昨日の仕事を終えた帰りのバスで
( 毎日々々同じことの繰り返しだなぁ・・・
と心に{ルビ呟=つぶや}きながら疲れてうたた寝していた
今は亡き・好きな作家のE先生が
ぼんやり現れ
....
プラスティックケースの上に
並んでる、ふたつのせっけん
小さいほうが、お婆さん
大きいほうが、息子さん
「 生まれた時は逆だったのに
わたしに向かってハイハイしてた ....
雨が降る日に鎌倉の寺に行き
賽銭箱に小銭を投げて
ぱんぱんと手を合わせ
厳粛な顔つきで
びにーる傘をさしながら
帰りの細道を歩いていたら
濡れた路面につるんとすべって尻餅ついた ....
竹筒の側面の穴に生けた
{ルビ秋明菊=しゅうめいぎく}の白い花々
境内に奏でられる{ルビ雨唄=あまうた}に耳をすまし
そっと{ルビ頭=こうべ}を垂れている
{ルビ些細=ささい}なこと ....
久しぶりに訪れた{ルビ報國寺=ほうこくじ}は
雨が降っていた
壁の無い
木造りの茶屋の中
長椅子に腰かけ
柱の上から照らす明かりの下
竹筒に生けた{ルビ秋明菊=しゅうめいぎ ....
遠い昔の{ルビ故郷=ふるさと}で
おちんちん出して川を泳いだ子供の頃を
懐かしそうに語るO{ルビ爺=じい}さん
空の上からそっと見守る
若き日に天に召されたO爺さんの奥さん
....
お婆ちゃんの細い手が
絵葉書に描いた
美味しそうなまあるいピーマン
筆を墨に浸した僕の若い手は
「 いつも ほんわか しています 」
と曲がりくねった字を余白に書いた
お婆ち ....
壁に{ルビ掛=か}けられた
一枚の絵の中の蒼い部屋で
涙を流すひとりの女
窓からそそがれる
黄昏の陽射しにうつむいて
耳を澄ましている
姿の無い誰かが
そっと語り ....
気がつくとその{ルビ女=ひと}は
明け方の無人列車に乗り
車窓に広がる桃色の朝焼けを
眠りゆく瞳で見ていた
列車がトンネルに入ると
全ての車窓は真黒の墨に塗られ
闇の空間を ....
北鎌倉の山寺の
{ルビ境内=けいだい}を歩くと
左手に緑色の池が現れた
小石を一つ拾い
池へ投げる
緑の{ルビ水面=みなも}の真ん中に
水の花が開いて
広がる
....
夏の夜に
いくつもの太陽を揺らすひまわり達
仕事帰りの疲れた男に
わさ わさ わさ わさ
大きい緑の手のひらを振る
日々の職場では
密かな善意を誤解され
....
雨の降る夜の路地裏を
酔っ払いの男は一人
鼻歌交じりに
傘も差さずに歩く
涙色の音符を背後に振り撒いて
雨は降り続き
路上に散らばった音符は濡れて
よろけた男の後ろ姿は ....
人々が漏らす{ルビ溜息=ためいき}で
街の輪郭が{ルビ歪=ゆが}む土曜日の夜
場末の Bar の片隅で
翼の生えたアダムとイブの人形は壁に{ルビ凭=もた}れ
虚ろな瞳で古時計をみつ ....
パソコンが
空っぽの箱に見えてしまったら
部屋の明かりを消して
Tom Waits の「GRAPEFRUIT MOON」を流そう
グラスに入れたぶどう酒を{ルビ喉=のど}に流せば
....
{ルビ埃=ほこり}がかったランプの下
赤{ルビ煉瓦=れんが}の壁に{ルビ凭=もた}れ
紙切れに一篇の詩を綴る
クリスマスの夜
遠い昔の異国の街で
一人の少女が売れないマッチに火を ....
鏡に映る「私という人」は
だらしなく伸びた髪を
ばっさ ばっさ と刈られていく
( 少しくたびれた顔をしてるな。
( いつのまに白髪が混ざりはじめたな。
幼い頃
{ルビ日 ....
自転車に乗って
歩道に沿った白線の上を走っていた
アスファルトの割れ目から生える
しなやかな草々をよけながら
背後から
{ルビ巨=おお}きいトラックのクラクションが聞こえ
....
久しぶりに巨人戦を見ていた。
0点に抑えた上原と
勝越しホームランを打った二岡が
試合後のヒーローインタビューのお立ち台で肩を並べ
アナウンサーの決まり文句の質問に答えている。
( 二 ....
地面には
ぺちゃんこのかまきり
おどけた鎌を振り上げて
お前は偉いな
踏みつぶされても
踊ってる
幾枚かの{ルビ花弁=はなびら}が舞い落ちる
淡い光のあふれるいつかの場所で
あの日の君は
椅子に腰かけ本を読みながら待っている
いたずらに
渡した紙切れの恋文に
羽ばたく鳥の ....
A には ○ が正解に見えていた
B には △ が正解に見えていた
お互いは{ルビ頑=かたく}なに抱えたバケツから
激しく水をかけあっていた
ずぶ濡れなふたりの間に
両 ....
旅の終わりの夕暮れに
車窓の外を眺めたら
名も無き山を横切って
雲の鳥が飛んでいた
{ルビ黄金=こがね}色に{ルビ縁取=ふちど}られた翼を広げ
長い尾を反らし
心臓の辺 ....
( 青年と初老の母は、
( 寺の小さい庭へと入っていった。
小石の砂利を敷いた庭に
細枝と葉影は揺れて
木作りの小屋に坐る
首を{ルビ斬=き}られた観音像
優しい手に ....
早朝
{ルビ浴衣=ゆかた}のまま民宿の玄関を出ると
前方に鳥居があった
両脇の墓群の間に敷かれた石畳の道を歩き
賽銭箱に小銭を投げて手を合わす
高い木々の葉が茂る境内を抜けると ....
午前一時二十分
列車の連結部近くの狭い一角
床に腰を下ろした青年は
震えるドアに凭れて眠る
( 手すりに{ルビ柄=え}を引っ掛けて
( 吊り下がるビニール傘の振り子
真夜 ....
夜の海に浮かぶ一艘の船
荒波に揺られ
横たわる観音菩薩の白い体の上に
飢えた犬の垂らす
赤い舌
休憩室の扉を開くと
左右の靴のつま先が
{ルビ逆=さか}さに置かれていた
ほんのささいなことで
誰かとすれ違ってしまいそうで
思わず僕は身をかがめ
左右の靴を手にとって ....
東の空に日が昇る早朝
工事現場の低い土山の頂に
クレーン車が一台
運転席には裸の王様が{ルビ居座=いすわ}っていた
黄色と黒の{ルビ縞々=しましま}の
柵に囲まれた小さい世界の ....
出勤のバスの中
ぷ〜んと近づいた{ルビ蚊=か}を
合わせた両手で{ルビ潰=つぶ}す
指にこびりついた
ご遺体を
どこへやろうか
置き場に少し困って
床に落とした
( ....
机の上に三冊の本を並べる。
一冊目を開くとそこは、
林の中の結核療養所。
若いふたりは窓辺に佇み、
夜闇に舞う粉雪をみつめていた。
二冊目の本を開くとそこは、
森の中のらい ....
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