氷、と書かれた布製のものが
海からの風にそよいでいる
大盛の焼きそばは皿いっぱいに広がり
けれどできる限りの表面張力によって
その外形を保っている
去勢されたばかりの犬が
日陰で餌の ....
忘れ物のような話をしました
ただ長いだけのベンチがあり
終わりの無い話を続けました
読みかけの本が無造作にふせられ
背表紙は少し傷みかけていました
マリエはすぐに人を殺そうとする
け ....
母さんの中を
金魚がぷかぷか泳ぐ
雲の柔らかさ
産地とはおしなべて
そんなところなのだと思う
母さんの背中
バズーカ砲つけたら
悪いロボットみたいだ
だから僕たちは
....
タンポポを一輪だけ摘む
何も知らない貨物列車とすれ違う
水のように冷たいものを売っている所はありませんか
と、男の人に聞かれ
あっち、と指差す
あっち、に何があるのか行ったことは ....
朝起きて、俺
ヘビと戦った
その日はとにかくひどい洪水で
俺の大事にしていたポシェットも流され
銀行などの床も水浸しになり
家の冷蔵庫は野菜室まで水が入り込み
それでも、俺
....
やはりカバンが良い
と男は言って
口から出した大きな舌で
炎天下の夏草を刈り始めた
確かにその場所は空地にも見えるけれど
昔、わたしが「草」
という字をたくさん書いた漢字練 ....
01
冷蔵庫売り場で火遊びをしている少年のシャツは裏返っていて、肌がまぶしい。
02
扇風機の真似をする君が、今日は朝から羽が壊れて、うまく首が振れない。
03
アイロン ....
○父
窓から庭のブランコを
眺めることが多くなった
あれにはもう一生分乗った
と言って
時々体を揺らす
背中が
押されるところではなく
支えられるところとなってから久し ....
くにゅくにゅ列車が
小さなバス停にやってきて
ダチョウを三羽乗せて行った
ダチョウたちが仲良く
キャラメルを分け合っているのが
窓の外からも
なんとなくわかった
何も無い妹の ....
01
図書館にパンが落ちていたので男は拾って食べたのだが、それはパンではなくムカデの足だった。
02
図書館の大砂漠で遭難した司書は一週間後に救助され、その翌年には大統領になった ....
並んで座っている父が
僕にもたれてくる
落っこっちゃう、と言って
体を預けてくる
床から目まで
わずか数十センチの高さが
怖くて仕方ないのだ
ねえ、お父さん
お母さんや僕の ....
父のベッドのところまで
凪いだ海がきている
今日は蒸し暑い、と言って
父はむくんだ足を
海に浸して涼んでいる
僕は波打ち際で遊ぶ
水をばしゃばしゃとやって
必死になって遊 ....
ファミレスの床に
男の人が倒れていた
可愛そうだったので
メニューを見せてあげた
チキンドリア、とだけ言って
男の人は息絶えてしまった
警察やお店の人が忙しくしている間
僕はハンバ ....
クラゲの心音がする
放課後
筆箱の中で
黒板消しが羽化するのを
慣れない手つきで私は
手伝ったのだった
ひっそりとした
カーテンの向こう
湿り気のある列車が
外 ....
「鼻が長かった」彼女は言った
「ゾウみたいだね」僕は言った
「ううん、キリンみたいだったわ」と彼女が言うので
「首も長かったんだ」と聞くと
「歯がキリンみたいだった ....
バス停が鳴いている
訪れることのない朝のために
昨日、私はミシンの音を聞きながら
水道管の裏にたくさんの
傷をつけたのだった
手をあわせれば
祈りのように見えるけれど
....
さりさりと幼い
草はいく
草むらの中を
食卓に斜めに降り注ぐ
花のような物体
の匂い
それらはすべて
私の位牌なので
私は残さずに
食べなければならない
生きていくことは
....
テツコの部屋で発生した台風が太平洋を北上している間
僕は書き損じた地図記号をひたすら地面に埋め続けている
そのわずかな等高線の隙間を魚色の快速列車が通過し
客車の窓から覗き込んでいるのは多 ....
花が咲いている
花の中に海が広がっている
散歩途中の
人と犬とが溺れている
救助艇がかけつける
降り注ぐ夏の陽射し
最後の打者の打った白球が
外野を転々とする
ボールを追っ ....
象の尾に
憎悪がぶら下がってる
冷たい温度で憎しみは
僕の肉に染みついてる
ナメクジの
せわしない足音がする
雨上がりの動物辞典
神様、
席替えしてもいいですか
....
商品棚に並べられた
きれいなゼリー状のものに囲まれて
カイちゃんが笑ってる
時々ふるふると震えて
何も言わない
床に落ちている
貝殻や干からびたヒトデを
二人で拾う
昔 ....
提出物の水牛が
ゆったりとした様子で
机の上を
壊している
言葉や数字との戦いに
日々明け暮れ
同級生の一人は
衣替えを終えた次の日
バッタのように逝った
日直の人が学 ....
もし私の子供が象だったら
鼻が長かっただろう
耳も大きかっただろう
バスにも列車にも乗れないから
歩いて港まで行き
遠くアフリカまで船で渡っただろう
サバンナに沈む夕日をいっしょに眺 ....
春が死んでいた
花びらもない
あたたかな光もない
ゼニゴケの群生する
庭の片隅で
地軸の傾きと公転は
果てしなく続き
生きていく、ということは
傲慢な恥ずかしさの
小さな積 ....
海の匂いがする
わたしが産まれてきた
昔の日のように
テレビの画面には
男のものとも女のものともわからない
軟らかな性器が映し出され
母は台所の方で
ピチャピチャと
夕 ....
月工場で
おじさんたちが
月を作っている
その日の形にあわせて
金属の板をくりぬき
乾いた布で
丁寧に磨いていく
月ができあがると
ロープでゆっくり引き上げる
くりぬ ....
街がある
人が歩いている
速度と距離がある
自動販売機に虫がとまっている
市営プールのペンキがはがれている
バス停に男男女男女
窓がある
死体がある
死体の側で泣いている人 ....
目の見えない猫に
少年が絵本を
読み聞かせている
まだ字はわからないけれど
絵から想像した言葉で
ただたどしく
読み聞かせている
猫は黙って
耳を傾けている
少年 ....
なんちゃってグミかんで
なんちゃって空ながめてる
俺の手は乾いた床を拭いているから
床のかたまりを拭いているから
俺から離れようとしない
困ったもんだぜ
俺はすっかり歯槽膿漏で ....
生き方の不器用な父がひとりヴァージンロードを駆け抜けていく
ベッドで遭難などしないように君のいびきを道しるべにする
ウソツキとキツツキの違いを述べよ、この戦争が ....
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