荒野には屍などない。屍は豊饒の証である。荒野は小気味よいほどの空白であり、そこにはふくふくした糞便も滋養豊かな腐肉もない。目立つものといったら枯れ木だけだが、その枯れ木ときたら、湿っぽいので燃料にもな ....
[バリケードのこっち側]
その前日
あたしは工場で残業した
まんまるいちんち段ボールの箱と格闘して
それでもまだ働けとベルが鳴った
自転車をこいで家に帰ると
戦いは明日だと言う ....
[か]
彼女は語る
空笑いを髪に飾って
かりそめに交わすカタルシスを
からみあうカドリールを
軽やかなカデンツァを
金切り声で語る語る
彼は彼で
寡黙な肩で風切って
....
[あ]
憐れみを集めても
飽きられあしらわれ
愛されない
諦めはあたしに合わない
綾織りの雨を浴びて
あてなく歩こう
嵐のあと
あげひばりは
明るくあらがい
....
「わが青春の詩人たち」三木卓著 岩波書店 ISBN【4-00-002642-9】\2,500
本を読んでいて、巻末に著者年譜があると、いつも、現在の自分の年齢にあたる部分を熟読してしまう。この ....
口紅を持たぬ日ありき麦芽ぐむ
伐られしは冬萌赤き若木なり
孕みをれば死は許されず冬の蜂
*
紅挿すや湯冷めせしほど待ちわびて
寒紅を般若の面の裏に刷 ....
あいつは普通の人間なのだと、地上でごく当たり前に生きているひとりの男なのだと、そしてあいつとの交渉はつまりセックスに過ぎないのだと、そういうことにしてしまいたい誘惑に駆られる。そうしてしまえば、これら ....
闇にはいろいろな色があるのだと
幼稚園児だったわたしに
教えたのはあいつだが
あいつの言い分が
嘘っぱちだと気づいたのは
迂闊にも
二十歳すぎてからだった
あいつは今夜も黒で装ってい ....
星ふたつ、よっつ、
あるいは星がひとつもなくて、
真っ赤、真っ黒、真っ黄色。
みんな、ナミテントウ。
落ち葉の下に集まって
身を寄せあって。
風、さむいね。
さむいから、みんなでいよ ....
秘密の宝石箱はもうすっかりぶちまけてしまった
どうせみんなまがいもので
いちばん高級なやつでも貝パールに過ぎなくて
いちばん安っぽいやつはきらきらするキャンディの包み紙で
そもそも宝石箱自 ....
もしかしたら私は
口にしていいのかも
俯瞰したようだ
街並みである
硝子だった
観葉植物である
イキモノかもしれない
混ぜてある
というのは嘘で
風はある
風だけはある
ほかはみ ....
窓にノックの音がする
こんな寒い夜更けにやってくるのは
あいつしかいない
上着を羽織ってベッドから出る
夫は眠りこけているいつものように
かすか
とはとても言えないいびきをかいて
....
其の人は南洋にゐた事があつて
だから私は其の人を思ふ時
まづは珊瑚礁の島々と
南の海とを腦裏に描いてみる
南洋の風物は鮮やかで
翡翠の海に{ルビ屹度=きっと}
色とりどりの ....
幾重にも入れ子になった
夢の物語のひとつで
旅する人々が歩いてゆくのを見た
真冬の草原に鉄路が走っていて
旅をしない人々は
白茶けた駅でいつまでも待っていた
旅から帰る人を待っていたのか
....
ふと気がつけばあたりはきわめて複雑で
ちょっと説明のしようがないんだが
とにかく私の左胸ではトビウオが騒いでいる
右手にはねっとりべっとり蜂蜜がついている
左手にはお定まりの手錠で
ここらへ ....
1
少女は夕暮れにオルガンを弾き
聞き覚えたメロディを拾う
不安定なコードで単調な伴奏を繰り返し
遠い歌声に耳を傾ける
暗い森の奥 澱んだ沼の畔
彫刻のように動かぬ蟾蜍 ....
窓辺にトックリバチが巣をつくった。
なめらかな曲線を持っていて、
微妙な色彩のだんだらで、
それは見事な造型だった。
だから毎日眺めていたのだけれど、
いつしか忘れてしまった。
役立つ ....
そういや私が最初に「たもつ」なる名前に目をしたのは、考えてみたら「醤油」を読んだときではなかった。
某PJでレビュウに値する詩を探していた私は、幼いが鋭い何かを感じさせる短い詩「さめ」に注目した ....
幼かった私たちは
この蝶をヨツアシチョッチョと呼んだ。
今はもうそんな幼稚な名では呼ばないが。
私たちは誰も大人びた名称を知らなかったのだ。
でも私たちは知っていた。
昆虫は六本脚という ....
昼休みの中学校の教室に
セセリの群れが舞いこんできたことがある。
女の子たちは気持ち悪がって騒ぎ
男の子たちは争ってつかまえた。
鱗粉は毒だと言われていた。
茶色いし羽根の閉じ方が普通の ....
さびしい秋の夜の
さびしい田舎の
さびしい家の
さびしさが
さびしさのあまり
ちいさく凝って
足をはやして
ひょおんと跳ねる
さびしいね ひょおん
さびしいよ ひょおん
そ ....
闇が鳴いている。
ねっとりと濃厚な闇が。
手をひたせば
指先を黒く染めそうな闇が。
美しい声ではない。
金属的な声だ。
こすりあげる声だ。
痛い声だ。
闇が鳴いている。
明確 ....
見つけるたびに
ひいふうみいと星を数える。
間違いなく二十八あるから不思議だ。
一個足りなかったり多かったりはしない。
二十八の星を数えたら踏み殺す。
だって連中は茄子の害虫だ。
連中 ....
近くの小学校から
家路のメロディーがかすかにきこえる。
むくどりが騒ぎながら巣に帰る。
そろそろ帰ろうと思って土手に登る。
いつも歩く河原の
何度も踏みしめた砂地。
そこに蟻地獄がいる ....
真冬の風に押されて入る
どこか樟脳くさい昆虫館は
暖房でひどく乾燥して。
こんな昆虫館には必ずいる。
この大物を忘れたら
昆虫少年たちが怒るものね。
確かにすばらしい虫だものね。
あ ....
天井に赤い足跡。
てんてんと増えてゆく。
猫のそれよりもすこし大きい。
足跡をつけてゆく生き物の姿は見えない。
ダブル・ベッドの上のふたりは、
そんなことてんで気づかない。
見逃された ....
ちっちゃくて硬い。
鈍色にくすんだ鉄のかけら。
美しい鳴き声は持たない。
美しい模様もない。
田舎の物置の
米ぬか臭い片隅で
ただ生きてゆくために
もぞもぞと生きている。
生の ....
見た目はパッとしない。
目立たない。群れない。
硬そうにみえてそうでもない。
脆いかというとそうでもない。
灰だか茶だか緑だか色曖昧な身体には
何のためだかツノがある。
これがまた雄同 ....
晩秋の土手です
枯草を焼いている人がいました
深い空に
白く見える遠い穴がひとつありました
気がつくと指がべとべとするもので汚れているのでした
甘いような気持わるいような香りが流れ ....
烏瓜が真っ赤に色づき
葛の葉っぱがみんな枯れ
桑の木がセミヌードになるころ
カマキリは生きながらに枯れる
雄を食ったのは晩夏で
そんなものとっくに消化して
それでもまだ冬がこないので
....
佐々宝砂
(921)
タイトル
カテゴリ
Point
日付
贋者アリスの洞窟の冒険
自由詩
2
03/12/5 0:41
小詩集「マルメロジャムをもう一瓶」
[group]
自由詩
18*
03/12/3 16:59
五十音頭韻ポエムか〜こ
[group]
自由詩
3*
03/12/3 3:36
五十音頭韻ポエムあ〜お
[group]
自由詩
3*
03/12/3 3:34
三木卓『わが青春の詩人たち』書評
散文(批評 ...
4
03/12/3 2:26
寒紅
[group]
俳句
1
03/12/2 5:50
あいつとわたし その3
自由詩
2
03/12/2 3:37
あいつとわたし その2
自由詩
0
03/12/2 2:23
ナミテントウ(百蟲譜13)
[group]
自由詩
2
03/12/2 0:37
秘密の宝石箱は
自由詩
3*
03/12/1 5:22
もしかしたら私は
自由詩
1
03/12/1 0:42
あいつとわたし その1
自由詩
2*
03/11/28 21:20
石となりし人に
自由詩
3*
03/11/28 16:23
旅する人を描く人を恋する人を夢みる人の恋唄
自由詩
2
03/11/28 2:20
ふと気がつけばあたりはきわめて複雑で
自由詩
1
03/11/28 2:12
遠いひと
自由詩
4
03/11/25 21:03
トックリバチ(百蟲譜12)
[group]
自由詩
1
03/11/25 21:00
たもつ家のほうへ — たもつさんの詩の印象 2 —
散文(批評 ...
6
03/11/25 20:47
ジャノメチョウ(百蟲譜11)
[group]
自由詩
6
03/11/21 23:46
イチモンジセセリ(百蟲譜10)
[group]
自由詩
4
03/11/21 23:43
カマドウマ(百蟲譜9)
[group]
自由詩
3
03/11/19 17:53
キリギリス(百蟲譜8仮題)
[group]
自由詩
2
03/11/19 17:18
ニジュウヤホシテントウ(百蟲譜7)
[group]
自由詩
2
03/11/19 17:07
カゲロウ(百蟲譜6)
[group]
自由詩
2
03/11/18 5:19
ヘラクレスオオカブトムシ(百蟲譜5)
[group]
自由詩
2
03/11/18 5:18
ダブル・ベッド
自由詩
2
03/11/16 17:40
ゾウムシ(百蟲譜4)
[group]
自由詩
4
03/11/16 17:39
ツノゼミ(百蟲譜3)
[group]
自由詩
2
03/11/15 1:46
香り
自由詩
2
03/11/15 1:45
カマキリ(百蟲譜2)
[group]
自由詩
2
03/11/13 22:01
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