騒いでいるときに聞こえる歌声は
なんだか知らないメロディーは
ボートの中の水あかの貯まり水
捨てられるために汲みとられ
完全無欠のお殿様に捧げられ
走り出すのは蜜柑色したキリギリス
私たち ....
ああ
そういえば
と今頃思い出す
あとは
瀬戸の秋月だけだね
って言った日からもう
どれくらいの鴉が鳴いたのか
運河の景色は
みんな同じになって
しまった
七 ....
定食屋で父さんに会った
夏の自転車の帰り道
カツ丼は四百五十円で
ビールの中瓶がいまどき四百円だ
中年夫婦がふたりでやっている
僕は窓際に追いやられ
誰も悪くはないとただ一日つぶやき
....
明けない夜に悲しみを注いで
浮かぶ月さえ撃ち落とす勢いの
その怒りを私にぶつけてもいいから
自分を責めないで欲しいの
不安定な心を抱いて彷徨う夢は
とても怖くて怖くて仕方ないけれど
必 ....
いちぬけた
そう言える子には
勇気といえることのことはないのかも知れない
にいぬけた
負けずぎらい
さんぬけた
あせって失敗するなよ
とりのこされた
きみと ....
休憩室の扉を開くと
左右の靴のつま先が
{ルビ逆=さか}さに置かれていた
ほんのささいなことで
誰かとすれ違ってしまいそうで
思わず僕は身をかがめ
左右の靴を手にとって ....
テストの開始のチャイムが鳴った
ぼくは集中して
問題に取り掛かった
気合が入る
これでぼくの進路が決まるのだ
このテストはぼくにとって
大きな闘い
ぼくは強かった
どんどんと問 ....
果てしなく続く夜の闇が僕を押し出す
重い荷物だけを持って少しだけ遠くへ行く
辺りは知らない人達でぎゅうぎゅう詰めになる
座席にもたれた背中にピンと張り詰める痛み
体をダンゴムシのように丸め込み ....
貴方の前に門があります
幸福に通じる門です
門扉の向こうからは楽しげな音楽や
悦びに満ちた歓声嬌声が聞こえます
貴方は開けますか?
俺は開けることが出来ませんでした
萎えた四肢 ....
何から何まで
犬の日々だった
私の瞳孔はつねに濡れていて
咽喉の奥はいつも渇いていた
風にさらされて 乾きすぎた手拭いのように
水に濡れた掌を求めていた
何もかもが
犬のようだった
....
けれども。
わたしは日記をかきつづける
えんぴつをあるかせ
えんぴつをはしらせ
つかれたらよこたえて
はじまりもなく
おわりもなく
わたしは日記をかきつづける
ぺーじも ....
彼がいる。
此処彼処に彼がいるので、
落ち着いて眠れない。
彼は日暮れになると満ち満ちてくる。
丑の刻を迎える頃には、
遙か彼方まで彼で満たされる。
此 ....
いつもいつもいつも自分に非があると思って生きてきて
悪くなんかないよ、って不意に頭撫でられたら泣いてしまうでしょう?
どうして君はそんなにも優しいのだろう。
綺麗になりたいと思うよ。
はや ....
電車の中で、野菜ジュースを飲み終えて
空になったペットボトルを、足元に置いた。
駅に着いて、立ち上がると
すっかり忘れていたペットボトルを蹴飛ばして、
灰色の床をからから転がった。
....
夕暮れの 空を見上げて ただ一人
らららと唄えば ただ一人
お星さま 夕焼け空に ただ一つ
きらりと光れば ただ一つ
田の蛙 蜩の声 ただ一つ
いつの間にやら ただ一つ
いつの間にやら ただ一人
Gのベクトルを探してきて
今すぐに
わたしは ここで うたをうたっている
Fのサイレン拾ってきて
今すぐに
わたしは ここで うたをうたっている
Aのワルツ踊ってみせて
....
鉄の鳥よ どこみてる
鉄の鳥よ 無い眼でどこみてる
羽がなぜあるの
飛べないのにどうして空をみてるの
鉄の鳥よ ワイヤーの木は飽きたかい
鉄の鳥よ 空に還りたいかい
思い込 ....
しゃりしゃりの
あいすを
しゃりしゃり
きのすぷーんでくずして
しゃりしゃり
ふたりならんでたべる
リリコちゃんのかっぷは
つぶつぶふるーつあじ
ひかげのべんちにならんで
がーと ....
ねぇ、あんた。
怨念とか、憎悪とか、俺に見せてくれないか。
ストレス なんていう半端なものでも、
キレる なんていう薄っぺらなものでも無い、
もっと 濃密で、醜悪で、圧倒的に攻撃的で、
湯気 ....
セミよ
そんなに急ぐな
さっきから
空を見上げてばかりじゃないか
お前の
自慢のその羽は
ただ
アスファルトを掻くばかり
セミよ
今なら見えるだろう
あれが星座だ
私も昔 ....
一.
戦争を俺は知らないんだと はじめて思い知ったのは
キプロス島に ある朝突然逃げ帰った妻が いつか話した
占領の話 地下室の話 息を殺して
あいつが真似た マシンガンの ....
何の間違いか
朝にこの世に出てしまった
しかもよりよって
大都会の大きな駅の改札口にだ
どういう原理でなのかは
こっちにいる科学者たちでも
解明できていない
ともあれ
普段は生 ....
住んでいるアパートの階段で
小さな蜘蛛が巣を張っていた
それは何処にでもいる小さな蜘蛛で
だけれどもその姿は初めて見るほどに
頑なに黙々と同じ動きを繰り返し
{ルビ蜩=ひぐらし}の声 ....
車も誰も通らない夜の道
寝転んで空をみあげる
名前も知らない星々が
必死に光り輝いて存在を主張している
ふう と白い息をひとつ
天に昇る息は 人の魂か
昼間とは違う ....
君を抱きしめたり唇に触れたり
暖かさを知りたくとも
エンディングを迎えた世界
僕の隣に君はもう、いない
鮮やかな情景を映し出していたスクリーン
今では黒い背景に白い文 ....
だれか森の奥で
山桃の実を食べている
指のさきから尻尾のさきまで
赤く染まり
鳥のように生きている
魚のように生きている
ひと粒はひと粒のために
いっぴきはいっぴき ....
あなたは閉じていきますが
私は閉じませんから
どうぞ
緩やかな言葉だけを
まもなく
向日葵の咲く頃です
その向こうで夏草は
焦らすように香りを時には隠すので
好きですから
....
その通りには、いつも強い西風が吹いていた。強い西風に押されて街路樹の銀杏は傾いていた。バス停で次のバスを待ちながら、僕の身体も通りの向こうがわにある街路樹と同じ角度で傾いていた。傾きながら僕も、強い ....
たくさん並べた小瓶でも
何故か赤い花ばかりが残った
初夏の風はゆるく
容易く記憶の鍵を解いてしまう
なだめすかすような優しさで
麦茶を半分だけ残して
閉じた瞼に 涙を挟んで留める
....
異形である
僧が 泣くのである
静かに
念仏鈴の 音が
僧の 頭に かぶさるのである
ちぃん ちぃん
音が 響くのである
僧の 頬には
蛾が 張り付いておる
蛾は 手足がない
....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15