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もがく
もがく
泳いでいるつもりなのに
もがいていた
救命ボートもない
....
うららかな日でございました
春まだ浅い
やわらかな陽光が
鏡のような海の面を
無数にきらめいていく
穏やかな日和に
お嬢様は嫁がれていかれました
でも
その胸中はいかばかりか
真 ....
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それは
ほろ苦い
春の味
ふきのとうとタラの芽は天ぷらに
....
【食いしん坊なのです】
赤ちゃんのほっぺは
つきたての餅のようだ
誰も見ていなかったら
つい食べたくなってしまうほどの
◇
【みみず】
おまえをみつけると
つい ....
あなたのことを
なにひとつ知らない
どんな家に住んでいるのか
どんな顔をしているのか
どんな爪の形をしているのか
どんな声で話すのか
けれど
あなたのことを
感じることができる ....
死んでいる人と
眠っている人は
よく似ています
だから
不安になって
あなたの口もとに
耳を寄せてみるのです
かすかな
寝息がきこえると
ああ、生きていると
安らかに生きて ....
全て
焼きつくされたそのあとは
ただ
黒焦げて
すすまみれの野原になった
あの子たちは
炎から
うまく逃げおおせただろうか
若草が
芽吹いたら
戻っておいで
ふたたび
命が ....
腹をすかせた人に
必要なのは
おにぎりであろう
一篇の詩など
あったところで
なんの役にも立たないのだ
心に空洞をもつ人に
必要なのは
一篇の詩であろう
おにぎりのように
それ ....
こもれびのなかに
あなたがいるような気がする午後
柩は
とうに燃やされ
ひとすじの白い煙になったというのに
竹林をぬけると
境界線がにじみ
時間がさやさやと巻き戻る
愛しい人た ....
さざなみは
永遠をよそおう
罪ではない
それは
やさしい嘘
人は
さいごに
この海にたどりつき
さざなみにも
終わりが
くることを知る
かもめよ
愛しいおまえも
いつ ....
あなたの代わりに
泣きましょう
あなたの代わりに
苦しみましょう
あなたの代わりに
穢れましょう
あなたの代わりに
あなたにくるはずだった
災厄を
全て引きうけて
そう ....
散歩道の途中
鳩小屋を見つける
白い糞と抜けた無数の羽で
汚れて
狭いところで
ひしめき合って
つつきあって
鳩が叫ぶ
おれらは
これでも平和の象徴なんだよ、と
公園で放し飼い ....
もともと
とても
壊れやすいものだったのです
だから
壊れてしまっても
嘆かなくても
よいのです
この世に見える
すべてのカタチについている
蝶番が
壊れてしまっただけなのです ....
今年も
そろそろ
恋の季節が始まるよ
人間は
ああ、また忌まわしい季節の到来かと
眉をひそめ、ためいきをつく
(他人の生殖など、歓迎すべきものじゃないけど)
僕たちにとっちゃ
知っ ....
道の途中で振り返ってみる
長い時間だったのだろうか
それとも
ほんの
まばたきするような
短い時間だったのだろうか
人は人と
すれ違い
時々恋をしては
大人になったふりで
別れ ....
赤ちゃんは
眼が見えるようになると
まず
人の顔を認識するらしい
丸の中にふたつの小さな丸があったら
それだけで顔だとして
笑いかけるように
出来ているらしい
そうすることで
世界は ....
チェーンステッチで
四つ葉のクローバーを
刺繍した
クリイム色のやわらかなフェルトに
ひとさし
ひとさし
鎖をつなぐ
祖母へ
眼鏡入れとして
プレゼントした
祖母は
....
針を数えたか、と
父が言う
裁縫は針を数えることから始まって
針を数えて終わるんだと
わかったようなことを言う
自分では
ボタンひとつかがらないくせに
もしも
針がどこかに落っこち ....
かなしい夢をみて
目覚めた朝は
ああ、夢でよかったと思う
けれど
かなしいことが
なくなった訳ではなくて
心の引き出しを開けたら
別のかなしいことが
そこにある
引き出しをちゃん ....
雨が降っているのかしら、と
君がつぶやく
君のつぶやきは
答えを求めている時と
そうでない時があるので
それを聞き分けるのが
とても微妙であるけれど
肝心なのは
語尾のニュアンスで ....
私は
カラダの中に
海の記憶をとどめておくの
何度
再生しようとも
薄れはしない
漣の音
いつか
愛しいあの人が
私のことを手にとって
そっと耳にあてたなら
懐かしい愛の歌が ....
過ぎ去ろうとしている
冬のしっぽが
白く きらめきながら
川面を流れていく午後
でも
私は
それをつかまえられない
パレットに出された錆びた金色を
時間の筆が
グラデーションを付 ....
小学生の頃のいきつけの内科医院は いつも
消毒薬と漢方薬の匂いがしていた
医者の奥さんが受付の奥で薬を調合していて そこでもらう薬はとても粉っぽくて
飲むと必ずむせた
待合室から小さな裏庭 ....
裏庭に佇む気持ち
(あまり陽のささない北向きの場所)
裏窓から外を眺める気持ち
(特に心浮き立つ景色ではなく)
何かに
裏をつけてみると
どこか秘密めいた香りが漂い
私は
つい覗い ....
ナナという名前だった
もとは捨て猫だったらしいが
いつのまにか
隣の家に居着いてしまったらしい
すごく立派な面構えで
どこかで外国猫の血が入ったのか
ブルーの眼と
むくむくの銀毛を持つ ....
かあさん
お空が ないてるよ
だれかが
なぐさめてあげたらいいのに
かなしくなくても
なみだはでるよ
なみだで
せかいを
あらいながしたあとは
とつぜん
正気にもどって ....
自分も毛糸玉のくせして
プッチは毛糸玉と
戯れるのが好きだった
ふたつの毛糸玉は
所狭しと転がり回り
私は面白がってその糸を引いたものだった
小学生だった私と弟
そしてやっと歩き ....
自分が何者かを知りたかった
今はイザベルおばあさん愛用のひざ掛け と
呼ばれているのだが
もともとどこから来たのだろうと
人間たちの間で流行っている
自分探しというものを
し ....
あなたの闘い続けた十三年に深い敬意を覚えます
妻と愛児を殺されるという
私には計り知れないほどの
かなしみと
ぜつぼうと
うらみと
にくしみの中で
司法という巨大な組織とも闘い続け
....
食パンのみみが
初めて出会う言葉は
まだ星空が出ている時間から
働き始めるパン屋のおじさんの
「上出来だ」の嬉しい言葉だろう
スライスされる前は
全身が みみなので
工房の全ての音が ....
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