レタスの先端
心音のひずむところ
温度の終わりに
少し触れる
つめたさ
教室みたい 、
と思う
穏やかな湾の入口を
句読点が航行する
健康的な食事
その後で
わたし、 ....
酔い覚めに
薄茶を{ルビ点=た}てて
{ルビ伽羅=きゃら}を聞く
子供たちが去った夕暮れの公園
鋼色の空に咲く
小鳥のような白木蓮
その一輪をきみにあげたくて
手を伸ばしても届かないもどかしさ
うたうたに見おくられながら、おとこはあたらしい歌をひきつれて旅をした。
うたうたは酒に似ていた。せかいを光の波紋でにじませて、あまく匂ういきをはいた。
波うちぎわでは、松のぎょうれつが盤根をもちあ ....
木下闇
人の通わぬ奥深く
その道 樹々の嘆くとも
君、
振り返ること無くて
遺影の彼は
今も 三十二歳
その朝、枕辺のオーディオステレオが
静かに鳴っていたら ....
{ルビ静謐=せいひつ}な夜空に浮かぶ銀の月
きみの頬笑みを映している
手を伸ばして黒髪を撫でようとした
届かない指先が震える
届かない…
なみだひとすじ
ひとしずく
....
亡くなった犬が鏡の中から
わたしを見ている
わたしの手のひらに隠している
おいしいものを知っているのだろうか
名前を呼ぶと返事のように尻尾を揺らす
黒い鼻はしっとりと濡れ
いかにも健康 ....
三つの色、
一つの終わり
声と息が重なり、
いのちを紡ぐ
春、
菜の花が咲き
夏、
青い夜に
秋、
幾度もの口づけ、
瞳に映るのは
紅蓮の炎
めぐる季節と
想いは ....
裏口を叩くものがある
名をもたない
持っていても知る術などない
晴れ着姿の少女の形をしたなにか
扮装と立ち振る舞いがすべてのもの
ほつれていった
むらさきの血のほとばしり
内臓をひも ....
とらえようと
猫は
白い雪
黒い雪
人々の街に AI-Chatに
雪は 降る
天 ....
登場人物 夫──壮年のサラリーマン。
妻──夫より三歳下。専業主婦。
娘──短大出たてのOL。
舞台 東京都世田谷区の一戸建て住宅。
(平成二年、八 ....
地獄を待ち望む。
ー
にんげんをかえせ と、
....
痛点を通過する
ブランコに揺られて
春を待つ間に
チェニジアの
ハイスクールも
時間が経った
珍しく向かい風の
匂いがする朝
皮膚病だらけの
野犬に看取られて
誰もが死ぬ、 ....
いままでどれだけ花が散るのを観てきただろう
いままでどれだけ雲の移ろいを観てきただろう
ぼくはいまだ彷徨い 戸惑い {ルビ躓=つまづ}きながら歩いているよ
いまはどんな辛い事も嬉しい事も楽し ....
オレは世の中の99.9999%以上の事象を知らない
バカで バカで どうしようもないバカなのだ
酒を飲んではくだを巻き
夜の闇に溶けるだけ
たったそれだけの存在を
月だけが優しく頬笑んで ....
カーテンも取っ払った六畳間
テレビと わずかな生活用品に炬燵が一つ
職場近くへ引っ越すための段ボールが
キッチンと廊下に並ぶ
「部屋が狭いから、ずいぶん処分したのよ。」
友人 ....
(だれが呼んでも
(きこえないよ
(きみが、いちばん!
羽根のない子どもは月に擬態する
集団下校の輪の中に居たはずなのに
だれも名まえを思い出せない
古い友だちの口笛は
(風が散ったから ....
もやぐ朝
夜が朽ちて
朝が生まれる
霧に覆われた街は
港へと変わる
赤い太陽は
無音の出港の合図
けれど想い出は
いつでも切ない
胸に
錨をおろしたまま
さ ....
卵を割ると中には
砂しかなかった
食べ物を粗末にはできないので
そのまま火にかけると
砂の焼ける匂いがする
今ごろ砂場では妻と娘が
いつまでも完成できない
卵の城を作っていること ....
テイクアウトのピザを
たらふく食べ
飲みすぎた赤ワイン
炬燵で寝落ちし
ふと目覚める 耳の底の音だけしかない
深夜
空ビン洗って
ベランダの収納ボックスへ入れる音 ....
若き頃の
狂騒を過ぎ
ひとり我
今此処にくつろぎ
内なる普遍へ沈潜す
内なる普遍、
外なる自然本性に呼応し
二つは一つにて
神の道の終わり成就し
この感覚世界在りと
....
寂れた街頭の下で踞り
嗚咽混じりに初めて涙を流した
無関係の喧騒の中で
動かずともよいと何かが囁く
その頃はいつも歌が生まれた
言葉を持たぬ血を捧げながら
ゆっ ....
ぼくが帰るとき
いつも停留所ひとつ抜かして
送ってくれたね。
バスがくるまで
ずっとベンチに腰かけて
ぼくたち、ふたりでいたね。
ぼくの手のなかの
きみの手のぬくもりを
いまでも
ぼ ....
ヴィレヴァンで詩集を買って
満月の夜に読まずに捨てる
彗星のように空に堕ちて
咲く花があればいいのにね
夢の中なら泣けるのに
小鳥の ....
加茂川べりに
あの人が佇んでいる
錯覚だとは
電車の中で気がついた
冷たい舗道に降りてから
しっかりと足早に歩きすぎながら
それでも後ろを 振り返ってみたかった
....
ほとり ほとりと
冬の 路
ぽつり ぽつりと
{ルビ詩=うた} {ルビ謳=うた}い
ほろり ほろりと
{ルビ啼=なき}き 濡れて
おーい おーいと
友を 呼ぶ
枯れ ....
朝は曇っていたけれど
天気予報を信じて洗濯した
どうせ一日では乾かない
束の間の外干し
冬生まれの子はよくミルクを吐いて
深夜に洗濯機を回したものだった
洗濯物はいつでもエアコンで部屋 ....
行きゆきて
独り旅路の
白い道
蝉しぐれ
岩の清水を
手にすくう
笠あおぎ
入道雲に
息をつく
朝ぼらけかすみし山の冬木立
鼓膜に残る響き息の跡
ときはかねときあかねさす井戸端の
夕餉の支度暮れのにおいは
山の中静かに凍る湖が
数億年の冬眠を守る
暖冬に明日、明後日と大 ....
酔い酔いて
ひとり旅ゆく
枯れた道
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