考えが考えになる前の
弱くふわりとした場所の
まるい{ルビ柔毛=にこげ}に浮かぶまぶしさ
手のひらにのる
手のひらを吸う
ふたつに分かれた音のひとつが
もうひとつの背を ....
誰かの何かになれないと知り
片方を閉じ星を見つめた
道のむこうの道を見た
風はひと葉にひとつあり
ひたいの上で水になった
指のはざまで光になった
生まれたばかりの宙宇の ....
時間のなかに棲む蟻が
別の時間を描いている
滴と傷をまたぎ
影を喰んでは歩む
曇が廻りつづけている
鳥と光が
光と鳥をくりかえし
曇の前をすぎてゆく
時間が ....
火に声をかけ
火は昇る
木は かけらをわたす
蝶の影
静かに 細い
雨の陽
高い風 目を閉じ
空はこぶうた
灰の陰の青
鉛の刃が
水の紙に沈 ....
重なりつづける眠りの底に
かすかに生まれ
浮かぶ手のひら
目をつむり 在るのは
無いということ
分からぬくらいに
離れていること
隠しても隠しても
は ....
曇のはざまに
破裂する曇
おまえはまだ曇なのだ
散っても散ってもなお曇なのだ
もう飛べない鳥
干からびた命と
ひとつになれ
ひとつになれ
ひらいたままの ....
水や峡谷の国の演者が
水や峡谷の音を奏でれば
それが水や峡谷なのか
おまえの水や峡谷はないのか
孤独が{ルビ蠱毒=こどく}になるまでに
自身の何を殺してきたのか
それと ....
髪と声をほどきひもとき
あなたから生まれ出るものを
得ることなく得ようとしている
羽と鱗が 同じもののようにまたたく
夕日と虹といかづちを
分けることができないまま
....
灰の混じる手で
顔を洗う
灰は髪になる
灰は語る
火が残り
背を照らし
髪の影を燃し
ひとりを浮かべる
月を連れ 別れる
赤い光が 鉄路を去る
隣を歩む ....
目から水を飲み
花になり
やがて言葉に
うたになる
数歩のぼる風の音
ひとつひとつの段の上に
しずくを含んだしずくが震え
空を囲む樹を映している
触れてはこ ....
微笑みかけた頬
何もない明るさ
目を閉じたまま
早く目覚めすぎた朝
何かが既に去った跡
曇と曇のはざまの手
子の膝もとに蛇はいて
緑に金に
息をしている
....
外へ飛びたち
かけらを食べた
光になれない
鳥は何になる
次の虫がもう
鳴きはじめた
小さな背の原
熱ではないもの
葉をひるがえす
さよならを解く
....
水に挿されたくちばしが
海を海へ引き寄せている
己れの舞を舞うものにあふれる
帳も 色も
響きを奪われ
なお鳴り響く
ひきちぎられた
半分に満たない
紙と鉛 ....
声の名残りが
短く重なり
雨と雨の手
屋根に眠る手
甲をめぐる
ひとつの羽
道はかわき
風は糸に寄りかかる
見えない刃と刃がすれちがい
音だけが回り 残さ ....
空に埋もれた巨きな鳥を
指でたたいて確かめる音
少し傾いだ雨になる
片足を尾のように動かして
屋根の音を追っている
何もない日の生きものの笛
水のなかで抱く ....
午後の手を夜にするもの流れ落ち月と灯の影ふちどる熱さ
羽のうた夜と火のうた見張るよに双子のはざまを埋める海鳥
のばされた指の遠さに星は消え波をつらぬく矢は燃え上 ....
窓の外から落ちた緑が
床に白く焼きついて言う
おまえはここから
進んではいけない
線に阻まれ
家をさまよい
見たことのない部屋に着き
水の流れと粒を聴く
舟 ....
短く撓んだ橋があり
歩いても歩いても
向こう側につかない
ひとつの巨きな魚の影が
川底の蒼い建物に落ち
頭でもあり尾でもある尾が
無数の泡の影を束ねている
吼え声 ....
沈む地と{ルビ曲輪=くるわ}を
音は巡る
尽きぬかげろう
止まぬ流れ
光より遅いものたちの
さざめきとかしわ手を聴いている
手のひらから手のひらへ
指から指へこぼ ....
火と花と手
小さな胸
火は花は手
風と声が水になり
窓の外を流れている
音の影は 鳥に分かれる
古い息が聞こえくる
指に触れて 景は走る
何かから逃れようと振り ....
らうあ らうあ
翳りの帆
道を泳ぐ道を読む
悲しさになると
消える悲しさ
空と水をつなぐ坂
そばだてた耳が唱になり
影を踏まない影の足もと
ほころびをひとつ ....
雨と晴れをくりかえし
建物はまた高くなる
いつのまにか空は細く
うたは縦に縦に流れ
震えと響きははざまを覆い
異なる風の種が降る
いつか道の涙から
小さくひらくかたちが現われ ....
三度に分けて呑み干す光
その日かぎりの地図にこぼれ
街はひとつ低くなる
空き地は碧くたなびいてゆく
わずかに曇った風が吹き
ふところに涼しく正座している
頬を染め 空を ....
内に外に転がる音の
離れてもなお近しい音の
ふさふさとした
柔毛の音の
遠さは鼻先のまま香り
同じ色の大きさに降り
布をくぐる
まぶしい輪唱
ある日どこかで ....
蝶のかたちの光の前に
家より大きな花があり
ひとりの影を映していた
小鳥は話しかけた
誰にも届かなかった
道につもりつづけた
同じ姿と響きを持ち
確かに共に居たも ....
目を閉じ
骨を確かめる
歯のかたち
牙のかたちを確かめる
地平線まで
指はのびる
ひらいた骨が
永さを失くした海を奏でる
あらゆる証書が
毛虫のようにうご ....
雨がひらき
匂いは昇る
あたたかく 甘く
光になる
白い歯車
心をまわし
雲の映らぬ涙になる
手のひらの空に繰りかえし
現われては消え 叫ぶもの
二分きざ ....
双つの雨音を右目にもどし
煙を数えて夜は明ける
みな何かをすぎてゆく
みな何かを置いてゆく
欠けた娘を肩にのせる
鏡の向きがいつもと違う
欠けた娘を肩にのせる
....
夜はせばまり
夜はひろがる
粒と浮かぶかたちと唱と
妨げを泳ぐ轟きと尾と
波の終わりとはじまりに
砂の言葉と花火があがる
水からひろいあつめた羽と
貝のかたさの音のつ ....
濡れた羽が陽に群がり
熱と風をついばんでいる
粒にこぼれ 分かれる光
陽のかたちをひろげゆく
わずかな空と多くの地があり
様々な花に覆われている
重なりとはざまのひとつ ....
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