うすい羽のはえた夜行バスにのって
月あかりにかがやくいくつもの雲をこえて
あいした理由も
あいされた理由も
すべてあなただったから
いつもの街角、いつものバス停
やわらかな猫の手に夜の ....
写真とは
干乾びた
製造工場の正門の
錆びたポストに居つく手紙の重さで
天を劈く煙突の
かたちを得たけむりが笑っているようなもの
めくれば
白い鍵穴もかすむ季節に
「どこにもいけない」 ....
ゾウさんの鼻先あたり
あるべきものが無いというか
腰の高さでぐるっとフェンスに囲われていた
ご丁寧にも幼い好奇心を遮るシートまでかぶせてある
わざわざペットを囲いのなかへ入れて
おし ....
祭囃子を抜けると
そこに空白があった
二抱えはありそうな大きさで
私の祭りは勢いよく吸い込まれていった
振り返ると
ソースの焦げる匂いと
屋台の灯りがあった
外灯に虫が集まり
....
記憶の破片が降る
僕の肩に、額に
瞳に
鋭い角を立て
時の欠片が容赦なく降る
夕陽を浴び
舞う
髪に散る雪のごとく
溶け
傷を残さず
僕を傷める
過去の破片が降りかかる
眼の上 ....
レモン色のチューリップが
それは雨天のせせらぎであって
顔は飛沫(しぶき)をはじいていたのです
あなたは最初の花ですか
植物図鑑のはじめですか
あなたは「赤」のはずなのに
あなたの夢み ....
鳴りものに そそがれる蜜
削がれる 鉢植えの暗闇
黒い雪崩に つかまる鳥の爪
横切る 銀色ワイヤー
透ける板 はずさないで
みたくないなら みないで
あんたはカスカス
うちはスカスカ
ふたりそろおて、ほな、さいなら
渇く忘れ去られた庭に光があった
錆びついた鉄柵はきしみを告げる
ほしいままにはびこる夏草が
風を連れて通り過ぎてゆく
忘れ去られた庭の
土は乾いて陽盛りだけが
影を作り 思い出を形 ....
100822
本物件は建坪率を超過しており
同規模での建てかえはできません
なんじゃこらと電車乗り換え
お客様は帰られた
中古の一戸建てを売 ....
思い出の扉は
天瓜粉
慈愛に満ちた、そんな日々
あなたがいる
汽笛がなって
レモンバアムのかおりがひろがる
わたしはいない
鰹節の振り子のように
首を捜しにでる
あなたとわたしは
しばらくたちどまる群集のどこかで
(それもち ....
虫取りの子たちが
アジサイの茂みに見え隠れする
夢の色を追いかけて
おおきくなってしまった
ぼくは
その動きをなぞることができない
思い出して叫んでみても
ブランコの揺れと ....
とまどったかたつむりたち目の前に信号がまだ青にならない
くちびるの荒れぐあいさえ忘れてる降り叩く雨呼吸の中に
いたむのは見とれすぎた胃ぶくろで蒼ざめるのはあなたの番だ
以上を持ち ....
もめんの色
出会い
かりそめ
息をつく
蒸気をとおして
戻すつながり
熱さまし
衣ずれ
目的地
季節と、契る
ちらばった雲に
指をさして
ぷすぷすぷすぷすと
情緒のねんりょうが切れかかっていて
空を見上げたら
ライオンの むれ
きれぎれにはなればなれ
とげを自分で取ってしまいました、引っぺがしたところからおもいでが樹液 ....
黒ずんだ木の床にそっと頬をよせる
インクと機械油の匂いが染みついた床は
使いこまれた年月を
なめらかな感触でつたえてくる
古い印刷工場をリノベーションしたと
誰かが言ってたっけ
そ ....
エシャレットを植えたのだが
ワケギと見分けがつかなくなった
どうでも
日本の食卓にあがるエシャレットは
ラッキョウに土寄せをして
軟白栽培し若採りしたものらしい
タマネギもペコロス ....
荷造りをしようとものをどかしたら
なにがあったかわかるみたいにホコリが積もっていた
まんまるのホコリの輪
「たしかに君はここにあったんだよ」
鉛筆立てに向かってわたしはそんなことを言ってみる
....
ひしゃげたわらの一筋に
薄い雲から来る太陽光の残滓と
飛び交う電子の温度がこもっていた
温かい立体だった
わたしは妹の手に
秋の暮れ方の軽さを載せた
それが十年の
記憶だった
....
あの時
私が走ったから
今ここにいる
この空気 この人たち
たった一瞬の巡り会わせだ
それなら
ありったけの幸せを感じよう
たとえば今を悩んでいても
悩 ....
蜻蛉が雫に映るとき、
雨の一粒一粒に
空は宿る。
濡れては飛べぬその羽は、
悲哀の純度で透きとおる。
雨の最後の一滴が
蜻蛉の羽に落ちるとき、
無数の空は連なって
ひとつの空を ....
―朝
ビルの階段を降りて行くと
何かの軋む音がする
たくさんの
時間の積み木が
押し合い
こすれ合って
順番を決めている
―歩道を歩く
山桃の並木が
慌てて生え ....
遠目には黒い紐に見えた。近寄ってみると蛇の子供
だった。体長は二十センチくらい。JR新幹線駅の東
口を出てすぐの、駅前広場のフロアタイルの上に横た
わっている。尻尾の後ろの、コンクリートの ....
引力が、
ある
きみと、ぼく
地球と 月
引力がある
ひきあう
すべては ひきあう
きみに ぼくはひかれる
きみも ぼくに 月に
....
くらくらゆれる視界のすみっこで
かみなりが光る
くらやみがやわらぐ
やさしい雨のにおいがする
失いかけてる聴覚のすみっこで
ちりちりと雨の音は跳ねて
どこにもいけない
かなしい雨 ....
微笑みや涙を分かちあった人も季節も
今は移ろいゆき 途方に暮れ一人佇む
そんなとき海馬を優しく揺り起こされ
私は 翼ある者に呼び醒まされるだろう
人生の黄昏を ごくゆっくりと咀嚼しながら
....
僕は、毎朝
市民農園で育てた
形の悪いニンジンで笛を作る
ウサギたちが楽しみにしているのだ
僕は、ウサギたちの喜ぶ顔が見たくて
苦心して笛を作る
リードのところなんて、ウサギたちの
....
うにょん
君が言う。
うにょん
好きだ。
声が良い。 音が良い。
うにょん
幸せな気持ちになる。
うにょん
いろはに こんぺいとう
....
灰色にくすんだ町で
お前は生まれた
まだ肌寒い早春
せわしく走る 野ねずみの
存在のように
ひっそり生まれた
野原の真白な花も
あでやかな 垣根の緋薔薇も
お前の瞳を待ち焦がれ
....
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