理由のいらない椅子が並ぶ
未明に墜落した紙飛行機の残骸と
食べかけのルーマニア菓子
砂浜の砂の数は
既に数え尽くしてしまった
栞の代わりに挟んだ魚が
静かに発酵して
すべての ....
部屋に海が落ちていた
魚の姿は見えなかったが
遥か遠くを
タンカーが航行していた
朝のうちは
キッチンの方へと吹く
潮風にあたり
そのように過ごした
午後 ....
象が並んで
観覧車の順番待ちをしていた
みんな休日だった
近くに
錆びたエスカレーターが落ちていた
午後になると
誰も海の話の続きなど
気にしていない様子だった
....
知り合いに似た形の雲が
空に浮かんでいて
その人の名前は
とうに忘れてしまった
ミシン目で切り取られた海が
安売りされている商店街を抜けると
賑やかな駅前に出る
駅前 ....
一面のハーモニカ畑で
郵便ポストが
風に揺れている
記憶を失った大砲の欠片は
小川の水底に涼しく沈み
命は
とても容易い
お互い皺が増えたね
僕らは最近特に
そのよ ....
雨が降ってきた
それに加えて午後からは
槍まで降ってきた
雨が降ろうが
槍が降ろうが
必ず行くよ
と言っていた友人は
終に来ることはなかった
窓を開けると
代わり ....
砂漠の真ん中で
洗濯機が回っている
インド綿のシャツを着た官吏が
時々中を覗きにやって来る
飛行機が上空を通過する
やり場のないコウモリ傘や
目新しい嘘を乗せて
真夏日 ....
ページを捲っていくと
その先に
廃線の決まった駅がある
名前の知られていない従弟が
ベンチに座って
細い背中を掻いている
とりとめのない
日常のようなものは延々と続き
梅雨の晴れ ....
駅のホームで
卵が列車を待っている
やがて快速が到着すると
卵は意を決したかのように
勢いよく転がり
身投げをした
このことは明日の朝刊に
ダイヤの遅延情報とともに
小さく ....
ファミリーレストランで食事をしていると
同じ形をしたファミリーがやって来て
西の方角から順番に着座した
ブラザーはシスターに
シスターはマザーに
マザーはファーザーに
それぞ ....
味噌汁の中をラクダが泳ぐ
どんなに泳いでも
沖などあるわけがないのに
僕はボートに乗って
ひたすら豆腐を網ですくう
今晩の味噌汁の
具にするために
いつまでこんなこと ....
動物の名前を書いていると
人がやってきて
他人事みたいにほめてくれる
交差点のあちらこちらでは
初夏が観測され始め
立入禁止の札もまた
ゆっくりと音をたてている
このまま一 ....
波に揺られてクラゲたちが
選挙をしている
立会人の父を乗せた船は
月の美しい遥か沖に
沈んでしまった
僕は道路の繊維をほぐしながら
罪のない嘘を口ずさんでる
台所では
....
コンビニの灯りに集まるクラゲを
殺し屋はすべて撃ち落とした
その間にも人は計画を作り続けた
幸せになることはとても簡単だった
書いたばかりの遺書を握りしめて子供が走る
町はずれまで行 ....
海の近くに本が落ちている
頁をめくると
漁師町の屋根はどこまでも続き
伝えたいことは
すべて終わっている
誰に叱られることもなく
海鳥が飛び方を記憶している
バイクが走っている
私の名前を引きずっている
どうしてだろう
フェンスばかりが青くて
言葉は汗ばんでいる
買ったばかりの紙袋が風になびく
その側で人が笑っている
アパートに似た生き物が
背中を掻いている
古い窓を開ければ子供の声が聞こえ
秋の風も入るようになった
父が死に
母が死に
君は僕と同じ籍にいたくないと言った
もう昔みたい ....
自転車の花が咲いたよ
靴ひもの言葉で
僕は君に告げた
今日も生活の中で
信号は赤から青へと変わる
軟らかなコンクリートの
優しさに包まれながら
もう少し眠っていたいけれど
僕の身 ....
妻の誕生日に
新車を買って帰ることにした
プレゼント用ですか
と聞かれたので
綺麗に包装してもらった
走り出して
一つ目の信号にも行かないうちに
タイヤの辺りから
包装 ....
カモメが空を飛ぶ
カモメの目の中で
僕は溺れる
溺れる僕は
工事現場をつくる
工事現場で犬は遊ぶ
どうして産まれたのか
なんて、犬のことなど
人は気にしない
大 ....
夜、本から紙魚が出てきて
僕を食べる
文字じゃない、と言うけれど
紙魚はお構いなしに
僕の身体を食べる
だから負けずに
僕も紙魚を食べる
本当は枝豆の方が好きなのに
食べ続 ....
昆虫が窓を開ける
五月と
そうでないものとが
出て
入って
混ざり
離れる
言葉の中で
空はまだ
青く
美しいのだ
日用品と
出来立ての虹を買って
君が帰ってくる ....
カエルがサーカスをしていた
とても上手にしていたので
拍手をした
カエルは何事もなかったかのように
澄ました顔で水に戻った
その後、近所の銀行に行って
金融商品の説明をしてもら ....
5と6と7は同じ価値
かもしれないし
かもじゃないかもしれないし
シーソーに乗れば
5は浮き
7は沈む
高層の建物では
7は上
5は下
この6でなし
と言えば
5と7 ....
最近6なことが無いよ、
と7が言うので
6が無ければ7も無いんだよ
と言うと
7は5になって
軒下で雨宿りをする
押し出された5は
黙って雨に打たれている
水にも溶けないか ....
父は会社を辞めて
小さな薬局を経営していた
母は近くの
ガソリンスタンドで働いていた
僕が社会に出る頃には
薬局もガソリンスタンドもなくなって
父と母だけが残った
僕の仕事は ....
短い枕の中で
魚が溺れている
手紙を
食べ過ぎてしまったから
夏の道路を整備する
乾いた犬の
音が聞こえる
気持ちだけはいつも
敷地みたいに眠たい
ノートの中に
....
耳の奥の
遥か彼方から
青い空が
聞こえてきます
それが
歌でした
鳥は少しの記憶
むかしあったのに
触ろうとすると
水にも
よく溶けました
雲がぼんやりと
....
空飛ぶ円盤が池に落ちた
脱出した宇宙人は池に溺れた
溺れた宇宙人は池の鯉が食べた
その頃、僕は恋に落ちて
恋に溺れていた
今思えば、身勝手な恋だった
鯉が溺れなかったのが
唯 ....
川沿いを歩くと
ピクニックによく似ていた
共通の友達がいてよかった、
と話す
命のものと
そうでないものに
毎日は囲まれて
離れていくものにもきっと
誰かが名前をつけて ....
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