いまさらながらだが、まったくおかしな時代になったものだと思う。恐らく多くの人が感じていながら、それでも黙っているのだろう。二十一世紀という現代に生起する現象、人の思惑同士が交差し合い、とんでもなくお ....
熱く
青く
南から押し寄せる
夏の、ソ、ラ、シ、の
反復の幾つかは
肌を灼熱させたり
唾液と共に高笑いに混じったり
アイスクリームをベトベト光らせたり、そうして
幾 ....
くらげはもう水みたくなって
やがて海になるだろう
溢れる 空想を両手にとって
きみは穴を掘っている
隣で海を耕しながら
私はそれらを見つめてあげる
....
お兄ちゃん、と
呼ぶのが
照れくさくて
そのまま
僕たちは年をとった。
あなたは家を出て
後を追うように
私も出て
あなたは戻り
あるいは他所の国へ
私は
死ぬまであなたの弟 ....
[な]
――懐かしい泣き虫さんへ
長雨のなか
なけなしの茄子がなったので
撫でまわして和んでいます
仲間にはなじみましたか
訛には慣れましたか
ないものねだりの
涙を流 ....
第一章 権利
君をみたす酸素分子はさだめられた方角を見失うとき、霧となる。池のおもてで朝日が砕かれてゆくのを、君は燃える指でなぞる。どこまでが記憶なのだろうかと、問うこともしない。背後にあいた ....
髪の乱れを気になさるな。
血濡れた衣も気になさるな。
そなたは美しゅうござります。
この身はすでに腐り果て
ところどころに穴ひらき
覗く腐肉に蛆が這い。
しかあれど
まなこはかっと見 ....
夢見心地で聞いていた
彼方で 海鳴りが響くのを
まるで泣き声のように響き渡っていくのを
動き出した電車の向こうの 未だ明けない夜には
この{ルビ囁=ささや}きが届いているのだろか
穏やか ....
一から十まで音読している子供たちの学習を邪魔してはいけない。子供たちは覚えようとしている。窓枠から、開いている窓枠から手が伸びて、白い手が、絞め殺した数字をひとつひとつ放していく。楽しいおしゃべり。子 ....
曇った窓ガラスに
家の印をつけて
それから
母の勤めている店の印をつけて
でたらめな道でつなげる
窓が汚れるから、と
後で怒られたけれど
それがわたしの初めて描いた
世界地図でした ....
花火だとか祭りだとかその類の
絵柄を下にして
団扇を伏せるという其の場凌ぎの隠滅法は
やけた畳の匂いがします
だから
私の脈拍が夏風邪に飛び降ります
溶け果てた氷枕の代 ....
「グフッ、何故…、何故俺が…?」
薄れゆく意識の中で俺は、犯人の…、グフッ
<完>
あーあ、一人称で書いてたから犯人分からんまま終わっちまった。
ってゆーか、誰書いたの、こ ....
君がぽかんと口を開けているのは
口の中で風が吹いているからだ
その正体が何であるのか
問う方法も知らないまま
ある日突然に
君は君であることに気づくだろう
そしてそれは
君が君で無いこと ....
暑さ 流れる空間
自転車に乗った二つの目、通り過ぎるガラスの扉を見つける。
君は靴を履き、靴は君を支える。
バイクに乗った無数の汗、道路を挟む水田を通る。
路を進 ....
君が握ると
同じ力で握り返してくるものがある
君はその力をさざ波に変え
身体の最果てまでゆっくり送り届けることで
自分の輪郭を形作っていく
君が握っているのは
君自身に他ならない
....
街は、宣伝する車の謳い文句と、気にも止めない通行人を生贄にして
せり上がる暑さよりも、乾いた空虚さを従えていたので
僕等は、長い橋の上からきらめく水面を眺めている。
そこにありもしない目印を探し ....
悔し紛れの薄闇は
投げつけた卵の黄身のなかにかくれた
まだ夜は知らない
夕焼けばかり見ている
今日はもう帰らない
ビビッドは細胞を壊すの
今日はもう帰らない
太陽 ....
踏みつけた木の葉の裏に隠れてる虫さえ愛せるくらいにひとり
冷房のファンに揺らされ落ちる葉のむなしさだけは凍り付いてる
あの雲にかかればあの葉の色だって一撃なのよ だからわたしも ....
見えると言ったら うそになるもの
見えないと言ったら うそになるもの
目の前にある
ほんとうの花を忘れて
二人はずっと話しつづけていた
....
君の背中にある八番は
誰がつけたというのか
躍動する大腿筋
身体から溢れ出していく汗
すべては君そのものだというのに
ただセンターとだけ呼ばれ
どこまでも白球を追いかけてく
スタ ....
日本の現代詩の中で散文詩の占める割合は、無視出来ないほどに大きい。ある程度名のある詩人たちのうちの多くが、散文詩を書いている。散文詩とはいったい何か? ここのところ、個人的に頭の中が散文的になってし ....
私小説というものがほぼ死に絶え、小説はエンタテイメントとして書かれ・読まれ・消費されるものになって久しい。それに対して、詩というものは、未だに“私詩”とでも呼ぶべきものが大半を占めているように思える。 ....
東京、きみは振り向いて
見過ごすことと忘れることに慣れず
クラップ、手を、たたいて
(光のように)
歩道橋、線になって逃げていく車の
ひとつひとつにああ、ぼくと同じひとが乗っていると ....
勝手口を開けると柿の木が青空にそびえていた
白い入道雲がゆっくりと動いていた
戸を開け放ち
時折それを見上げながらわたしはササゲの筋を取る
ざるにはササゲが青々と積まれて行く
指先にササゲの ....
これは天使の羽の痕なの。
肩の傷跡を指差して、
彼女は笑う。
ここに白くておっきな羽があって、
ばさばさばさぁーって羽ばたいて、飛べたの。
でもね ....
あなたが
中古
静かに軋む二輪車の
匂い
角を曲がる
何かを思い出し
もう一度角を曲がる
イニシャルを失ったまま
あの縄跳びもまた
どこかへ行くの
駆け込み乗車は
錆びて
....
卒園式ではいつも以上に
園長先生のお話 長いね
と うちの子供が気にかかる
寝てはいないか
ちょっかい出してはいないか
そんな心配もなんのその
みんなちんまりと神妙な面もちで
....
おやゆびこぞう が納屋におしいり
密会していた ひとさしゆび と なかゆびじいさん を
ナイフでひとさし して逃走しました
くすりゆびくん と こゆびちゃん は
さっそく捜索を開始したのです
....
まともな人たちが
まともなことをやり
まともなままでいるのを見ると
ああ この人たちは
まともでない人たちを
滅ぼそうとしているのだなと
恐くて恐くてたまらなくなりま ....
ぼくは朝密会する 紙ナプキンに包まれたナイフの鋭さと
百枚の引き戸も百代の先祖もけたたましい音を立てて開く朝に
戸を静かに閉めることをしめやかにとは表現しない
だが軒先のタイル工事はしめやか ....
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