午後が落ちている
歩くのに疲れて
坂道を歩く
人だと思う
エンジンの音
やまない雨の音
降り積もる
昔みたいに
曜日のない暦
夏の数日
確かに生きた
覚えたての呼吸で
....
フォーエヴァー
今日はね、フォーエヴァーについて勉強します
先生はね、勉強、教えちゃいます
だってね、先生だもん
あなたたち、生徒なんだもん
英語で書くと
forever
ス ....
お客様が来て壊れた扇風機の話をする
いつから動かない、とか
動かないから涼しくない、とか
壊れるようなことはしていない、とか
その間にもお客様は松月堂のケーキを食べ
美味しい珈琲ですね、 ....
駅に落ちていく
そう言って笑った父方の叔父
さっきから肩があたっている
どうしたら落ちていくのだろう
父方の叔父、ねえ、叔父さん
夏の早朝の駅舎
点検する若い駅員
駅に落ちていく ....
清水さあん、と声を掛けると
一斉に振り向く人たちがいる
ざっと百人
ざざっと百人
鳥に換算すれば
ざざざっと百羽
空も飛べる
清水さんはお裁縫が得意だった
お裁縫が得意な清水さ ....
薄色の電車
駅に着くたびに
肋骨を触って
遊んだ
指先に水滴が集まって
見ていると
きれいだった
お父さんが、いい、
と言ったから
遊び続けた
手やその先が
優しい人 ....
待ち合せの間に珍しい植物を育てる
自転車に乗って行く
種は割と雑にして水は毎日あげる
毎日は確かにあって
待ち合せまではもう少し時間がある
ついでに自転車の錆を落とす
ホームセ ....
父と僕の妻が併走する
妻にとっては義理の父
僕にとっては実の父
父とはそういう人だった
ダース・ベイダーにとってルークは実の子
ソロは義理の子
フォースも使えないし、
カ ....
苦い紙を足していく
食べ砕く
本当は駄目だって
みんながそういう話をしている
みんなは不特定多数
一様に挨拶をしていく
風に揺れて紙を足していく
誰も食べないし
砕かないし ....
水に濡れたまま
雨にうたれている
妻が傘の下からタオルをくれる
いくら拭いても
濡れタオルだけが増えていく
妻は可愛い人
こんな時でも傘には入れてくれない
濡れタオル屋でもや ....
窓の外に友人がいた
多分、窓などなかったのだ
お茶菓子も随分と出さなかったが
窓がなかったのだから
とても気は楽になっていく
何がそんなに友人なのだろう
適度なりに酒を酌み交わ ....
いつまでも、が終わらない
夏のいつまでも
冷やし中華始めました
写真より冷たくなっていく手
冷え性なもので、と
言い支えるせめてもの君
三丁目産まれの君
三丁目の人間はほとん ....
大塚駅前で砂鉄を集め終えると
人がプールになる
僕がプールになる
水に、むしろ
水が、の話として
全体的に集まればプールだよ
小型犬もゆっくり通り過ぎて
日差しを浴びる
僕 ....
壊れて動かない入道雲の下
燃えつきた花火のために
僕らはお墓をつくる
昨夜なぞったでたらめな星座の名は
天文書に記されることもなく
忘れられていく
つぎはぎだらけの不細工な幸せ ....
改札口から人が出てくる
そんなこと言って
出てくるのが人である
時々そんなことがる
自分の部屋が改札口に直結している人は便利な反面
人の出入が多くて大変だし、退屈もするし
僕はそんな時
....
お通夜があって
みんな傘を忘れている
窓の外には古くからある市場
誰かの窓にもあるだろう
県管理国道から小道を進み
みんな歩いて進み
本当に歩いているから
誰もが参列者になる ....
祖父の名前をふと思い出して
口にしてみると
聞こえてくる祖父の名前がある
祖父は他界する間際まで
新鮮な毛布にくるまれ
駆けつけた親戚たちは
その周りで酒や水を飲んだ
酒も水も飲めな ....
自動販売機で「夏の海」を買った
ペットボトルの海を一日中見て過ごした
水平線には夕日も沈んだ
家に帰り
何処に行っていたのか聞く妻に
海、と答えた
妻は、ウソ、と呟いた
出会った ....
墜落した紙飛行機が海に沈む
無人の自転車が男を追い越していく、と
男は置いてきた遺書の誤字に気づき
慌てて家族の待つ家へと帰る
妻は夜更けまで
サマーセーターを編んでいることだろ ....
あなたが少し、と言ったから
少し、と思った
わたしたちはどうしても
わたしたちに似たものを探してしまう
それは少し、というよりも
むしろもっと少しの、もの、こと
わたしたちの ....
木立ちを抜けていくのが
私たちの木立ち
だからすっかり抜けてしまうと
教室がある
先生は、と先生が言うと
先生は、と復唱する私たち
やがて始業のチャイムが鳴り
つまりそれは
....
海水浴場で父を洗っていると
監視員さんがやってきて
ここは海水浴をするところです、と言う
洗っている、といっても
石鹸もシャンプーも使ってないし
水を身体に濡らすところなどは
....
万年筆の花が咲く店でホウキを買った
女性が一人で店番をしていた
ここまでいくつかの霜柱を踏んでやってきた
あの万年筆の花があれば霜柱ももう少しうまく書けたな、
と思いつつ何も言わず ....
辞書に雨が降り
やがて水溜りができた
海と間違えて
文字たちは泳いで行ってしまう
僕は代わりに
いつか拾った流れ星を挟んでおいた
柔らかいものはみな
今日は朝から倒れている
....
みかんの皮を剥く
皮が出てくる
剥いたはずなのに
と思って皮を剥く
皮が出てくる
ええっと、何だろう
と思って皮をむく
皮が出てくる
落ち着け、今までのは気のせいで皮など剥いてい ....
冷蔵庫の中から動物たちの鳴き声がする
中に動物園が出来たらしい
食材などに用があったのに
動物や檻の合間を縫って
上手に取り出せる自信がない
仕方なく、冷蔵庫の隣で
キリンの口 ....
店員さんが運んできたコップの中に
凪いだ海があった
覗き込めば魚が泳いでいるのも見える
こんなにたくさんの海は飲めそうにない
先ほどの店員さんを呼ぼうとしたけれど
彼女なら里に帰 ....
ある日、ふと
僕がどこかに行ってしまった
家の中を探しても
戸外を探しても
どこにも見つからない
自分の中を覗き込んでも
ただ海のようなものが広がっている
どこか遠くの方から ....
砂漠で椅子を並べている僕の耳元で
佐々木さんがささやく
卒業生たちは丁寧に会釈をしながら
前方から順序良く着席していく
人は生きているとささやきたくなる
だからいつか人は死ぬの
....
幸せだった
あなたも
わたしも
脊椎動物に生まれて
+
心臓が痒かったので
慌てて掻くと
僅かばかりの
生活があった
+
収穫を終えたばかりの
アーモンド ....
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