吐き出した言葉が
気泡になって
無人のブランコを揺らす
 
目を瞑ると
魚たちが
瞼を触りにやってくる
 
部品を捨てながら
自転車は走る
ただ一つの
点になるために ....
 
 
五月の窓がある
五月の肩幅になった
私が映っている
外には五月が広がっていて
部屋の中は
五月が凪いでいる
四月の私はもういない
確かに昨日までは
ここにいたはずなのに
 ....
 
 
昼休み、お弁当を開けると
中には凪いだ海があった
これはどうしたことだろう、
と電話をしても妻は出ない
それどころか、
海の中から聞き慣れた着信音がする
海が見たい、と言ってい ....
 
 
人が眠っている
僕の夢の中で

たぶん僕は眠っている
その人の夢の中で

無人の乳母車を押しながら
桜並木の下を歩く人がいる
置き去りにされた赤ん坊が
何も無い春に泣いて ....
 
 
駅前で女が
ヴァイオリンのように泣いていた

男がやって来て
指揮者のように煙草をふかし始めた

観客のように
人々は足早に通り過ぎた

銀色の魚が身を翻し

都会は ....
 
 
今年も年に一回の 
メリーゴーランドが
広場にやってくる 
君は朝から鏡の前で
お洒落に余念がない 
 
僕は教わったイチゴ水の
作り方を思い出しながら 
除草剤を作った ....
 
曖昧な更衣室で
僕らはすべてのものを
等号で結びあわせた
軟らかい材質でできた身体は
嘘をつくことが
何よりも得意だったから

花粉の積もった改札を抜けると
溢れだす人という人
 ....
 
 
キリンが首を伸ばして
夜空の星を食べていた 
星がなくならないように 
父は星をつくった 
どうしてキリンが星を食べるのか
なんて関係なかった
父はただ星をつくった
やがてキ ....
 
 
眠れない羊が 
僕の数を数えている  
僕が一人、
僕が二人、
僕が三人、 
僕は増え続ける
ため息のように鳴いて
羊は順序良く
僕を整列させる
そのようにして夜は明け
 ....
 
 
小銭を持って忍び込む
生臭い二つの身体で

薄汚れた僕らの下着は
日々の生の慎ましやかな残渣
死に対するささやかな抵抗

乾燥機をかけよう
余計な水分が
涙にならないよう ....
 
 
道路の真ん中に
枕が落ちていた
枕が変わると眠れない、
という性質でもないので
すっかり寝てしまった

車に轢かれる夢を見て
目が覚めると
胸の上あたりに
ミニカーが置い ....
 
 
ネズミもいた

アヒルもいた

犬もいた

小さいけれど
電気で動く遊具もあった

あっちにいるのは着ぐるみの
偽物ばかりではないか

そう言って
こども動物園の ....
 
 
海は遠くにありました 
波の中で魚が一匹死にました 
二人目はわたしでした 
くすくすとガラスが光って 
春だと知りました 
飛べないトビウオの群れが 
雑木林を抜けて
体育 ....
 
 
滑走路に正座をして
ブリの刺身を食べている

月明かりに照らされた横顔
あれはかつて
誰の養子だったろう

軍用機が静かに着陸する
花びら一枚
散らすことなく
 
 
インド服を着た男の人が 
エレベーターの中で 
みんなに挨拶をしている 

不透明な窓の向こうに 
一律に外があるとすれば 
それはすっかりの春だ
 
古い鉤括弧は捨てておいて ....
 
 
栞の代わりに挟んでいたミルクをこぼして 
僕らはどこまで読んだかわからなくなった 
立春が来たことに気づかないまま
掃除を始めた人たちみたいに
ひどく狼狽えた気持ちになった 
 ....
 
 
高い高いをされてる時が
一番高い時だった
何よりも誇らしい時だった
もう僕を持ち上げられない父が
故郷に帰る段取りを心配している
ぶつぶつとうわ言のように
出鱈目な記憶を繋ぎ合 ....
 
 
二人でガラスのコップに入って
誰かが水を入れるのを待っている
窮屈なのが
とても楽しかった
将来何になりたいか
お互いに言い合いっこをした
君は看護師になりたいと言った
僕は ....
君がスクイズバントをする
僕は必死に走って
無人のホームに帰ってくる

振り返ると
一塁線上を走っていたはずの君は
どこにもいない

野球に譬えるとそんな感じだ
見えない君の ....
 
 
パラシュートをテーブルに括りつけて
父が天国に行く練習をしている
深緑色のグレープフルーツを剥いたりして 
僕は君ともう少し深刻な話をしたい 
すべてがシンメトリーになれば 
人 ....
 
 
台所の片隅で
シーフードカレーが腐っている 
作ってくれた人は 
新しい冷蔵庫を買いに行ったきり
帰ってこない 

蛇口からシンクに落ちた水滴が 
一筋の水脈となり 
排水 ....
 
 
剥がれないようにして走る 
名前を失った
低い温度のままで

足元を照らす僅かな灯りを
希望と呼ぶこともなくなった 

脆い身体は既に
言葉の繰り返しとなり
穏やかに壊れ ....
独りさすらう俺の体を 
降りだした雨が切り刻む 
切り刻まれた俺の体は軽く分裂する 
でも心は切り裂かれないから 
浮いたまま 
雨に打たれても 
俺の心は乾いちまってる 
おまえがいな ....
 
 
埋立地から旧市街地へと
続く大通りの歩道
差し込む光に
かつて名前はあった
気の弱い人たちが 
背中だけの会話 
背中だけの時間 
の中でうずくまり、
息継ぎし、
そし ....
 
 
夜、寝ている間に僕は 
優しい形になった 
とても優しい形になった 
とても優しい形だったので 
誰にも怒られなかった 
誰も傷つけることはなかった 
どうして昼間は 
あん ....
商工会館が閉鎖された街に
バナナ売りの声が響く
ゼラチン質の船に乗って
目の見えなくなった犬は
遥か遠洋へと向かう
たて笛の隣にある空き地に
僕と彼女は小さな家を建てた
悲しみ、とい ....
 
 
国境線の上に魚が死んでいた
線に沿ってナイフで切ると
両方の国から猫がやって来て
半分ずつ咥えて行った
近くでは国境線を挟んで
男たちがチェスをしている
自分の陣地は真ん中ま ....
 
 
僕は東京にいて、それから
ドラッグストアで 
風邪薬を万引きした 
一度に二錠しか飲めないのに 
間違えて三錠飲んだ 
健康に何かあってはいけないと思い
布団に入り 
ハーモ ....
 
 
石の言語
語られることのない
肉体の履歴

行間でさなぎは
静かに波となった

命のないものは
絶え間なく産まれ
命のあるものは
ただ数を数えた

都市を離れて
 ....
あなたの育てていたザリガニが
アメリカザリガニが 
また大きくなりました。
時計台の近くで
風は風の音をたてて。
私たちの脱皮とは
いったい何だったのでしょう。
生きることと死ぬ ....
たもつ(1796)
タイトル カテゴリ Point 日付
夕暮れは自由詩1213/4/7 22:49
肩幅自由詩413/4/6 18:46
海弁自由詩1613/3/26 21:21
春に見る夢自由詩413/3/24 21:08
都会魚自由詩713/3/23 22:10
メリーゴーランド自由詩413/3/21 20:06
初夜自由詩613/3/19 19:58
星ひろい自由詩1713/3/14 19:49
出航する朝自由詩613/3/13 19:18
コインランドリー自由詩1013/3/11 19:27
桜前線自由詩913/3/10 20:48
東京ディズニーランド自由詩813/3/9 19:25
春告自由詩413/3/5 19:15
月夜の寓話自由詩413/3/4 19:36
春の収集日自由詩513/2/28 19:15
代理睡眠自由詩913/2/27 19:33
高い高い自由詩1213/2/25 22:04
将来の夢自由詩1113/2/24 19:41
ゲームセット自由詩513/2/23 19:38
シンメトリー自由詩513/2/22 19:18
水脈自由詩313/2/21 20:44
地下鉄自由詩1013/2/20 19:27
独りさすらう自由詩813/1/31 19:25
いのち自由詩713/1/24 19:18
優しい形自由詩1513/1/18 20:37
見殺し自由詩1113/1/16 21:26
国境スープ自由詩813/1/12 19:46
東京時効自由詩613/1/11 20:59
足跡自由詩613/1/9 22:26
忘却自由詩813/1/5 12:24

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