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降り出した季節のはじめのひとしずく 僕は知らずに踏みつける夜
おぼえてるもうわすれてる ふりだしではじめにふったさいころのめは
泣き出した君の最初の一滴を 知って知らずか{ルビ宇宙 ....
今日かぎり歌わじと思う心にはなにものもなしさらさらと水
妻ときて歩きて語りなつかしき日溜りにくすむ 鞆の浦 よ
青春は消えにけり受験という灰色の時河原町とその付近
水まけば涼しき風の入りきて立秋よりも二日目の午後
紙コップ握ればひしゃげるその器己が心の浅ましさの果て
湯の水面暗闇の波広がりて妙なる調べあなたへの蒼
時越えて地の果てまでもどこまでもそんな誓いも時の彼方に
肌破り爪たて君を望みしは ....
妻が勤めに白い朝顔が初めて咲いた雨がしきりに降る
ドビュツシー前奏曲集静かな曲妻を想う悲しさを癒す
鎮めても後からわく不安あくなき心配人は空しきもの
電話線には雀が五六羽さわ ....
薄ら寒きベンチに座してビールとパンのささやかな昼餉
寒き朝駅に列車を待つときも心引き締め未来をみつむ
立派な書物さえ並んでおればそれだけで書斎は良く見える
駅に向き歩き来たれば傍らに ....
再び人生を問う
整理する本棚にみる妻の本ほのぼのとした明るいおもい
オールド・ファション・シボレーが走るハバナの側堤を
夜のキャバレーの黒人歌手みんな独りよがりで生きているのさ ....
髪を短く妻は刈った前とちがってちょっと残念だった
妻が勤めに見送ったさびしい体操をして元気をつける
また妻と二人西武百貨店に行って喫茶で話しをしよう
バス降りて 草むら行けば足もとに
稲穂ゆるがし イナゴ飛び立つ
秋雨のやうやく上りし宵の月
ジャンケンをして大人賑やか
耳もとに娘がつぶやきぬ生え際の
薄くなりしと夫のことをば
....
花選び散散迷いて りんどうと
決めて俄かに秋をさみしむ
帰り来し子にぞ言はれて屋上に
上りて見れば満月清し
木犀の匂へる塀に沿ひ行きて
訪ぬる家を過ぎしも知らず
野生美の紫 ....
冷房のつよきビルより出でてきて
鋪道の照りは肌にほどよし
寝袋を肩に出て行く子等のあと
逝く夏の風追いかけてゆく
留守宅の犬に餌やる三日目を
信頼しきる犬の目と合ふ
矢 ....
無言にて薔薇一枚を差出され
祈りの如きさまに受け取る
抱え持つ洗濯物の子のズボン
ポケットに鳴るは はだか銭らし
かきつばた あやめか しょうぶと論じつつ
床几に寄りて賑はふ ....
二両目の
弱冷房車で
うちわ振る
太った女を
南極送りに
扁桃腺腫らして臥せる吾が側に
苺食みつつ子等は饒舌
もの煮ゆる音も親しき独り居の
夜は気ままに猫の相手す
鄙びたる里を吹く風 豌豆の
からめる蔓をゆさぶりて過ぐ
くせのある ....
雨だれに 頷く露草 いとをかし
君への言葉を 語るともなし
雨蛙 あちらこちらで 鳴く声は
紫陽花に咲く 花の夢々
黒すぐり ....
子等の留守 語る事なく夫と居て
硝子戸たたく雪を見てゐる
入試終え帰りきし子は降る雪の
中にレコード買ふと出で行く
ミニを着て鏡の前に立ちみれば
膝にかくせぬ年と知らさる
....
蛍火の点滅そろふ魔の息はさうしてわれらの耳をかすめる
あれは蛍だつたのかしら言ひそびれ秘密となりしことの幾つか
{引用=一九九八年七月一七日}
玄関の椅子に座りて黙すればまた空しさを思いみるなり
鳩の居る庭の紅葉に目を移しわれが空しき鳩なおむなし
雛にえさ与うる鳩の姿にも生きる力を見出さむとしては
忘れ物思い出し歩を返し言う
独りごと人に聞かれし居しかも
凍る朝素足に草鞋の修行僧
声あげ行くに襟正したり
断絶と言わるる代に独り居の姑に
電話をすれば風邪ひき
家の建つ前 ....
台湾坊主荒れ狂ふニュース報ぜらる
吾家の前に鳩は遊ぶに
しきたりに鰯匂はせ豆まきて
平和を祈り節分祝ふ
待望の雨はほこりの匂いまで
室に運びて心和めり
みがきゆく茶碗の白さに ....
疲れてるけど可愛い妻よわが鳩よ福井の海の一夏の日に
わが心じっと離れぬこの家に妻よいつまでもいつまでも
きみがため歌を書く机のうえに花の写真と僕のなみだと
ためらはず さしかけられて傘に入り
片身ぬらせし君が気になる
足悪き子雀来たり 今朝もまた
待つ身となりて エサをまきたり
枯葉踏む犬の{ルビ足音=あおと}はリズミカル
夕づく公園を ....
隣屋の塀にはびこる つたの青
さみだれに色 尚つやめきし
散歩にと さいそくにくる愛犬の
うったえる瞳に 重き腰あぐ
単純もよきときあると自らと
慰むるとき 時雨の音する
ふれ合いし手の冷たさは言はずして
春雪消ゆる早きを語る
尋ねきし人は留守にて山茶花の
散り敷く庭に一人ごちする
我が裡 ....
おばぁちゃん
ただひたすらに
愛でてくれ
今は一人で
味噌汁すする
日日に緑深まる狭庭辺に今朝は蛙の鳴き声がする
さきほども小雨降りいた表通り人の声して雀飛び交う
グリーグのペール・ギュントを聴きつつも紫陽花の絵をじっと見るとき
また鳩が一声 ....
「アリュール」
{ルビ汚=けが}れならば五月雨川に流せりと誘ふその手は{ルビ梔子=くちなし}に似て
「ブラック」
黒髪に触れし指先奏づるは重なる肌のあつき旋律
....
洗濯機の渦に心を巻き込みて
しみつく澱も洗い流せり
長雨のやみたるあとに松葉ボタン
閉ざせし心も開くがに咲く
娘が生けし菊に顔寄せ深深と
秋の香かげば夏も惜しまる
二十世紀 ....
妻清張われは花袋6月の空ベランダにバロック流る
午後になり雨しとしとと降りつづき朝顔の蔓つたふ土塀に
書物など喫茶に持ちて読みおれば髭の老爺(ろうや)が前に座りて
もみじ葉に ....
彼の人にアスパラガスの花束を
込めた思いは宣戦布告
風露草贈りし君から翁草
勝負終われば裏切りし君
勝利した君の頭に月桂樹
手には僕からその花束を
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