睦夫は金星棟を目指して通路を歩いていた。そこで奈々子といっしょに、仁乃から勉強を教わるためだ。
 ふと足を止めると、睦夫は二つにわかれた分岐点に立っていた。一方はまっすぐ進んで水星棟へ、もう一方は ....
 火星棟の二階に、屋敷内で唯一の図書室があった。出入り口の付近には貸し出しカウンターがあり、中に入ると、細長く伸びて広がっている室内の、薄暗い奥へ向かって、古い書架が何列も並んでいる。本にはカテゴリ別 ....  厨房で、秀人と仁乃が二人、食後のかたづけをしていた。仁乃は台所で食器を洗い、秀人はキッチンテーブルについている。
「あの子たち、今日は外のノイズが薄いとか言っていたね。ノイズが濃いとか薄いとかが、 ....
その太陽の中で夏があえかに蘇るポストの扉を、十二月がジョルジュ・サンド広場へ殺到する以前に、あたかもクーリングオフで梱包され損なった航空便が、ひとつまたひとつ再検査に引っかかり、検閲され、徴収され、洗 ....  “食堂”に五人が揃っていた。
 だだっ広い食堂の空間の中央からややはずれた所に、白いテーブルクロスをかけられた大きな矩形の卓が置かれている。厨房からの灯りがわずかに漏れ出して、食堂の全体を仄かに浮 ....
   幽霊列車


「ずっとむかし、ソラは青かった」
「天にはただひとつの太陽がかがやいてた」
「青いソラには白いクモがひろがっていた」
「クモは水でできていた――わたのような蒸気のか ....
 駅前からは、彼の案内によって、私は進んでいった。
 はじめのうち、彼がはっきりと道順を指示するので、なんの疑問も持たず信頼して従っていた。
 しかし、それはしだいに怪しくなってきた。迷いなく指示 ....
 私は駅に向かって道を歩いていた。
 川沿いの道を離れ、駅へと続く二車線の車道と、その両際の歩道をへだてる境には、低木の植え込みとポプラ並木がずっと続いている。
 しかし、首というものがこう重たい ....
 旅。そう、私は遥かな昔から旅を続けている。そして、旅は私の在り様と結びつきすぎていて、実際のところ、いったいいつから旅を続けているのやら、その正確な年代は思い起こすことができない。しかし思い出せる限 ....  普通のひとは自分の骨のことなど普段あまり意識しないものだが、私はこうして関節が軋るようになったので、自分の骨のことばかり意識するようになった。
 動かすたびにギイギイと大きな音をたてているようなイ ....
以前、オデュッセイアが40日間の物語であることを確認しようとして果たせなかったが、海外にそれをやっているサイトがあるのを発見した。以下のようになるという。


1日目:
神々の集会で、アテナは ....
そもそも俺は俺がどこから来たのか知らない。
湿った落ち葉に覆われたつるつると滑る斜面を、両手で這い登っていたのが最初の記憶だ。
それから茫漠としてよく憶えていないが、苦労して長い道のりを上ったり下 ....
 遠い古い時代のこと。一人の旅の商人がいずこかを指して道を歩いていた。
 やがて村落の境にさしかかると、石を積んで作られた小さな塚(ケルン)が道端に祀られてあった。
 それは旅人を案内する目印であ ....
第五歌   オデュッセウス、筏を作りカリュプソの島を出る


【人物】
ヘルメス…ゼウスの決定をカリュプソに伝えた
カリュプソ…神々の命令により、愛人オデュッセウスを送り出す
オデュッセウ ....
第三歌   テレマコス、ピュロスでネストルに会う


【人物】
テレマコス…父の消息を尋ねてピュロスへやってきた
ネストル…ピュロスの国王。トロイア戦争の英雄
メントル…アテネ姿を借りてい ....
第一歌  テレマコス、父の消息を求める旅を決意する


【人物】
オデュッセウス…イタケの王。トロイア戦争の英雄。今は放浪の身
テレマコス…オデュッセウスの息子
ペネロペ…オデュッセウスの ....
オデュッセイアは開始から最後までが40日間の物語ということであり、全24歌からなる。
ここでは4歌をひとまとまりと考え、6つの部に分けて考えてみるが、これは個人的な思いつきにすぎない。
その6つの ....
(1からの続き)

 ――我々が問題としなければならないのは、二十一世現代の日本における、まさにその場所、その瞬間に手にされた、ある特定のタルタルソースであります。
 それは、さる×月×日のこと ....
 平助は重苦しい空気をひしひしと感じながら、発言を続けていた。
 こういった問題の検討について倫理的な側面ばかりでなく、生物学的社会的なアプローチが必要だということを、平助は執拗に説明しようと試みた ....
断続的に降る雨からハッカと血の匂いが漂った
あの徒刑の夏から、ハッカと血と雨とは混ざりあっていた

断続的に逃れる排水溝から排水溝へ、ひとの話を信じないぼくと
自分の話を話さないきみと、秒針の ....
高架のさらに上にあるからって
べつに高い所が好きだったわけじゃない
バカとネコは高い所が好きというけれど
やむかたなくこうなったというか
おれもむかしはひとなみに世間にでて
多様な人間同士の ....
何を拾っているの
幼いほうの少年が訊ねると
人の骨を拾ってる
と半ズボンの少年は答えた

初夏の海辺を二人は歩いていた
緑色の半ズボンを履いた少年は
白い砕片だけを選んで拾っていた
― ....
喫水を傾いだキャラベル船から
周辺の魚にふるまわれた金貨が
凍える泡を巻きこんだ海流の底に
横たわった鏡をつらぬいて
細い螺旋を描きながら沈んでいった
激しく凝集する深い奥には
歪んだ 乾 ....
日ごろ 砂丘の獄舎では うっとりと
留まりかけた 朴訥な優しさも
指先の 堪えない神経が どうして
絶え間なく 頭を下げさせる
君の おじぎ草 のように
夜 ティンパニー 膠着した過去は
 ....
「あんた、何したん」と母が言った。
「えらい言う事きくようになってたわ」
 そのころ家で飼っていた犬は、まさに野放図というか、散歩の度に急に向きを変えて走り出したり、ヒモを引っ張っても頑としてその ....
円筒世界の歩幅を
定礎を割る両足を
暫定する夜の橋梁を
凍える秒針を
いつぞや清澄な呼び声に
言葉たちは微笑を得る
ただ暖かな電球の列を
内側の丘陵から灯して
傘だけが望ましい
針葉 ....
何という曇天か!
調停は断固として拒絶された
それから涙ぐましい年月だった
粘り気を帯びた雲の低さたるや
橋塔の先端に触れんばかりであった
黒地の御旗が疾風になびいて
金管が酷薄な分散和音 ....
ふもとの牧場をよぎるものは
いつかふたつの影をみていた
不安は彼のものではなく
疑いは彼のものではない
荒涼とした断頭台の丘陵が
不埒に入り組んだ森と
遠くの煙突の羅列に重なり
全く明朗 ....
晴天 やがて使い込まれた
ガラスケースの街並みは
生まれるのと同じ速度で
あわただしく死んでいった
もう一度彼だけは普段着で
重たい顔をあげて
何ごともないかのように
ミラーを通りこして ....
以下は我らが代表、G・高倉の「リアリティの容貌と方向性」と題された講話をテキストにおこしたものである。(S)


諸君、人を傷つけるということ――
さて私たちはつねづねこう考える
人を傷つけ ....
hon(43)
タイトル カテゴリ Point 日付
七人の話 その5散文(批評 ...008/1/8 21:01
七人の話 その4散文(批評 ...007/12/16 22:27
七人の話 その3散文(批評 ...007/12/5 23:35
降りつのる淫雨のように未詩・独白007/11/22 21:54
七人の話 その2散文(批評 ...007/11/13 23:20
七人の話散文(批評 ...007/11/4 1:23
骨と首の話 その4(完)散文(批評 ...107/10/10 23:44
骨と首の話 その3散文(批評 ...007/9/24 1:15
骨と首の話 その2散文(批評 ...007/9/17 2:24
骨と首の話散文(批評 ...107/9/10 0:24
オデュッセイアの時間経過について散文(批評 ...107/8/19 19:05
無題散文(批評 ...107/8/18 23:14
ヘルメスとヘルマ散文(批評 ...107/7/30 1:48
ホメロス「オデュッセイア」メモ 5-6散文(批評 ...1*07/7/20 0:06
ホメロス「オデュッセイア」メモ 3-4散文(批評 ...107/7/14 0:00
ホメロス「オデュッセイア」メモ 1-2散文(批評 ...107/7/13 0:01
ホメロス「オデュッセイア」メモ 0散文(批評 ...307/7/3 21:24
白いタルタルソースの伝説(2/2)散文(批評 ...107/6/27 23:34
白いタルタルソースの伝説(1/2)散文(批評 ...107/6/25 21:56
無謬のワルツ自由詩207/6/21 20:06
高架上食堂の朝自由詩007/6/13 21:28
砂汀自由詩307/5/26 1:10
シーツの水底自由詩207/5/19 21:49
おじぎ草自由詩207/5/16 0:52
従順散文(批評 ...107/5/13 2:03
夜と眠り自由詩107/4/28 1:32
騎上自由詩107/4/22 0:20
牧童自由詩207/4/22 0:19
故郷自由詩207/4/22 0:19
代表ジェラルミン、おおいに語る自由詩007/4/11 23:24

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