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古本屋に僕が売られていく
僕は父さんの続編だった
父さんは名作で
何度も増刷されたけれど
今では内容が古くなってしまった
何刷目かの父さんと同じ
古本屋の書棚に僕は収められる
初版の時よ ....
僕の訃報が届いた
過去の僕から僕宛に
確かに僕は死んでいた
魂を添付して返信すると
僕は静かに目を覚ます
とても狭いところ
近くでお経の声が聞こえる
自分の名前が
しっくり来なくて
他人事のように生きてきた
しっくり来てる
他人の僕は
どこか別な世界で
名前のように
生きてることだろう
いろんな春があった
それなのに
....
バナナが自ら皮を脱いで
バナナはバナナであろうとする
それを口がおいしそうに食べて
口は口であろうとする
その様子をじっと見ながら
目は目であろうとした
庭に出ると
鼻が ....
橋がかかる
四年に一度だけ同じ日に
同じ人に会う
きっと同じ思いで川を見てる
同い年なら結婚しよう
私はもう百五十六歳よ
消えていく
橋を渡りながら消えていく
そこ ....
人が生まれる
前のことを
死んだ
とは言わない
人が生まれて
生きたから
死んだ
と言うのだ
今日も定刻通り
汽車が来る
類人猿の
波打ち際で
太陽は沈まない
沈まない太陽の
その向こうに
地平線はあった
もう帰る家が
ありません
はじめての海
林の隙間から見える
とてつもなく高い
大きな大きな青い海
あれは空だよ
父さんと母さんは
笑ってたけど
あれこそが海だった
死ぬまで忘れない
神様がホームに立つと
いつのまにか
列車がやって来て
旅は始まる
次の駅は
あなたです
夢の終わりから、ずっと
人は生きてるのかもしれなかった
最後に夢を見たのは
母さんのおなかの中で
とつぜん目を覚ましてから
人は生きてるのかもしれなかった
夢の終わりから、ずっ ....
ホームセンターで
出会ったやかんが
思ったよりも
紳士だったので
結婚した
その時代
ホームセンターなんて
あったの
母に聞くと
母は結婚写真を
持ってきた
やかん売り ....
肩と肩を結ぶ橋がある
とても近いのに
隔たれた距離を
牛が渡って埋めに行く
雲はあんなに白いのに
空の青さはこんなにも切ない
橋から見える景色が
いつもそうだったように
この部屋も ....
本の隙間から
光が溢れている
行間のひとつひとつが
とても眩しくて
僕らは本の影の部分を
読んでいるに過ぎない
見失った灰色の街で
出会ったばかりのきみから
きみの本を借りた
....
真っ白な消しゴムで
夜の闇を消すと
鉛筆を持った妖精が
朝を描く
僕は思い出す
間違えては文字を消し
覚えたての言葉を
何度も語り直していた
たとえ間違えても
きっと正しい ....
元栓を開ける
妻の背中がさみしくて
それでも朝は訪れる
目玉焼きを焼いたら
少し黄身が左に寄って
それを僕が真似る
どこ見てるの
ため息混じりで聞く妻の声も
どことなく左に寄 ....
高層ビルが地中に沈むと
私は懐かしい朝を迎える
夕焼けのような朝日を浴びて
新しいはじまりを思う
一番高いビルの辺りから
植物が芽生えやがて木になる
まるで高層ビルのように
その下 ....
たましいの
とても遠いところに
らせん階段をのぼる人がいる
僕らは気づかないふりをして
紅茶を飲む午後のひとときも
その人はいつでも
らせん階段をのぼり続けている
とても落ち込んだ時 ....
妻が帰るまで
電話になってみる
受話器の奥が
外側に伸びてるあたりから
昔はなした電話の声が
聞こえてくる
思えば随分
たくさんの人たちと
はなしたものだ
亡くなった人もいる ....
西から染まったお日様が
遺跡に沈む
冬の匂いをさせて
泥棒は何も盗まずに訪れる
花を添えて
ママが遺跡になったら
何も盗むものがなくなった
掌を合わせて呟く
これでいいのだ
その言 ....
真夜中
帰宅して灯りを点けると
妻の気配が待ってる
まだあたたかいから
一緒に夕食を食べて
少しだけ話す
朝
妻が僕を見送る
隣には
昨夜の妻もいる
その先で
いつかの ....
冷凍庫に
たくさんの思い出が保存されている
消費期限が古いものから解凍して
毎晩妻と二人で食べる
これは去年の夏の海ね
妻がうれしそうに話す
去年の梅雨の日のドライブ
まだ残って ....
何か大切なことを知らないまま
僕らは生まれた
何か大切なことを見つけるため
僕らは生まれてきた
僕らはまるで
食べても食べても太らない
アフリカの子供
満たされない気持ちは
....
還ってきた
眠りの海から
少女たちが
空の窓をひらく
光がくる
鳩がくる
少女たちの鳩だ
待っていた
この朝を
この命を
おそろしいほどに
光を浴びて
はかないほどに
人に ....
午前の木漏れ日に
瞳をうつし
手を差しのべると
遠い煌めきの中
太陽を追いかける
私がいる
木は語らない
何故ここにいるのか
何故いつの日か
いなくなるのかを
私は風と話 ....
水道から
気配が流れている
ドドドドド、
どどどどど、
ドノドノドノ、
どのふねの、
私は乗る
その笛に
湯舟、に注がれる
湯布院
ああ、何故
ユフイン、
ナノ ....
さみしさのようにあり続け
やさしさのように消えてしまう
鳥はいつも
そんな隙間に巣をつくる
おだやかな空のもと
揺れる木陰の向こうには
静止したままの朝
さえずりはまだ
誰に気づか ....
やさしくされるたびに
真冬の鯉になってみせた
一番深い底のあたりで
ひげだけ動かして
じらしてみたりした
春になり
浅いところに出ると
やさしい人は
もういなかった
かわりにたく ....
しずかな曲線を描いて
落ちていく
最後の一日が
地平線のあたりで
手を握り合う
もう二度と
離れてしまわないように
やがて朝がくる
信じるよりもあきらかに
疑うよりもたやす ....
受話器を逆さまにして
あの世と交信する
話すように聞き
聞くように話す
すると私は
あの世の人になる
受話器を置く
置き去りにされた
声とか相槌とか
もう思い出せない
....
いつか
目の前の少女が
いなくなる
そんな未来のことを
考えていた
少女は僕に
やさしく微笑んで
お似合いの白い帽子を
空高く飛ばした
落ちていく帽子を
目で追いながら
....
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