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干草色をした
豚の死骸の、腹の上に
尖ったつま先を押し当て
バレエダンサーが回転している
白く、
白く
バレエダンサーが回転している
酸素を吸い込 ....
夢を見た
左脚を喪った
整った肌の少女が
ふらふら回っているような
君は
か細い針金を
丁寧に折り曲げて
全身の骨と取りかえた
....
月が
奏で、
室外機が歌う
実直な夜
君が
眠りにつく頃には
風が
そっと
欄干を滑り落ちて
夢の水へ沈む
....
五月、
鞄のなかで
ぼくは死んでいた
たくさんの緑に包まれ
豊かに死んでいた
柔らかな乳房の
香りだけ憶えていた
影と
影とが出会い、
つめたい脚を絡ませる
太陽は
西に佇み
濁ったガソリンが
そっと背中を流れてゆく
きみの口から
高速道路が伸びていた
ビュンビュンと車が行き交う
粘液のような真夏の夜に
赤い光を撒き散らして
そこには、一台だけ
逆走してい ....
暑い夜は
沢山の手が
跡形無く持ち去っていった
黒檀のヴァイオリン
きみの
美しく長い舌の上
一面に広がるれんげ畑
雪どけの淡い水が
陽を吸ってさざめいている
僕は、そこで
幾つかのたいせつな思い ....
四月、僕は
川のある町に
あたらしく暮らし始めた
水をふくんだ日の光を
吸いこむと、眼には涙が滲んで
黄色い床に積まれたままの
段ボールをつ ....
元気がないから
ぼくたちはただ
夢のどこかに広がる
だだっぴろい草むらに
黙りこくって穴を掘ってる
そんなような
お別れの時がきて、
....
倉庫の隅で
ひとつの闇と
もうひとつの闇が
汗をかきながら踊っている
南京錠のこじあけられる
冷徹な音をおそれ
かれらは時折、同時に
....
ぬるい春の夜
アスファルトの上に
花が降っている
葬儀屋の看板が
ほんの少し口角をあげる
目に見えぬ桃色の貝が
ひそかに息を吸い ....
くらい魚が一匹
つめたい壁をおよいでゆく
誰かが忘れていった
後ろめたいつくりごとが
ライターの灯りに揺らめく
髪の長い日暮れ
夕方の台所で
君を抱きしめた
つらいことが沢山あったし
他にどうしようも無くて
火にかけたアルミ鍋から
醤油の優しい匂いがただよい
嗅ぎなれ ....
籠の中で眠っていた
バナナの果皮を捲ると
ぎっしりと雪がつまっていた
溶けてゆこうとするそれを
あなたは指の腹を使って
精一杯に踏み固めた
....
フローリングから
朽木のような背骨が生え
天井を突き破ったのが
つい先日のこと
割れ目から
微かにのぞく青いもの
青空と呼ぶには
少し ....
薄桃色の
柔らかなパジャマ越しに
君の左胸に
そっと僕の手を置く
温かくないけれど
正しくもないし
なんの役にも立たないけれど
君にあ ....
灰色の老人が
灰色の部屋に
冬晴れの空より蒼い
バケツを忘れていった
その、つるりとした底面に
透明な昆虫がうじゃうじゃ蠢き
透明な手首を噛 ....
ベッドに
開かれたままで
一冊の絵本が載っている
水と絵の具で描かれた
くすんだ楡の木の下
涙を拭っている女の子の頁
その上に犬が寝そべっていて
....
空き缶がある
中に一匹の蝿がいて
ぶんぶんと旋回している
わたしの耳に聞こえている
耳にだけ聞こえている
蝿は蝿を欠いている
蝿は蝿を欠いている
....
最後だから笑った
夏の日のあなた
帽子をとって
強すぎる陽差しと
埃を纏う風を浴びて
長い髪をそっと押さえ
頬をそめて笑った
誰よりも ....
真夜中
あなたは赤い花弁に
最後の口づけを済ませ
ぼくの背中に取り付けられた
古い扉を抜けてゆく
そこから先が
本物の冬
煙草を吸 ....
寒い日は
煙草を一本吸うことも
悲しみに沈むことも
完璧すぎるほど完璧なのです
だから、なるべく
傷を負わないように
躓いたりしないように
....
彼女は桜色の服を着ていた
胸はどちらかというと小さく
前髪は幼く整えられていて
なにかの花の香りがした
彼女はただ、
ある朝、部屋に入ってきた
....
籐椅子に体を沈めて
女が自分の手首を切っている
カッターナイフで
夢心地な眼で
なにか、神聖な
儀式の準備をするように
女が自分の手首を切っている
....
テーブルにのっていた
紙きれを払いのけ
かわりに君は小石をのせた
それから僕たちは
慎重に言葉をえらび
他愛ない話をし
ベッドのうえで抱きあ ....
くろい猿が
しろい脱臼をする
夜
きみの寝室で
アメーバが鳴いている
古い五線譜からきみは
しゅるしゅると一本を抜き取り
四角い枠を作ると
そのなかに月面の色を塗った
それは正しいことだ
それは、正しいことだ
ぼくたちの耳 ....
九月の市民球場を
木枯らしがさらってゆく
土埃を巻き込んで
ピッチャーのいないマウンドと
帰る者のないホームベース
永遠のような
0対0
僕は欠け ....
女よ
ぼくが眼をとじると
きみは枯れた稲妻のようだ
だが
手をふれるとそれが
一匹の大きな白蛇だとわかる
女よ
きみを
冬に横たえる
....
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