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終着駅のホームの外れ
赤錆びた列車止めの向こうに
騒ぐ荒ぶる海が聞こえる
そして 呼んでいる
(ここには何もない)
行く人は海
来る人は海
大人は波頭で
子供は飛沫
終 ....
彼女がその上半身に密着していたセーターを脱ぎ始めたら
火花のように星星が流れ出てしまった
彼女がその束ねていた黒髪の水門を解いたら
波のように夜が溢れ出してしまった
忘れていたことを
ある日ぽっかりと思い出す
潮が引いた砂地で
貝が静かに息をしているでしょう
見ればそこかしこで
生きていることを伝える
そんな穴が開き始めて
私の足裏とつながる
....
買い手のつかない
あの家のガレージに
クリスマスツリーが眠ってる
誰も開けない
シャッターの内側の
冷たく積まれた
スタッドレスタイヤの横で
去年の飾り付けのまま
彼女はラ ....
1
やさしいきみはあまやかな声の中に居た
水のせせらぎの癒しにも似た音色
きみは水で形成されたうつくしい水精(ナンフ)だった
ぼくはひとつの水槽の中に入るように きみのなかに熔けてゆ ....
夜の窪みに熱、流し込む
冷える体に脳髄羽交い締めにされ
それでも何とか意識保ち
熱流し込む、夜の窪みに。
(幻の子供たち、
布団の周りを飛び跳ね
私の愛情は何処にも繋がらず
生き ....
霧吹きのような雨はふかみどり
胸の奥まで吸い込んで
わたしは森になる
しばらくすれば
じゅうぶんに水を含み
耳を傾ける
彼らは
永遠を指し示すこと ....
あなたのために
死んだ妻がベーコンを焼き
熱いコーヒーをカップに注ぐ
あなたは匂いに誘われ起き出して
何もないテーブルを見つめて
新聞を取りにいく
ベーコンを焼いてパンを切り
コ ....
銀色に光る水しぶき
小学校の
プールが見えた
陽炎の中に
まぶしく輝く森
まるで
他人事のような
暑さの記憶
いつまでも 耳の奥に
歓声がこだましていた
一体
何 ....
水族館は
ひどいと思うの
ちっこい箱に
魚の一生閉じ込めて
全速力で泳いだら
ぶつかるような彼らの居場所
冷たいガラスに手を当てて
同じ軌道を病的に泳ぐ
アザラシの目を見つ ....
淡い光の中のライト・ブルー
誰もいない湖はピーコック・ブルー
風にそよぐ花サルビア・ブルー
静かに揺れたミント・ブルー
あの広い空はスカイ・ブルー
雲の流れるままにセルリアン・ブルー
....
入り口の方にあなたが立っていたが
出口の方にも同じようにあなたが立っていた
べつに邪魔をしているわけでなくただ立っているだけのこと
そういえばそのような薬物をわたしはどこ ....
柄にもなく花を買った
10ドル
病室であいつは
5歳のように寝てた
俺に気づいて目を開けた
窓の外はグレー
冬らしい雪
古タイヤを囲み
暖をとる男たちの
煙
....
いつだっただろう
眉間の裏側の暗闇に
地図が置かれているのに
気づいたのは
等高線もない
記号もない
縮尺も方位も分からない
その地図は
日々の出来事に
カサコソとなびい ....
描くことができない白
書くことができない白
語ることができない白
ただ観ることしか許されない白
白と呼ばれることすら拒絶する
月の光の指先
月の光の吐息
....
原田さんはクラスメートだ
原田さんは園芸部の副部長だ
原田さんが幽体離脱を繰り返すのは最近拾ったオッドアイの子猫のせいだと言う
原田さんはイレギュラーバウンドする
どこへ行ったのかわか ....
オレンジを切る
六等分に切る
大きいのと小さいのができてしまって
やっぱりさ
みんなおんなじってむずかしいね
大きいのをあなたに
そうおもってよくみると
オレンジのかたちが
ま ....
夜、ベッドの中で
妻はいつもより濡れている
ぎゅっと抱きしめると
ぼくの腕の中で
あっけなく崩れていった
豆腐だった
水切りが足りないことに
どうして今まで
気づいて ....
八重桜
そこで枯れていくのか
{ルビ雪洞=ぼんぼり}もとうにないその公園で
指きりをしましょう
大切なことを忘れないように
私の手のひらにあるものの
かけがえのなさを
忘れないように
あなたを一生かけて幸せにするという
決意を忘れないように
子供 ....
眠っているなんて嘘さ
眠っている時は
みな死んでいる
でも
それじゃ怖いから
眠っていることにしておくのさ
子守唄は
眠りの友達ではなくて
死の隣人だったのさ
死を知って ....
詩のすぐ傍に
時折死があるのは
詩を読む人が
死のことを知りたいと思うからです
詩のすぐ傍に
時折希望があるのは
詩を読む人が
絶望のなかでも生きていかねばならないと知っているからで ....
私が
こうして
文字を綴るのは
この
鉛筆の芯がなくなるまでのこと
あれ
もう芯がないや、と
気づいてしまうその時を
想像すると
やはり切なくなくなるけれど
きっとその朝は
....
二月の天空は
コートも着ないで
冷えるのにまかせているせいか
時々
くしゅん、くしゅしゅんと
くしゃみして
そのたびに小さな雲をまきちらしている
いや、雲ではない
あれは羽じゃない ....
王国に
オカリナの音が響き
それを合図に
門が開かれました
死者にはもう悲しみはないのです
先に逝ってしまったことも
とりたてて
悲しいことではないのです
それはこの世に生きるもの ....
たねは
ねむっている
どんなゆめをみているのだろう
たねが
かぜにとばされた
すこしふあんになってふりかえる
たねのきおくは
らせんのようにつながっている
たねは
たびを ....
私の頭に
時々帽子がぷらりと帰ってくるよ
遠い昔
だれかが
私の髪の毛をくしゃくしゃっと
した時の
あの切ないような感触を
私の頭は覚えているよ
みんな
自分のことだけで精一 ....
子供の頃
古めかしい三面鏡が
部屋の隅にありました
木目模様の板に貼られた
三枚の鏡はそれぞれに
蝶番によってつながっていて可動式でした
普段は折りたたまれているのだけれど
ぱた ....
ぽっかりあいた
空洞は
ただ ひたすらに
まっている
「おかえりなさい」と
言う時を
夜の孤独は
しんしんと冷え
柱時計が時を刻む
ぽっかりあいた
スリッパの
空洞の ....
なんのために
歩くのか
それが死への行進であっても
もはや
退くこともできず
ただ祖國の土を踏むことだけを
夢見て
凍土を踏みしめて行く
泣く力はとうになく
乳さえ吸う力もない
赤 ....
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