浅瀬に人影がうかんでいた
 ゆらゆらと動いているのは髪の毛ばかりで
 まだ生きていた父とふたり
 はるか野の際をいく船に手を振り
 斜面の草をゆらす風に
 白い花びらをちぎっては散らした
 ....
 反転された文字列から入口を探す
 隠された仮想領域のことばを拾いに
 ほの白い闇に明滅する極小級数の記号は
 ところどころ渦を巻いてわたしを惑わせる
 黒色星雲の配置にならい なぞるカーソル ....
 わたしたちのうつくしい夏は過ぎ去り
 ただ ぎらぎらとした陽炎ばかりが
 道すじに燃え残っているけれど
 二度とあうことのない確信は
 耳元で鳴る音叉のように
 気だるい波紋をいくえにも広 ....
  翻る黒髪 目蓋打つ白き飛沫
  おののく好奇が船上を支配し
  まさに航跡に雪崩落ちようとするとき
  はるか前方
  絶えまなく湧き立つ海の回廊から
  ひとつの島影がせり上がる
  ....
    弔いの言葉が捌かれて
    彼らはそれを咀嚼する
    通約された痛みの淵に
    紫紺の{ルビ輪=ループ}を描きながら
    桜は
    自らの闇に向かって落下する

 ....
 草の葉を噛みながら進んだ
 狡猾な蟐蛾の三日月の下
 浸潤する夜の裳裾とたわむれ
 潮風に臭気をさらして干乾びる
 蛇行する隘路の果てには
 屠られた白き幽愁
  
 高波に洗われるト ....
 赤面す 落ち込む 媚びる 自惚れる 恋の{ルビ醜態=フェイズ}の罠にあらがう

 人恋し 初冬の夜半のニルバーナ 白磁のカップ一気にのみ干す

 優先席お譲りください 不自由なこころの女がこ ....
 世界の片隅で生まれた風は
 猫柳の枝を揺らし
 水辺に群がる蝶の触手を掠め
 乾いた轍の上を砂塵を巻き上げながら
 叫びと響きを翼にのせて
 つむじとなって舞い上がる
 鋭いまでの切っ先 ....
 生きていること 死ぬことの不思議
 さなぎのような体の中に 
 閉じ込められた私の意識
 息を吸うたび膨らむ胸郭 
 心地よい空気の移動
 耳の奥で脈打つ血のうねり
 私にしか聞こえない ....
 薄闇のなかで煙っているのは
 発光するわたしの、産毛にかかる氷雨
 ヒールを脱ぎ捨て、アスファルトに踏み出す素足は
 ぴしゃり、ぴしゃり
 水溜りに滲んだネオンを攪拌する
 ぐっしょりと水 ....
  同じ一つのものを                   
  別々の名前で呼んだ咎によって           
  罪なき多くの血が贖罪の地に流され        
  同じ一つの光によって ....
 夜の底を穿つ水音
 眠れぬ魂のノクターン
 聞いているのは無欲な死人
 潰えた昨日を懐かしむ
 夢路の扉は閉ざされて
 明けない夜の牢獄で
 呻いているのは咎人ばかり


 その頃 ....
  はじけた言葉の勢いで  
  ドアを蹴って飛び出した 
  夕暮れの空に浮かぶ金星    
  ポケットには月の石


  言わずにいさえすれば  
  通り過ぎた一日
  ひと言 ....
  五月の青い闇の中
  私はか細い少年になり
  夢の迷路へ踏み入った


  白いうなじに風を受け
  はだしの足で土を蹴り
  煙る街灯はすに見て
  ネオン流れる色街へ

 ....
  箪笥のいない夜更けに
  わたしは廃屋に棲む四つ目と会う
  四つ目を思うとなんだかせつなくて
  夕暮れ時からたまらない気持ちになる 
  廃屋が見える路地まで来たら
  心臓が喉元ま ....
  箪笥はいつも 夜更けに戻る
  鼻歌まじりに 廊下を歩き
  暗い風呂場で くしゃみする
  畳ニ枚分 離した布団に
  ドーンと倒れて いびきをかく
  酒の臭気に 眠りの鎖が
   ....
   私の中で歌っていた
   リズムはもう死んで
   あとには振子とぜんまいが
   解体工場の鉄くず同然に
   ゆっくりと瞬目しながら
   光の中に溶け出していくのだった


 ....
  (それは罰でしょうか
   それともただの汚辱でしょうか・・・・・・)


   樹の幹につと掛けられた梯子に登ったのは
   愚かさでしょうか
   それとも下卑た好奇心でしょう ....
     あなたの腹黒い証明を
     鏡に映して見せてください
     切り開かれた瞳孔は
     直視するのを嫌うでしょう


          冷たい夜の水底へ
      ....
     ごめんねという言葉 のみ込んで
     ただ君の暮らしの一コマ 思い浮かべ
     何もしてあげられないこと 少しだけ恥じ
     あとはもう 口もきかずに
     別々の景 ....
       ブラインドの隙間を

       汗を滲ませて 
             
       這いのぼる月



       窓辺の寝台の上       

    ....
      マンジュシュリ・ミトラの死んだ朝
      わたしは聖河で衣を洗った
      水の底でゆらめく草が
      女の黒い髪の毛に見えた
      空はおぼろな光に満ちていた ....
   暗いことが悪いことだなんて誰が言ったの

    友だちのいない子をいじめたのはだあれ

    引きつった笑顔を作ろうともしない君

     暗い瞳で虚空を見つめる君の横顔

 ....
     心が壊れた夜には
     甘い砂糖菓子をたべて
     満ちてくる潮におぼれる
     飽和した呵責を中和するために


     街の背骨の上に
     赤い月が浮か ....
   
       なぜだか自分は
       昼と夜のあいだの薄暗がりにいて
       テレビから流れる声を
       聞くともなく聞いている
 

       闇が部屋 ....
月夜野(25)
タイトル カテゴリ Point 日付
砂景自由詩8*07/6/6 21:03
端末自由詩6*07/5/23 23:47
暗渠自由詩17*07/5/17 20:32
廃墟島へ自由詩7*07/5/11 23:35
喪花自由詩13*07/4/19 22:01
匍匐の夜自由詩20*06/12/19 23:04
苦恋五首短歌11*06/12/18 21:56
風を忘れた君へ (Ode to a nerd)自由詩13*06/12/16 14:00
私は死ねない未詩・独白15*06/12/14 22:40
水没都市[group]自由詩14*06/12/12 22:06
残毀 自由詩14*06/12/11 19:23
眠れない夜のために自由詩13*06/12/10 22:39
14の夕暮れ自由詩11*06/12/10 12:11
色街幻想[group]自由詩18*06/12/7 22:59
幻想譚(Mermaid's dream 2)自由詩16*06/12/4 21:44
箪笥(Mermaid's dream 1)自由詩15*06/12/4 21:38
時をおくる自由詩17*06/12/2 22:28
寓話自由詩15*06/12/1 23:08
秋空の落下自由詩9*06/11/30 17:08
ほんとうに さようなら自由詩10*06/11/29 23:57
発熱の夜自由詩10*06/11/28 23:07
聖と死と自由詩7*06/11/28 14:45
君が好き自由詩9*06/11/26 22:28
満ち潮自由詩9*06/11/26 17:42
夕景自由詩6*06/11/26 16:55

Home
0.11sec.