髪を切った。たくさん。
ばかに明るく、たくさんの鏡に囲まれた美容院。やわらかくなった毛先と、骨ばった手にほぐされる頭皮。わたしは犬のように従順になって、なされるがままでいた。耳元をとおりすぎる小気味 ....
行っておいで
と
彼女は言った
でていけば
また
帰ってこられるんだから
と
おまえらが寝ているときに
わたしはずっと起きていた
おまえらが起きたからって
簡単に追いつけると思うか
だってわたしは起きていたんだ
おまえらが安らかに眠ってる間じゅう
髪を切ったわたしは
なんにもなれないまま過ごしている
うたがある
ペンがある
紙がある
手がある
だからなんだって自由で
なんだってつくれるのに
なんにもなれなかったわたしが
髪 ....
かわいい、こどもみたいなかなしさ。
いつかは別れると思ってた。
でも全部わたしになった。過ぎ去ってはじめて、わたしになった。
だからもう一度出会えるよ。新しくじゃなくて、続きじゃなくて、ただ ....
冬と春が手をつないでいる夕方に
静かに立ってそとをみていました
わたしはもう少女ではなく
絶望と仲良くもありません
ひとりで
静かに立ってそとをみていました
燃えつきる煙草、蘭のつ ....
いとしさの痛みあつめて穴を掘る
はれわたる白い世界と細い背と
うしろ手の情と熱とを持て余し
愛していると言えば
愛していることになるのか
なぜそんなに飢えているのか
欲しいものもわからないままで
自分の気持ちも言えないままで
愛していると言えば
愛された気持ちになるの ....
わらうしかなかった なんでも持っているあなたのひとつになれないままで
あまい季節を夢みて
窓のちかくに立っている
腕には
うすあおい痣をもって
むかしに覚えたうたを
口もとに飾って
すこしだけ
笑っている
明日になったら
明日
もしあまい ....
たくさんのひとの中にいて話していると
からだがだんだんうすっぺらくなる
笑ったり怒ったりしている人たちのなかで
からだがだんだんうすっぺらくなる
頭のなかに大きな丸をえがいて
からだがだ ....
電車が来るのに
飛び込まないのはなぜだろう
研いであるのに
刃を当てないのはなぜだろう
行き交う車に
跳ね飛ばされないのはなぜだろう
ビルがそびえるなか
落ちないのはなぜだろう
ド ....
向かいの屋根の瓦にはまだすこし雪が残っている。祖母の家から預かっている蘭の葉が黄ばみはじめた。髪の先だけを少し赤く染めて、わたしは座っている。
選ぶことがすごく苦手だった。どうやって選んでき ....
むかし
世界はぜんぶさわれるとこにあって
世界がぜんぶ自分のものだった
いつからそうじゃなくなったんだろう
手に負えなくて
おそろしくて
おおきくて
でも
確実にうつくしい
いつ ....
花が枯れたから
僕はここにいるね
花が枯れたから
僕はここにいるね
咲いたらよぶから
咲いたらいくから
花が枯れてるうちは
僕はここにいるね
季節はずれの立ち枯れの薔薇の木と 似た者どうしで冬の日に二人
日が落ちて からむ寒さにあわす両手のひびわれがいつもより深い
何もなければよかったね なにひとつ持たずにここにいられたら
....
花巻から一時間半。単線列車にゆられて、彼のふるさとへいった。
空気がつめたく、おりたった駅からはおおきな山と、大きな工場がみえた。
祝日。人はまばらで、商店街のシャッターは七割がた閉まっている ....
あく
音は
男の
懐を
つんざいた
鳥は
はばたいた
女は
終わってる
息を
閉じる
見える
邪魔な
ものが
見える
いく
音は
男の
懐を
つんざい ....
おまえらの心が傾くところに
どんな花が咲くか見てやろう
それがこわいって言うのか
種も蒔いてないくせに
ぜんぶたべきれない
なんでも
半分くらい
時間がわたしを撫でたので
わたしはおとなになった
なにかをきめるたびに
時間がわたしを撫でたので
でも
なぜだろう
男の手が撫でると
すこし
子どもに戻る
ひと言の代わりに振った手のひらを降ろせずに一人振り続けている
わがままを言えば最後になるような気がして噛んだ唇から血
「海をみに」 だからといってくちびるがこんなに冷えるわけないじゃない
将来の展望というものが、希薄だなと思う。それは他人と話していて、感じる。
思い出というものも、同じようにうすぼんやりしている。未来のことも、過去のことも、ぼんやりとしていて、遠い。
二年後とか ....
おそろしくつめたいてとあしとことば。
わたしのすべてに染みるようだと思った。
あまいものばかりをたべた。なぐさめるみたいに
すぐに元気になる。
唇の色で血の味がするような泣き顔 ....
おぼえていられないのは
なぜだろうねえ
花をつみながら
そう言ったひと
なぜだろうねえ
そう言いながらも
ずっと一緒にいる
かたちをかえて
ついてくる
いくつものあれは
真っ白な血をはいて
7ほんめのあしで
かきまぜている
くうかんにねじを
さしこむような
それでいて柱を
なぎたおすような
すうじにきざ ....
天秤にのせられたかなしみは
脂を抜かれた豚の頭のようだ
穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴穴 ....
あなたのために
選んだ服を
あなたじゃないひとに
剥かれている
女なら
愉しまなきゃ嘘ね
ため息のなかで
耳鳴りのなかで
朦朧とした意識のなかで
ぼんやりといつもあなたが浮かんでいる
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