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東京、
その日もひとりで
幡ヶ谷の太陽と
馬鹿みたいに重い、
心細さを背負って
唇を噛んでた


夏の
だれるような湿度と
車の排気ガスと
肌に纏わりつく
人間、の ....
長い年月を波に洗われて打ち上げられた
流木のように古びた椅子に座っている
おまえがいるだけだった

正午の青空のした 影もなく

呼吸さえ 受動で
降りかかる陽射しに ....
あなたが通り抜けた改札で
何故か
わたしは置いてけぼり

あなたが買えた切符
何故か
わたしには買えなかった

人生には幾つもの
改札があって

選ばれたひとと
そうでは無いひ ....
窓硝子を挟んで
浅い春は霧雨に点在し
わたしに少しずつ朝が流れ込む

昨夜見た夢を
思い出そうと
胸を凝らしたら
微かに風景が揺れた

なかば迷子の眼で
周りを見渡 ....
魚は
夜に鳴く
なくした
ラッパを思って

+

砂糖瓶を
よく洗って石段に
並べていくと橋を渡る
来客があった

+

探し物の
予定のない日
菜の花畑で一人
ラジ ....
白髪を掻いて
新聞を読んでいる
あなたは
岩だ

猫を
下手くそに撫でる
次郎丸は
僕が名づけた

うちで生まれた猫たち 三匹
母親にとって
あんなに大切だった ....
木に囲まれた公園にロケットの形をした遊具があって
それはいろんな色の鉄棒と鉄板で出来てて
張りぼてで
螺旋の滑り台になってて
同僚と会社をサボって俺んちで短パンに着替えて去年の夏
Yシャツと ....
さがしてみても
しっぽは見つからない

まるで
気泡のような午後だから、
いつの窓にも
ふたりは
求めて


 やわらかな、視線

 だれにも始まる
 デッサンの
 ....
耳をすますと
遠く潮騒が聞こえる
ドアを開けば幻の海
白い波頭が立って
空はおぼろに霞み
「春だね」とつぶやくと
「春ね」と君が応える


潮風が弧を描いてゆく
君の長い髪がゆらめ ....
通り過ぎた列車の
なごりの風が、引き連れる
潮のにおい
線路沿いにこの道をまっすぐ行けば
ほら、海が近づいてくる

そう言ってふたり、短い影を
踏み合いながら走った日
無人 ....
背後から抱きしめられる気配が
して
「だぁれだ?」
そんなのあなたに決まっているのに
他のだれかを想像してみる

雪の降らなかった今年の冬を
ひとりで歩いてみた
行き先なんか
決めた ....
卵から孵った夢の中
僕はアリスとお茶会へ
双子とダンスを踊ったら
女王様とクローケーをしよう

にやにや笑いの猫ちゃんと
バタつきパンの蝶を追いかけ
うさぎの穴に飛び込めば
グリフォン ....
色の名前を忘れていく
最初に忘れたのは
花の色を真昼の
それにする太陽
そして、ものまねの月

雨の色を忘れていく
濡れるものとそうでないもの
雲の内側では透明の
感傷にも似た
匂 ....
あんな色の
月の光に照らされては
わたしたち
色彩を失っていくばかりの
ようですね

あんな色の
夜空に月を浮かべられては
わたしたち
月以外にお友達が
いないみたいですね

 ....
流れてしまつた雲を追いかけて
防波堤を越えた、二人だけの流星を掴み
散りばめたあとの笑顔を見ましたら
それはもう、美しいとしかいい様のないほどに
ふたりの時間は流れていつたのでした。

ぎ ....
ホームで君が歌を口ずさむ
それはとても良い音なので
お墓のようなものと間違えてしまう
床に書かれた落書きが
羽をはやして飛び立とうとする
言葉はそんなことをしてはいけない
小さな子供が言い ....
サテンの光沢まばゆく
風が雲の緞帳を翻すとき
ひととき白日夢に眩む

まだ蕾、とも呼べぬ小さな膨らみは
幼すぎて花の名前を知らない

その風の名残のなかで
わたしは繰り返される春を
 ....
透き通る石が相手なら
わたしの瞳もまもられそうで、
こころゆくまで
あずけて
うるむ

そんな夜には
ゆびも優しくなれるから
ゆめをすなおに飲み干して
爪は爪のまま


 ....
雨粒を
ゆるすしかなかったことが熱だった
ほんの
一握り、の

うばわれるものも無く
渡ってもらうことで
どこか安らいでただ濡れていた
それしかなかった、
雨だれに
ほそく ....
{注GEKKO=白黒写真印画紙「月光」}に浮かび上がる
曖昧な輝度信号
ほしおり はすぐそこに迫っていた
切り取られた夜空を
暗室の赤い光に積もらせ
あまりにも遠すぎて
おぼえきれない思い ....
僕は男だから
産む痛みを知らない
同じくらいに
産まない痛みを知らない
痛みなんて知らない
ここは戦地ではないから
僕はあなたではないから

幸せになる方法を知らない
幸せにする ....
てのひらに乗った 雪が
溶け出して、僕の
一部になってゆく
降り始めに気がついたのが
どちらだったか
もう忘れてしまった

雪は
これで最後かもしれない、と
最初に言ったのは君の ....
ピンク通りにゴムホースの束
豚かと思った
人間の半身が転がってればいいのに

抱いてやる

「新宿は庭みたいなもんだ」と言った男が死んだので 
あたしはなんとしても新宿を庭にする

 ....
  灰色のゴム長靴が
  水溜りの道を一歩ずつ
  飛沫をあげながら一歩ずつ
  いつのまにか雨上がりの
  中途半端な空を中途半端に見上げる
  待ち焦がれた土曜日の朝を
  息をは ....
せまくたっていい
台所が小さくても
押入れがなくても
ただ
日当たりさえよければ

階段をのぼって
街を見晴らし
あなたとふたり
夕焼けを見られたら
それで

なんにも持ってい ....
夕焼けは決して終わらない
さっき、オレンジのストローで
おもいっきり膨らませておいたから
輝く小石たちのいるポケットの輪郭
指先の土は、もう、乾いた


工事現場の重機の群れは
拳を打 ....
グラウンドを白線が伸びあがり
休日の足跡をふまえるとき
光線はオレンジの斜面を傾ぎながら
予定の収穫を浚おうとしている

土の内部から気泡が生まれて
倒れた彼女を包み込んだけれど
それは ....
たくさんの雨が
パンドラの筺の、その奥底から降ったような夜
咳が止まらなくて
眠れなくて

今朝方ツクシが顔を出し始めました
と、一筆箋に書き始める

生物表記には片仮名じゃないと落ち ....
いつか君の病気が治ったら
どこにでも行こう
そのときまでに俺は
いろんなところを見ておくから

いつか君の病気が治ったら
カンパイしよう
缶ビールでいいよ
もう薬はいらない ....
珈琲店と書かれた看板の奥で少女が泣いているわ
あれ何て季節
グラデーションが眩しくて夕闇が澱んでいて
あれ何て季節

店に入ろうか
そうしたいのは山々だけど
僕らには
金がない

 ....
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