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萌え出ずる若葉の頃、
1匹の灰色狼が池のほとりに佇んでおりました。
なんということもなく、お腹いっぱいで、
ひらひらと舞い落ちる華筏が造る波紋を
ぼんやりと眺め、いつの間にか、
うつ ....
ぽっ、と生き物の匂い
振り向いたけれど
ここはもう教室ではなく
ただ頬に、そして体に、雨でした
生き物ではなく
春で融けただけの
ああ
かつて
純だった
まば ....
髪をゆるやかに洗う春
花たちを促し
か細くささやく夜
はらはらとお話
本は開いたままに
ゆらり眠り
ホルンの音が耳に
夢に妖精が踊り
そっと見ていて
あの歌
空と大地に触れ ....
春の日のベンチに腰かけ
ひらひらと舞い落ちる
桜の花びらを見ていた
肩越しに吹き抜ける風が
「 誰かの為に身を捨てる時
そこに天はあらわれる 」
と囁いていった
....
春のスウィッチはさくら色
澱んでしまった想いもほどかれる
咲いた咲いた春が咲いた
萌黄いろのそよ風に乗って
ほんのりと街が色づいていく
ふらふらと漂い気分浮上中
山からの冷 ....
ただ一度
抱き締められた
その腕は
遠い日の
引き潮のように
わたしを
つれていってしまいました
ここにいる
わたしは
こい を
しているのですか
こい を
してい ....
「ありがとう」という詩を書こうと思った
普段うまく言えない言葉が
胸の奥でうずくまっている
いま目の前にいる人に
何か理由をつけて言いたくなった
「ありがとう」
たった五文字の言葉を
僕は ....
筆先で湛えきれず
液体が
ぽたり、ぽたり、と
滴るので
両の掌をくぼませて、ふくらみをつくり
上向きに
すこしかさねて
それをすくおうとしてみるけれど
わずかな隙間を
液体はすりぬ ....
時には詐欺師が人を欺くように
わたしはあなたを欺きたい
飲めぬ程に苦い毒薬であっても
この世に喩えようも無い甘美さを
死を迎える程耐え難い苦痛であっても
五臓六腑に熱い何かが駆け巡り
....
手帳の中で森は
もう少しだけ明るかったろうと
右手の温もりを
むせかえる羊歯の
暗闇からたぐってみる
いつか満たされると思い
満たされたがっていた
月が
ま ....
亜光速で移動する阿藤快。
刀を振りかざし、
阿藤を追いかけるは、
阿刀田高。
その速度は、
もはや光速を超え、
時を遡り阿字本不生。
逃亡の果てに、 ....
「お土産は、何がいい?」と
聞かれたものですから
私、何とはなしに
「らっきょう」と答えたの
お父様とお母様が夕食後に奏でる
小気味良い音が好きなのです
ぽり ぽり ぽりり
....
花曇りの空に舞う胡蝶の
その透きとおった翅を
欲しいと思う
やわらかく笑う
ということを覚えたのは
いつの頃だったろう
新しいピンヒールが
足に馴染まなくて
ア ....
夜のネオンきらびやかな街の一画
あのストリップ劇場で出会った君に
僕はもう一度会いたかった
七色のミラーボールの下で
ピンクのランジェリーは様々に色を変え
君の肌もそんなよう ....
爛漫の春、日の光を一心に集めて
桜は夜に発光して花吹雪を降らす
花びらを拾い集めたその手
今は傘の花を咲かし
砕け散ったこころを
ジグゾーパズルのように
張り合わせる
欠 ....
舗装された道の
ペイントされた、とまれ
踏みつけられた骨の色の
見上げる季節の樹香
舞い散ってへばりつく
美しいという名の死骸
立ち上がれない
ペイントされた、とまれ
月が ....
のこされた風の中
四月がやって来る
この思いをのこしたままで
新しい輪に入らなければならない
記憶を背後の倉庫に閉じこめて
残酷な月が始まる
すべての匂いや音や色が
われわれを呼吸困難に ....
ターミナルに出ると
うす青い空が広がっている
通りは車で渋滞していて
そのまんなかでは 赤信号が
意味をさがしながら
点滅する
帰らなければ、と漠然とおもっていた
帰ろうとするその方角を ....
わたくしはなりたい あなたに
好きからはじめる花占い
かならず好きで終わるから
弘前のあなた 今年も綺麗に咲くのね
好き
嫌い
好き
嫌い
好き
幾度やっても ....
喧嘩の締めくくりはいつも
見えない一本の線だった
あたしがこっちで
のんちゃんはむこうね
そう言いながら
両腕を伸ばして陣地を分ける
ぜったいはいらないでね
ぜったい ....
がっこうのりかしつにはウーパールーパーがいます
ちいさいときはすごくかわいかったけどいまはぜんぜんかわいくありません
{引用=
....
陽子は、すっと敷居をまたぎ
玄関を通りぬけ門をくぐり
香気ある光の朝にあいさつをした
罪とはいつか
姿なく大地に影をおとすような
色なく野原に咲きほこるような
清々しい朝日 ....
切るの?
鏡のような銀 の二本の脚
{引用=
ひとつのものを 切るとふたつに
なります。ふた つになったもの
....
抜けるような蒼い空の向こうに
煌めく未来があると信じていた
薄紅色の蜃気楼のような架け橋
ピカピカの一年生といっしょに
駆け抜けていったのは希望の花
凍てつく寒さ ....
くたびれた頭を枕にあずけて
今日をほどいていく
僕の一日の終わりに
ながれはじめるイメージはいつも同じ
恋しいひとの部屋までの家路
急な坂の上、五階の角の窓、
高みに近づいて行 ....
星の遠めがねを峠に据えて
のぞき見る未来への深淵
みんななぜか震えていたね
体温を奪ったのは
外套をはためかせて
丘を吹き昇る風ではなかったんだ
風のゆくえを仰ぎ見る先に
透明に ....
春は優しい素顔を何処かに隠し
コートのすそにまとわりつく
うつむいて
泣きべそかいているのは誰のせい
そんな街の片隅でも確かに芽生える
やるせない泣きべそ顔の奥で
見つけたもの
....
半年振りで姉は嫁ぎ先の富山から
5歳の{ルビ姪=めい}を連れて帰っていた
家族{ルビ揃=そろ}って
僕の出版記念すき焼パーティーをするので
今朝の出勤前母ちゃんに
「 今日は早めに ....
墓標に刻んだ自分の名前に背を向けて
てのひらはいつまでもとどかないのです
生きることの意味を知らされないこぶしが
硬く握られたその先で照らして
夕日が水平線を越えて旅立つこの場所で
朝日 ....
音楽好きな老人ホームの所長と
週に1回演奏してくれるピアノの先生と
介護職員の僕と
レストランで夕食を共にした帰り道
最寄の駅に先生を車から降ろした後
夜の{ルビ空=す}いた国道を ....
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