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誰も
さよならを言わない
誰も、何も、言わない
*
ジ、
ただ
重々しい青へ、空の、青へ
弾け散るように飛び立った蝉の
既にこげ ....
日々の果ての
朝、(辛うじて未だ夏の、)
誰よりも先に、空が
窓で泣き出している
日々、とは
ひとつづきの熱風だった
その果ての、床と素足に
夏だったものが生温か ....
花色を
包むような霧雨の
白く
ここはまだ、冬の肺か
冷たい呼吸の薄い圧で
梅が散り
色は
夢でしたか
混迷を招く為の五感なら
あ、
あ、
快く陥り
....
正確な、正確な、階段を
カン、カン、落下、してゆく音で
冬の風が半音上がって
度重なる半音分の痛みが次々に
刺さっては馴染んでゆくこめかみ
更に
視覚
という切れ目へと
....
アルコールと 朝が
溶けあって 光って
カーテンです
そこへ向かう明るい少女は
睫毛です カーテンに
きらきら きらきら向かう 明るい少女は
瞬きのたび ....
ただひとつの意味でだけ
朝であればそれでいい
女は、暗がりから
チチチチチ、が発されるのを待っている
さあ、と
鳥が開かれるのを、鳥が始まるのを
待っている
....
朝の
冬の
わたしだけの酸素分子が
冷たく、サラサラと
肺に触れてくれわたしは
震えました
少しの日のぬくさにも圧され
再び惰眠の目つきで
食卓に傾斜してゆく
....
雨戸を開けたら
夜の一過性の麻酔が
今は静かに窓に張り付き
単なる水気となっていた
その硝子面を、つつ、と指で擦り取り
そこを覗けば、山茶花の
一塊の色彩の首だ
....
しっとり、これは
濡れるために、素足
群れる草の土に冷たく踏み入り
行き場を失くしたことのない、
何処にも行かない、素足でした、濡れるために
こっそり、あれは ....
生まれてはじめてお付き合いをした男性が結婚したことを知った。当時は男性というよりも男の子だった。愛読書だと言い、『風の歌を聴け』を私にくれた。そうして自分の為に新しい本を買っていた。今も愛聴 ....
残暑が、高らかな色彩吐露を
自ら慎みはじめている
少しでもぶり返せばそれは
奇声、とひとことで片付けられる
薬を拒んでも、夏は引いてゆき
もう夏風邪とは呼べない何かと ....
だって
どの午後にも
煩い色彩がありました
静けさは無く
とりわけ静かな白は無く
ぬるい絵の具にわたし
どうしたってなってゆくみたい、と
教わらなくても、 ....
光の
光りはじめと共に
鳥が始まる
朝の
あと、少しなんだ
四角い窓枠がなければ、人間を忘れられる
身体がなければ、わたしを忘れられる
朝の
鳥が始 ....
わけもなく
海に行かない
青ざめた
この肌の下の水脈に海の素質があるとしても
夏において
情熱的な、情熱的な
世界中の観察眼と観察眼が合い続けているとし ....
あの夏の指は
空き地の夏草で切れ
薄っすら汗滲む指紋にぽつ、と赤く
劇的に熟してゆく果実を携えたように
あの夏の指は
空き地の夏草で切れ
何処にも行かないという約束 ....
明けて、色彩が始まり
かつて刻んだ果実の朝の瞬間に
黄緑色の芳香と共にかつてたちこめた笑い声が
初々しい果実として、生まれ変わっているのを感じるから
わたしは齧る
あ
ずっ ....
柔らかく黒く夏で濡れている子供達の髪の毛の
美しい経緯を追い過ぎた眼の私は
くら、くら、
平衡感覚がたわみ
色彩感覚があればいいと思った
色彩感覚があればいいと思った
身体の、 ....
ぬるい雨に圧され紫陽花の青い首が舗道へ垂れています
私は待っています
触れてくれるでしょう、荒れたアスファルトの
えぐれたままの古傷に溜まる暗い水に、柔らかく
あまりに ....
夥しい夥しい直射日光で
アスファルトの明度が振り切れ
真昼は真っ白い暴力だ
私は激しい夢うつつに陥り
液化してゆくアイスキャンディを見下ろしても
何を思えばいいのか何も何もわ ....
無数のソーダ水の泡が
ソーダ水から夏へ飛び立つ
そのときの一頻りの冷たい破裂音を
私たちは聞きます
ね、
それは、模範的な別れの際だと
ほら、そのあとに残るぼんやりとし ....
遠い飛行機のような音を立てる
夜の、曇天
その鳴動、鳴動、鳴動、
大気は夜を続けるも
わたしは仰向けの形、ひっそりと静まり返り
暗く目を開けるだけで
何かを促す性能はな ....
きつく結う、
わたしの髪を、
わたしには見えない後ろ側で、
わたしの髪を、
きつく、結う、
その役目だった指々を、
ふと慕う、一日の終わりに、
嫌な煙草染みた髪を強く洗う、
....
しく、しく、しく、は
いつも夜で
いつも雨で
それらの夜の
それらの雨の
夏呼びの音が度重なり
しく、しく、しく、が、ひとつの
酷く暗い気体となり
ねえ、午 ....
たったひとつの日没で
子供の左の手の中の
逆さの野の草の束からすんなりと
午後の初夏は落ちてしまい
子供の左の手は
無数の落胆のうちのひとつとして
野の草の束を、用水路 ....
アスファルトは
小雨ひとつに濡れ終えました
小石を蹴った靴底の生まれつき湿った摩擦音は
生まれつき消えてしまいます
仄明るいカルシウムのような冬においては
鈴の疲労骨折の ....
S…、という
微かな子音
の、雨の群れ
の、中
鼓膜に触れるそれ以外は幻聴だと
どこかで知っていたのに
この視線が向かってしまうのは
桃、という発音の
....
蛾か何かの最後尾が
視界の斜め上をかすめ逃げ去る場面、に似た
或いは、目尻の痒みにも似た
地下鉄の、蛍光灯の、黄緑色の、光芒の
消える寸前の瞬間と消えた直後の瞬間、との
交互 ....
愚かにも駅の天井を何故
消化器官に似せてしまったのでしょう
そこでは、羽音震わす蛍光灯
その仄青い痙攣から逃れ切れず
静かに分裂した影の群れが
仄青く集う硝子、地下鉄のドア
....
水曜日の、朝
雨の、海
ここは、底。
数え切れない水曜日が
既に溢れはじめてしまって
数え切れない雨として
朝を打ち消している
あらゆる残り香が
あ、香りではなくな ....
枝で割れ
高くてたまらない空から降る日の光と共に
枝で割れ、枝から漏れ
枝で割れ枝から漏れる紅い朽ち葉は
可愛い可愛いと思った者への
女の、口付けの跡の
剥離、
塵、
....
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