すべてのおすすめ
どれだけ乱雑に穴をあけてもあなたが上手に枠をつくるので素敵な窓になってしまうのであった。わたしの体
あおむけにした手のひらは雨をうけても陽をうけてもなにかを掴むことをせず、笑ったり泣いたりするの ....
宝籤はもうすぐ二歳になる。相変わらず尻尾の先をわずかに白く染めているかわいい黒犬。でも、もう自分の手足を持てあましたようなちぐはぐな動きは消えてしまった。暑い日、賢い番犬よろしくブロックのうえに身 ....
なにひとつ
ただしくはなかった
空白をうめるようにする
女のからだでは
ただしくはなかったかもしれない
すがるように言葉を編むこと
空を濁らせる 嘘を吐くこと
つめたい気持ちに線 ....
庭で宝籤が吠えると、赤ん坊はゆるめていたこぶしにすこし力をいれる。両腕をま上にあげたかたちで―頭がおおきくてまだ手がまわらない―眠っている花。
ゴムでできたボールを奥歯のもうすこし向こう側で噛んでい ....
コンビニエンスストアで売っている、ひと口でたべられるゼリーは、ふたのビニールを開けるときにぜったいになかの汁がとびでてくるので、指がべとべとになってしまう。だから夫はそれを食べない。
夫のいない ....
0/0 あの日、なめらかな布をいくつもくぐって、白いもののなかで、わたしの体はぴったりと「幸福のかたち」のなかへおさめられていた。幸福、ではなくて、幸福のかたちのなかへ。微笑んだり、笑ったりするすべて ....
疲れている。咳がつづいている。
疲れているし、混乱している。
混乱と混乱のすきまに、しずかな時間があるのだが、すきまの時間がどんどん短くなっている。わかっている。どんどん短くなったのちに、また ....
偉大なもの。時間、鳴る体。体温,天気、あらゆる液体の性質。またいつの間にか伸びた髪の毛を黒く染めた。これはもしかしたらひとつの儀式のようなものかもしれない。酒好きの男に恋をしていた十八ヶ月のあいだ ....
ちいさながじゅまるの鉢植えを夫が買ってくれた。土曜日、駅のよこにある小さな、閉店間ぎわの花屋で。つめたくて、青い、「2」という数字がかたどられた陶器に入っている。
植物の方が、動物よりもなじ ....
蒼白い頬が好き。と言ったら気味悪がってそのあと一度も連絡が取れなくなった子もいたしなんでか食事を抜き始めてばかみたいに痩せてみたりしたひともいた。いろんなひとがいた。でもみんなどこかへ行ってしまった。 ....
人を
ただしい場面で
ただしい順序で
ただしい角度に
揺すると
泣く
そのただしさを
習得することを
愛とか技とか
呼ぶ人びとを
軽蔑し
憎んでいるわたしも
ただしい角 ....
夏休みでした。水族館へ連れて行ってもらい、夕食付きのホテルへ泊まった。
水族館では、いるかの跳ねるところと、くらげの展示と、あしかのショーの最中に、濡れたあしかの肌が、おどろくほどすべらかなさま ....
わたしたちは誓いました。そこで
わたしははじめて誓いを立てました
(わたしはいつもそうです、「まさにそのとき」が来るまで、それが、いったい何なのか想像することもできない、そしてそれに立ち会 ....
枝まめのからをいちいち剥いて、煮立った出汁にいれてすぐに火を止める。つやつやした色のつぶ。おとうふはいちど湯がくと灰汁がでてやわらかな口どけになる。片栗粉を水で溶いていたら夫から電話があり、遅くな ....
こちらへ住むようになって8ヵ月が経った、といえば、もう慣れて当たりまえだという頃だけれど、しかし昨年の9月頃まではまだここと、実家とを行き来していたから、じっさいに腰を落ち着けてからはやっと、3, ....
この問いは答えでできている、この答えは問いになっている。あらゆる嘘は事実の隣にしか存在することができない。わたしは何かを探そうとしている、ただしいものを探そうとしている。傾いた夜、かわいた秒針 ....
ひざを立てて文章を書く。
わたしはわりと痩せているので、手足はあんまり若々しくみえない。骨が出ていて、かりかりしている。でもわずかながら筋力トレーニングをしているので、ふくらはぎにはけっこうしっかり ....
わたしはあなたを殺したかったので
音楽をつくった
わたしはあなたを殺したかったので
いちばん美しい言葉をさがした
わたしはあなたを殺したかったので
台所に立って刃を研いだ
わたしはあな ....
紫の残暑が湧き出る。コンクリートの硬質を嘲笑うように。明るいところとそうでないところをたがいちがいに踏みつけながらきのう見たテレビを思い出している。
それはせみの羽化の映像で、ナレーションは ....
みじかく、強めの雨がふる。もうやんだかなと思えばまた降り出し、まだ降っているかなとおもえばもうやんでいる。そんな調子で。
ぼうっとして、すこしずつ痩せたり、太ったり、食べたりしている。
子 ....
はじめて情事を体験したときそれは情事じゃなかった。情事と交尾はちがうことだとすぐにわかったし、わたしの体験するそれが情事ではないこともすぐにわかった。だから早く子供を作ろうと思った。交尾ならば結果をつ ....
それから
すこしだけはなしをした
核心の
すこし手前をうめていくように
ほんとうは
言葉も
いらなかったけど
なんとなく
そうしたほうがいいような気がして
す ....
「海は嫌い、夏も嫌いだし、晴れも嫌い」 僕が何よりすきだった君
わがままな人ほど白が似合うのだと知った 季節が変わる音がきこえた
ティッシュペーパーに百円ショップのサインペンで絵を書いていたよね。いちばん毒々しい色合いになるからって。僕は意味がわからなかったけど、なんとなくかなしい感じにえがかれるティッシュペーパー嫌いじゃな ....
ながい柵があり
(たとえばそれは
夜だったり朝だったり
場所だったり人だったり
あるいは思想だったりするけれども)
ともかくながい柵があり
内側というのは
どちらですか
檻 ....
梅干の転がる先の卵焼き
群青の布引いて気持ちだけ海
雨の日の青菜は少しだけ薄味
のり弁の日はいつもよりいいお茶で
蓋をするときのひそかな緊張感
髪を切った。たくさん。
ばかに明るく、たくさんの鏡に囲まれた美容院。やわらかくなった毛先と、骨ばった手にほぐされる頭皮。わたしは犬のように従順になって、なされるがままでいた。耳元をとおりすぎる小気味 ....
いとしさの痛みあつめて穴を掘る
はれわたる白い世界と細い背と
うしろ手の情と熱とを持て余し
(ベイビー、ベイビー、こっちへおいで)。
柔らかい茶色をなでれば、いつだって安心して息ができた。
ベイビーはあかるい毛色の頭のいい大型犬で、メイロさんがどこかからもらってきた。もう子い ....
「届かない」 抱き合いながら目を伏せる
いとしさの静寂にふる白い雨
引き寄せるつよさをはかる むなしさよ