早朝の河原で
かすかに首を動かし
じっと横たえる獣がおりました
わたしはそっと抱き上げ
セーターにくるみましたが
手袋を噛んで
小さく鳴きました
カラスにやられたのか
鼻先に赤いも ....
おんなとわたしもまた
時間や空間や生命のいちぶをなした
ちいさな文明にちがいなかった
川は文明のゆりかごだ
ヴォルガをみつめていてそんなことを考えていた
青と灰いろに ....
貴方はせっつくから
苦しい。
もっといい加減に
もっと楽に
もっと無責任に
なりなさい。
答えを求めすぎ
どう思っているか尋ね過ぎ
馬は水辺に行っても
水を飲もうとしない ....
昨日死んだ愛猫の
硬くなって冷たくなった
生前の柔らかさを失った
その朽ちていく体を前に
悲しみが目を通って
忙しく立ち去っていく
その一方で
航空機事故で亡くなった
大勢の日 ....
世界地図を描くと
いつもはみ出してしまう
そんな遠くの大陸に広がる
乾燥した椅子地帯では
今年もイスコロガシの
産卵時期をむかえている
普段、イスコロガシは椅子を餌としてい ....
ぷつん。
あなたとの関係が切れた音よ
いやちがう
ばりん。
あなたに会えたら今にも飛び込むわ
がしゃん。
声も聴けないの
ぱたん。
あなたずるいのね
ごとん。
条件に合わせる生き方 ....
赤く染まる
芥子の花が咲き
乱れる
どこまでも続く
白い墓標の列
海鳴りの
やむことを知らぬ町
忘れようとしても
消え去らぬ {ルビ戦跡=きずあと}
{ルビ頭 ....
いまにも降りだしそヲ、
降りだしそヲ、
降りだしそヲ、
降りだしそヲ よ
あの
雲 底
( )
( ) ....
自分が木螺子だと気づいたのは
空の水が全部落ちてきたような
凄まじい雷雨が通り過ぎた後だった
公園のブランコの下の水たまりに
たまたま自分の姿を映した僕は
ほんの少しだけ驚いた
で ....
空をなぞって
言葉がはじけていたのは
少年だった頃
女の子がおはじきに
言葉を色分けして空き缶に詰めていった
夏の海に帰る前に
すき
という二文字が ....
ゆで加減に失敗した海鮮パスタを食べていると玄関のチャイムが鳴って、ますます気分が滅入った。お届け物でーす。ドアを開けるなり、男性宅配員の間延びした声とともに――これはなんだろうか――賞状などをしまっ ....
トイレにはいるたびに
作り笑いの練習をする
たまには心から笑えるのではと
期待もしながら鏡をのぞく
宗教しているおねえさんは
嘘でもいいから笑いなさいと言う
嘘でしか笑っていないという ....
逆立ちをしているゾウの足に
流れ星が刺さった
昼間の明るさで
誰にも見えなかった
ゾウは少し足が痛い気がしたけれど
逆立ちをやめてしまうと
子どもたちががっかりするので
我慢してその姿勢 ....
いつも前をみなさひと叱つてくれた母/あでやかに彩(いろ)めきわたし生涯初のだいびんぐ/息をみたし瞼をとぢて“さよなら”のかたちで関節をのばす
すでに顔をそむけ唇を噛みしめ/母のしおからひ指先をは ....
大内峠から徒歩で
大内宿の街道往還に出たとき
秋とは言え、紅葉も落ちかけの季節は
旅人の心も体も
芯から萎えさせ冷たくさせる。
街道沿いの落ち葉を踏み締め
漸く視界が開けたところは大内 ....
死地のように獣も
死地のように獣も
頭の上の宙空から
常に何かを発しながら
進む道を午後に変えてゆく
....
ヨドバシカメラ大ガード店向かいの雑居ビル
六階にはやはり怪しげな不動産屋が入っている
階下の換気扇が焼き鳥の煙を噴き上げる
ドンキの店頭商品じみた事務の娘は
毎度同じ罵り言葉を吐きながら窓を閉 ....
<ブラッディ・マリ―>
ブラッディ・マリーと君の唇の色が同じだから、
どちらに口をつけようか迷っている。
君は何のためらいもなく赤い液体を飲み干す。
重なったその色が乾く前 ....
キョウもなお いきてゆくのか
イジキタナクも いきてゆくのか
外では ゴオゴオと風がなり
それをあびることなく
ポツねんと 部屋のなかに おる
はかなくも 厭世などというものは
セイネ ....
ハエが世界を一周した
けれどとても小さかったので
誰も気づかなかった
ハエは自分の冒険を書き綴った
ジャングルの中で極彩色の鳥の
くちばしから逃げ回った日々を
港のコンテナ ....
母は黙って
何層もの小さなレースを
縫い付けていた
私たちの家庭に
あらゆる窓が
母のつくったレースで埋め尽くされても
黙って縫い続けた
私たちを見ずに
母は
母であり続け
....
今日は
風が強くて
冷たくて
自転車で転びかけて
体育のバトミントン
ペアの子が休みで
試合も何も出来なくて
工芸の実技授業
軽く火傷して
昼休み
話し相手が見つからなくて
先生に当てられ ....
雨を
風を
君は無情と例えたが
ごらん
あんなにやさしく美しいものはないじゃないか
ゆうべの雨が
ななかまどの葉をすべて攫ってしまい
衣をはぎ取られた枝が艶め ....
そらに
コップがうかんでる
ほんらいの
とうめいなすがたで
にどと
われることもなく
コップに
なることもなく
{引用=
図書館へ向かう碧いスロープの
脇に咲く珊瑚の合間を縫いながら
ゆらゆらとスカートの尾ひれを漂わせて
記憶の深海へと迷い込む
見たこともない
七色の藻屑を拾い集め
繰り返し剥 ....
うつろな視界の外側で小鳥の囀る気配
ひとしきり肩の上を行ったり来たり
動こうとせぬ私の様子をいぶかしく感じたのか
右の頬を軽く啄み樹海の奥へと飛び去った
時の感覚を失う
それがこんなにも ....
きみには本来だれもいなかった
血を分かつはずであった兄や姉はもう先に、
緑色のはなたれた地平で仲よくみつめあって
いた。ほとんど恋人のような握りかたの
手と手
は
かたくリボンで結 ....
クジラの背中に
独裁者の豪邸が建った
どこよりも高く
民衆を見下ろせた
一匹のカマキリが飛んできて
両手の鎌でそれを壊した
拍手喝采のなか
クジラは大きな口を開けて
悠々と ....
幸せ
孤児院住まいの見習いウエイトレスは
真っ赤な口紅のついたコップを載せた
ステンレスの盆を厨房の隅にそっと置くと
裏口から同じくらいにそっと出た
ダイアモンドとマスカラのお客はま ....
強烈。
ジャニス・ジョプリン体験は中学2年だった。ラジオから“Summertime”。女がこんなにシャウトできるのか、いや男でもこん
なに歌えるか? というそれは驚愕だった。
四畳半の呟きフォー ....
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