あの日
骨ごと断つ勢いで斬りつけた左手首に
病院のベッドの上であなたは
切り取った雲一つない青空を
私の傷口に深く埋めてくれた
重い曇天に覆われてる毎日の
奇跡的に雲が途切れた瞬間の
....
観念といのちが混じりあう
人工は自然人による作だ
どこかにあるだろう決定的なもの
そんなものあるはずもないのに
あるように振る舞ってしまう
言葉で掴みそこねている
....
くらい 翼をひろげて
古い調べから とほく紡がれ
凍てついた 水を恋ふ
しづかな もの
ひとの姿を 失つた日
ひとの心を おそれた日
雪を待つ 地へと降り立ち
ひそや ....
内にある暴力的なものに屈して
もう自分の味方ではいられなくなって
人生を投げようと
ただ思っただけであった
自分には甘い
気休めの漢方薬とインターネット
腑抜けた鏡像
怒りの拳を振り上げ ....
離れると 音もなく
落ちた 花びらは
ひとつひとつ 冷たく発光して
私たちは 消失のただなかで
不釣り合いな接続詞を
あてがい 続ける
たくさんの繊細な 傷を
指でなぞり 再生して
....
太陽がとおく大洋の彼方を翔ぶ。
あらゆる波には
千々の銀箔が散りばめられていた。
不滅の翼などはない。
宙に驕った罰であろうか、
この黄金には蒸発さえ赦されない。
落日。
あ ....
風になびく
ススキの穂が
水面を滑る
眼差す太陽にギラリと光り
到来した冬は
情け容赦なく
すべてを裸にし
覚醒の輪郭を
与えていく
透徹として刄の ....
母に愛を頂戴と 両手を差し出すと
母は遠い所を見るように 私を見つめる
朝 白い大きなお皿の上に
母の首が置いてあった
寝室の机の上にある手が握っていたのは
((少しでも足しになれば…、 ....
月にいきてえんだよ
息ができねえとか
華がないとか
雲がうかんでねえとか
音がないんだとか
そうかいそうかい、
どうでもいいんだって!
おれも男だからさあ、穴が
あった ....
(慟哭)
世界に影を落とした優しい諦めを知らないで惨めな豆腐の角はたいせつに磨いたアクアの舌。はもうないけど人狼の夜は深く更けゆくばかり火の鳥を知らない?
(うそ。知っている。)
悲 ....
静かさ
静かさ、といふ音があると思ひます。
秋の夜長、しをれかけた百合を見ながら
静かさに耳を傾けます。
{引用=(二〇一八年十一月八日)}
....
六月のアナウンサーの言う通り
私達は毎日カサを持って出かけている
高い降水確率を証拠として煽られては
保険を持ち歩かないといけない気になる
けれど外出先から帰宅した夜
カサは朝のまま乾 ....
繰り返される奇蹟の剪定。
無造作に投げられた肥料袋の中
目一杯に、名のかけらもない痩けた原住民。
命を表象した符号がうねる交差点。
ときおり霞むような速さで、伐採、
あるいは収穫をお ....
雲のなかの金属たちは
艶やかな焔となって、
夕暮れに言葉は燃えた
頬を赤らめるしかなくて
赤々と燃えた
だが街は暮れていくばかりだ
街頭の影が背伸びをしても
たしなめる者もいなく ....
手紙がある
うす桃いろの
手ざはりのよい 小ぶりな封筒の
崩した文字の宛て名も品が良い
封を切つて なかを開けるに忍びなく
窓際の丸テーブルに置かれてゐる
さて 何がか ....
十匹めの
熊を抱いて眠る
波寄せて ひいていく
ながい一瞬に
あらゆるものを天秤にかけ
そして
壊しました
抱いたまま ゆきます
壊れながら
熊たちの なき声を
眠りに ....
曇天の下、
足早に通り過ぎていた街並みが
ぱたんぱたんと倒れ出す
書き割りの如く呆気なく
次から次に倒れ出す
後に残っていたものは
果てなく続く大地のみ
俺は ....
みたこともない
みなみのくににむかって
いっせいに とびたつ とり
ないかもしれない
あした にむかって
ゆめを 放つ
たどりつけるのかどうか
じつはわからない
ふゆのむこ ....
粉雪が降って
誰もいない夜、
心の花を枯らした
おとなしい哀しみが
うつむく
林檎の木から
甘酸っぱい香りがする
幻想世界、
真っ新な空気が
喉の奥まで冷やしてくれる ....
明らかに動物の声だ。人間の声帯から発せられたものではない。あるいは、人間が声帯模写の技術で動物の鳴き声や吠え声を真似たものでもない。たまにテレビで見かける話す犬だとかが、たどたどしく鳴いているのが、何 ....
美しいもの。
鉄塔のあいまからこぼれ落ちた夕暮れ、
逆光のなかに貌のない雑踏、
砂時計をころがす赤児、
美しいもの。それは指揮者のない調和、
影のない演奏の旋律。
色画用紙をひろげて
影をうつす
木炭でなぞる
しばらく眺める
笑いがこみあげてくる
なんと へんなかたちなのだ
俺といふやつは
俺は笑つた
笑つて 笑つて
笑ひ尽くした
....
足で漕ぐのは
オルガン
という名の舟
音符の旅
息でつなぐ
ときおり苦しくなって
とぎれる
生きていたという波の上
気配だけになった猫
ふんわり鍵盤の上を渡る
秋の日は
....
人恋し神様お願い助けてと言えるうちは癒える内から
ほら、これあげるからとレントゲン写真をプリントアウトしてくれたおじちゃん先生はそうか自分で見つけたの偉かったねと言った。わたし子供みたいだっ ....
炎の刻印が
街に押されて
ようやく
冷たい夜が明ける
街のマリア様たちは
眠い目をこすって
もう、
明日から振り返ったとすれば
何度目の
希望を
浪費しただろう
夜 ....
懐かしい未知は
遠く空へと続く道
気流の音が鳴り響く
大気圏を通過して
桜色した巻き貝の
トンネル抜けて
帰還します
波の跡が
空に残って
だけど
いつのまにか風が消していく
秋の雲はことさら
はかなげで
明日にはもう
冬のものになってしまうだろう
空は
海のなれのはて
今はもう絶滅した海 ....
女の温もりも
家族の団欒も
過ぎてすっかり独りである
風が吹いて
途方に暮れて
確かな予感を持ち独りである
遠くの森のざわめきが
夜空に木霊し未知を紡ぐとき
私はひたすら独りで ....
けだもの
ひとの声がする
空がなく
土もない
紙の色の月がうすく照らす
このわづかな世界に
やさしく
神々しく
いつくしみ深く
ひとの声がする
《祈りなさい ....
溺れないようにもがく
ここにあるものは肉体と
満たされない空と
注ぎ足されつづける水
酸欠の頭で考えることは
誰が注いでるとか、
どこまで行くのかとか、
そんなことではなくて ....
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