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目に鮮やかな色たちの
間に間に空のかけらが見えて
深まる秋を吸い込めば
他の誰でもない僕がひとり
ああ こんな燃えるような色をして
今年もまた 瞳の奥に小さな手形を残していくのか
....
まるでこの世の始まりから
僕を待っていたように
茶色い床に君の
十二枚の写真が散らばっている
秋の風が窓の外で
穏やかにはためく午後
僕はグラスに冷たい ....
私の中でなにかが優しく壊れ始めた
釣瓶落としの夜の中
独り佇みながら
メランコリーな果物を潰した
私の中でなにかが優しく壊れ始めた
写真をちぎり
独り凍えながら
写真を燃やし暖をとる ....
母に盗られた心臓を
奪い返そうと
鋭い刃の青春を掴み
わなわなと震える声で
もう愛してください
もう愛してくださいと
猛暑日に冷たい汗を流して
泣きついている
その腕は簡単に解かれ
....
こんなにも焦がれた
秋の黄や茜や擦れた緑は
「それらに不必要な色なんだ」と
中学の頃 化学の教師が親切そうな顔で言っていたのを何故だか思い出していた
あんなにも愛でていた色は
命の光彩で ....
猫を撫でたあとで
優しさは書かない
返信を待ち焦がれても
淋しさは書かない
軍鶏鍋を食ったからといって
美味しさは書かない
マニュアルをなぞったつもりで
愚かしさは書かな ....
いつの頃からか
崖の上から見下ろす
ささくれだった土の
触れると血が止まらなくなるような
眼前に広がる荒野の地表
反吐が出る光景を
瞬きもせずに見つめるのが
当たり前だと思っていた
震 ....
さてどうしようか
ぼくらは
歌でもうたおうか
絵でもかこうか
詩でもよみあげてみるか
恋でもしようか
旅にでもでようか
金もうけでもしてみるか
さてどうしようかぼくらは
何だ ....
なす顔の君はおっとりとして
喋るのもたどたどしいから
笑みがこぼれてしまう
本当は嫌なこともいっぱいあるだろうに
けれどそのなす顔で私は気づかされ
嫌なことも忘れ
....
僕らは泣いて
僕らは笑うんだ
僕らは食べて
馬鹿みたいに必死に生きるんだ
意味も知らないのに
僕らは他人を蹴散らして
踏み台にして
必死にか細い糸に縋って生きるんだ
僕らは笑うんだ
僕らは泣くんだ ....
郷愁を誘うメロディーが
滅多につけないカーステレオから流れ出すと
僕の空は92年のあの時に戻るのです
僕が故郷と呼ぶ場所は産まれた土地のことではなく
自我が形作られた父の転勤先のことで
....
およそ百年前
大学二年の一人息子を交通事故で亡くした時
既に寡婦であった資産家の江古田夫人は
今度の悲嘆には到底耐えられないと思った
そこで息子のDNAを研究機関に預け
一年半後
スーパー ....
熱気球が関東地方の上空を
ゆっくりと飛ぶ
放課後のように
見損ねた夢のように
今日は世界のいたる所
一面の朝でしょう
と、ラジオの人が朗らかに言う
きみは台所で何か千切 ....
夕焼けに飛行ねこが飛んでゆく
夕焼けに飛行ねこはあうのだそうだ
赤く熟れたトマトとクリームチーズくらいに
飛行ねこは大きな群れをつくり
それはまるでひとつの地平線を形成している ....
鳩尾から飛び立つ
フラミンゴの羽音を
君に
聞かせてあげたかったけれど
仙骨から這い上がる
虹色の蜘蛛を
君に
見せてあげたかったけれど
せり上がる甘酸っぱい海面で
何を ....
神様に抗議したら
死神のライトバンが横付けして ....
夜になるとみえる星は
きれいだけど
さわれないの
だれのものでもなくて
だれのものにもならなくて
あたしがみたって
怒らなくて
相手にもしなくて
たったふたりきりみたいに
星とあたし ....
夜の闇にまみえる強がり
朝の光を拒もうとするまどろみ
どうするんだどうする
ずるずると重い足をひきずって
まだまだ迷ってみるのか
悲しみ苦悩
そのようにみえるもの
どうするんだどうす ....
信号待ちをしている間
わたしたちは話をしました
空は曇っていました
とても長い信号でした
三十メートルくらいはありました
話も長くなりました
けれどわたしたちの身体と言葉では ....
その工場には
淀むことのなく
エルガーの旋律が流れる
木管を低く震わせる安定した音色
勇壮な大河に抱かれる
誰彼の何気ない表現は
神々しい余韻を含み
小さなアイデアは
淡い発明の光 ....
風が冷たくなってきた。
クリスマスも近いな。
電飾された家々の
そのむき出しのコードが日本らしくて好きだ。
足早に駅にむかう道、コートの襟を立てる。
何処からきたのか
スーッと北風が ....
たとえば曇天の松戸
ゴミ焼却処理場の高層煙突
ピカリぴかりと位置を知らせる
ピカリぴかりと存在を知らせる
岩瀬無番地という住居表示
表示不要の権力装置
存在を表示しない
昔陸軍工兵学 ....
山本さんが一人でぽつんと
落ちていた
落ちちゃったの?と聞くと
落ちちゃったよ、と山本さんは笑った
重力には勝てないよ、と笑った
いつか勝てるといいね、と僕も笑った
秋の空は晴 ....
1)
庇には樋がなかった
コールタールの屋根をはげしく打って
雨は黒い路地に、まっすぐ流れおちた
ひくい窓を大きくあけて
わたしは雨の音を聴いたはずなのに
路地に敷きつめられたコー ....
下司な笑い声と垂れ目が癪に障るから
刺そうと思って
松葉を
ぎんなんに
豚鼻出っ歯が苛つくから
刺そうと思って
USBを
パーソナルコンピュータに
少し前から
光合成をしなくなった
薄らいでいく光を
見過ごして
遠ざかっていく水を
遣り過ごして
余った二酸化炭素を
夢にすり替えることもできずに
ただ乾いていく
カサコ ....
子どものころに左手を切った
人差し指と親指の間から掌の中央にむけて
傷口から桃色の肉が見える
手を動かすと痛い
消毒するために
ヨードチンキを垂らす
滲みて痛くて
畳の上を海苔巻きに ....
今宵、狂気はにべもなく
ひどく静かにやってきて
藍の窓辺に、頬杖をつき
淡く虚ろに、佇むばかり
声を荒げることもなく
涙を湛えることもなく
笑み拵えることもなく
白い孤影をひたすらに ....
おおらかだ
笑い声って おおらかだ
笑い声に出会えた日は 幸せだ
高台にある 小学校に
ソプラノの歌 響いて
ひざしが からっぽになる
水は だしっぱなし
生けすの 魚がはねた
....
どこかで誰かが泣いていた
悲しくて
それとも恋しくて
※
悲しさに理由なんていらないけど
流した涙はしょっぱくて
それでいて仄かな甘さなんて感じてしまう
なぜって
....
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