたり
机の上に置いてみたり
床に転がしてみ ....
そのころの
ぼくの悲しみは
保健所に連れて行かれる猫を
救えなかったことで、ぼくの絶望は
その理由が彼女が猫は嫌いだからという
自分というものの無さだった
ぼくの諦めはその翌日も同じように ....
空は一面しかない
大地も一面しかない

あり得ない世界には
空が何面もある
大地も何面もある

私は
真面目に詩を書き上げるつもりなどない
真面目に詩を書き上げる才はないのだ

 ....
港区三番街のコンテナとコンテナの間に 隠れるようにうずくまって夜 雨に打たれながら野犬と交尾した

人に心を開かないわたしが 犬に股を開いた
ビクンビクンとよがり イキ狂った それを
あなたは ....
昔々、空が有象無象に充たされつつあった時
彼女は心の欲するままに転げ落ちました

   * * *

先生、量子宇宙の話をしてください
物質の成り立ちを
電子の軌跡が尊いとする根拠を
 ....
繰り返される奇蹟の剪定。
無造作に投げられた肥料袋の中
目一杯に、名のかけらもない痩けた原住民。
命を表象した符号がうねる交差点。

ときおり霞むような速さで、伐採、
あるいは収穫をお ....
青い鳥 幸せの
とはいえそれは
細い翼のその先の
先の先まで青いとは限らない
けど青い鳥

 刈り上げられた田んぼの畦を
 歩いてくるのがカツオさん
 古びて背の高い人で 猫背で
  ....
――逆さまに曝された流線型の細ながい肢体。澄んだ水面の白い後ろ影は揺れる。世界でも有数の赤い夕陽は沈んだ。そののちに訪れる、この心地よい夜の冷ややかさ。その臀部の心地よいなめらかさ。そよぐ枝葉のように .... 雲のなかの金属たちは
艶やかな焔となって、

夕暮れに言葉は燃えた
頬を赤らめるしかなくて
赤々と燃えた

だが街は暮れていくばかりだ
街頭の影が背伸びをしても
たしなめる者もいなく ....
遠くの森はいつの日か
愛娘と歩いた森
今頃木々が色づいて
キラキラ綺麗に輝き出し
二人で辿ったあの道を
艶やかに照らしているだろう

 娘よ、お前は元気かい?
 今頃二十歳のその道を
 ....
陽の光で焦げついた表びょうし
ページをめくるたび
懐かしい香りがひろがる

時代のおもみを指で感じては
ため息ひとつふたつ

栞のよつ葉のクローバーは
貴女あての恋文にとみちびいてくれ ....
爽やかな風が吹いていた斎場には
一人の人生に済みの印を押してあげる為に
集まった親族身内たち

果たしてその人の旅の行く先が
天国でもその反対方向でも構わない
もしかしたら
宇宙の知らな ....
 さみしさが夜空にぽっかり浮かんでいた。
 月は雲に隠れてしまった。
 噛み締めたくない孤独は、目の前で立ち昇る煙草の煙と共に、
 私の胸にその影を落とした。

 夢の中で何人もの人を殺 ....
秋の夜に
煌々と浮かぶ半月は
闇に艶めく大地のあちこち
銀の涙を溢しながら
陶然として傾いていく

わたしは寝床でゆっくりと
その推移を辿りながら
迫り来る世界の無表情に
今夜もやっ ....
薄っすらと
はった氷を割る
秋が終わる音がする
霧がかった紅葉の
空がまだ青い
辿る記憶の先に
肩車をする夫と
肩上のわが子
手を振る
生きることとは
悩み過ぎ去ったあ ....
夜風はぬるく低きを流れ
あちやこちやに華が咲く

そこかしこ
手が絡み合い蓮に成る
ゆらりぬらりと結ばれて
愛しきものを求めるか
赦せぬものを求めるか
ただただ生を求めるか
手の群れ ....
老いた虎がいる
四肢は痩せ、臥せっている
しかし、その眼からは咆哮がのぞく

虎よ、虎よ
わたしはおまえになりたかった

虎よ、虎よ、おまえは
無駄や無理や、と吠え
わたしの頭をね ....
天の川      A train crossing
渡る列車     the Milky Way
         is
忘れられて    forgotten
         and has ....
糸を伝わる震えとぬくもり
声の往信が私達をつがいの鳩にする

時間が道路なら振り返って走ろう
白線にそって回顧の草を摘みながら
あの白い家屋に飾ってある
陽に焼けた一枚の写真を目にするため ....
詩を歌う人は月が好きなんだなぁ

分かるよ

こんな身近に
夜空にたったひとつ
あんなに美しくて あんなに悲しいものは
そうあるものではないからね

僕もその一人
貴方もそうなので ....
だるまさんが
転んだ
そこにいたはずの
みんなが消えた

時の流れに
目を瞑りながら
眠ってしまった
呼吸を残して

戻っては来ない
人の足跡を
散りゆく落ち葉が
埋めていく ....
青星灯る夜に、コールタール色の水底から貴方が呼んでいるのだけど、私は泳げないし、よく見ると確かに星や月が水面に映り込んでいるのだけど、それを捕りに行く気にもなれない。
今日はやめておくわ、と私は言っ ....
命を頂いて生きている
だから頂きます、というらしい
けれどそれはそんなにありがたく
罪深いのだろうか
鶏が産み落とした精の無い
卵をいくつも使ったケーキは
悪徳の味がするのか
命を失った ....
電信柱と電信柱を繋ぐ電線の上に
天使が羽を休めている

天使を数える場合
鳥同様に羽がはえているから
一羽二羽と数え始めたが
途中で断念した
数えきれない

電線が重みで垂れ下がる
 ....
ガラスケースの中には
成人を迎えた晴れ着姿の女や
子どもを抱いた夫婦、百歳を
迎えた女の満面の笑み

とぼとぼ、夜を歩けば
冷やかな風が問いかけてくる
その顔はなぜ、俯いているのかと
 ....
十匹めの
熊を抱いて眠る
波寄せて ひいていく
ながい一瞬に

あらゆるものを天秤にかけ
そして
壊しました

抱いたまま ゆきます
壊れながら
熊たちの なき声を
眠りに ....
こツン、と
硝子戸がたたかれ
暗い部屋で生き返る
耳鳴りがしていた
からの一輪挿しは
からのままだ

幼い頃、祖父が置いていた養蜂箱に
耳をあてたことがある、蜂たちの
羽音は忘れたけ ....
命には限りがあるのです
タマネギ伯爵が言います
それを知ってほしいから
我々は皆を泣かすのだと
タマネギ伯爵は言います

隣のタマネギ伯爵婦人は
始まったわよとの溜息を
リキッド状にし ....
天使だって、
死ぬんだ、って。

それは、
凍りついた川の岸辺に
天使の肉体がたどり着いていた。
なぜか、
人が、
人の心を、
疑い、
恐れる、
荒野の街の、
夕間暮れ。

 ....
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少女は、荒野をめざす(風塵《改》)- 秋葉竹自由詩1018-11-14

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