すべてのおすすめ
野生の呼び声を真似て 空を見上げる
数えられる雲の数だけ数えられる仲間と
数えるのを待ちながら数えられない他人たち
結託して
町の廃工場でシンナーを吸う
煙突から見える空は黒い
もしくは見 ....
ちっちゃくて硬い。
鈍色にくすんだ鉄のかけら。
美しい鳴き声は持たない。
美しい模様もない。
田舎の物置の
米ぬか臭い片隅で
ただ生きてゆくために
もぞもぞと生きている。
生の ....
君とアリス・ドライブの途中
蒼い森の入り口で白い車の息があがった。
僕は
車のボンネットを開けてしたたかに朝の蒸気を浴びる
ナビ・シートでは彼女のソウルが
コールタールの音をたてているんだろ ....
西北東三方を山に囲まれ
南東は関東平野に面する内陸県
高崎から下仁田を結ぶ上信電鉄沿線
南蛇井あたりの豪農の何代目かの曽祖父の放蕩がもとで
国を追われて富岡に出てきた祖父徳太郎は
赤貧洗うが ....
わたしは、男のおかあさんと暮らしている
男のおかあさんは、働いているので忙しい
男のおかあさんは忙しいので、わたしは留守番をする
わたしは遅くまでひとりで遊んでいるので、いつも眠い
男のお ....
夜
荒れ果てた病院の屋上に登り
からっぽの街を見下ろす
一本の蝋燭すら点らぬがらんとした暗闇が広がる
この街は死につつある
病院の各階の二百二十あるベッドは全て閉ざされ
腎臓透析室も実験室 ....
口笛が遠くまで聞こえるのは
まわりに誰もいなかったからだ
分かっていたんだろう
少女よ
どこにも行かなくていい
君が知ってる誰もかもは
どうせ君の知らない場所で笑っている
....
1.
洞窟は亜硫酸ガスに満ちている。
酸素濃度計は警告の悲鳴をあげ続け、
俺のマスクは目詰まりしている。
俺が生きているのはどうやら奇跡的なこと。
俺を拒み人間を拒む洞窟世界で、
....
――油膜のような色なんだ、赤にも緑にも見える。
Tはテーブルの上のカップに視線を注いだまま
落ち着かない様子で呟き口に手を当てる
僕は僕で
冠雪して間もない山なみを窓ガラス越しに見ながら
....
この惑星のこのあたりはそろそろ晩秋で
赤く色づきはじめたハゼの葉が
窓の外に揺れ
この惑星のこのあたりはそろそろ夕刻で
暗くなってきた室内に
パソコンの画面がまたたき
またたき
....
いまはただ
雨が降り
石にしみるまま
あけないおくで翳のかたちを追っている
ひがしの空だけが
ゆるやかに
くちびるをひらき
すきまから虹彩をのぞむ
わたしは
まるい眠りを
かきわけ ....
1.
鏡の中の僕が
いつまでも笑わないので
仕方なく
こっちが笑ってみたら
とたんに笑いやがった
2.
山の向こうは
雪が降っているらしい
今汽車に乗れば ....
かな小父の通夜はにぎわい
三弦と木魚 お宮の龍笛をひきあいに
かな小父の唄と三弦曲かれこれが寄って
大ざら酒瓶もたたかれる とむらいの夜
かな小父がわたしにくれる遺物 掌が
その壺の ....
東北の湯治場
暗く高い天井にもうもうとこもる湯気
湯に漂う吸い尽くされた乳房
東京の銭湯
午前三時
夜の女たちの化粧を溶かし込んだ湯が
白く濁る
水に集う
サバンナの象の群れ
....
--僕は彼女の写真を、白く明るいハダカを忘れない
パールの明度とオレンジの彩度
君はマーメイド/マーマレード
あるいは風船でいっぱいの海/渋谷/チカ
リスカ。
チ カ
....
ルルリエ
文鳥はいらないと言った
ルルリエ
いつものど飴をくれた
ルルリエ
撮った写真は壁に貼ってて
ルルリエ
浴槽に潜って笑ってた
ルルリエ
ルルリエ
ルルリ ....
一本のラインが羊を造形する、その工程は普遍化の道程を離れ手工
業の未分化へと進んでいる。進むことは進歩ではない。進むことは
退化ではない。多様化と呼ばれる分岐信仰がラインを圧迫するポイ
ント ....
子供が突然
図鑑に頬を押しつけて
「宇宙遊園地!」
と しゃべりだした
「電車」の次に
覚えた言葉だった
そうしてみると
確かに 遊園地だった
台所の妻も
....
少し煩かったので首に巻いた鎖を強めに引っ張るとあっけなく死んでしまい仕方なくオブジェにでもと思い立ち鎖を梁に掛けてそのままテコの原理でククッといや本当はズズっという音がして小便やら大便やら ....
妻と相談して
家にエレベーターを取りつけることにした
けれど、取りつけた後で
この家には二階も地下室も無いことに気が付いた
ボタンを押すと
チーン
と音がして扉が開く
上にまいりませ ....
うねび/くちかげ
うねび
くちかげにささやぐ め(う)み の
床下に落ちた砂浜、
まうむ、あうむ、みむ、
扉で裏側の思惟が
深くふかくきしっている
傾いた百合……
うつ ....
彼女はレースの手袋をしていた
日傘の陰の中に棲む渦巻のように道に迷い
信号を渡ると必ず赤になるのだった
僕たちは警笛と仲良くなって
赤いビートルのボンネットにひと蹴り入れてからひとごみに消える ....
彼女からの手紙が
炊飯器の中で見つかった
もう
ほっかほかの
ぐっちゃぐちゃで
炊きたてのご飯はうっすら黒く
食べると微妙にインクの味がする
時おりぐにゃりと繊維をかんだりもする ....
時代遅れの政治家並に肥満して
申し分ない冷暖房付の部屋に
横たわり 詩をつくるその男の 別して
濁った目と憂鬱な顔こそ 思うに
現代詩そのもののありようとは言える。
ありふれた喫茶店の ....
ぼくの愛する人 ぼくの恋人よ
きみの歯が入れ歯になるまでの{ルビ一世=ひとよ}
その時までずっと一緒に居たい
あの遠い山宿に生まれた期待
かぎりなくつづく田舎道の散歩
きみの部屋でともに ....
ベッドが湿っている
湿っていると言うより濡れている
ずぶ濡れだ
予感なのかもしれないと思っているぼく
あまりに突然のことにびっくりしているぼく
かわいらしい
ぼく
ぼくはテレパシ ....
やろうとしていたこと
鍵を差し込むべき鍵穴に
母のズロースを差し込もうとしていたこと
そうだ 父に見せなくては、と思い立ち
犬を連れて落雷を待ち焦がれていた ということ
落雷 ....
風は吹いているか?
生きもののうたを
歌ったことは?
同じKEYばかり繰り返し
打ち込んでいないか?
晒されていたい。
うずくまって。
化石したと
言わんば ....
腰のものを赤く染めて鳥が鳴く。
うぶめ、と呼ばれる鳥である。
産の穢れに死んだ女は鳥となる。
ほう、と鳴くが聞こえるか。
生まぬとしても女は女と男は言う。
うぶめの悲しみを知らぬは幸福と ....
青い草の原によこたわる{ルビ石女=うまずめ}よ
おまえの頬は桃色にかがやいている
それは太陽の光がつよいからだよ
かつておまえを生んだ母のあのスマイル
あれはそんな風にかわいてはいなかった
....
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