「かあさん、コンビ二で『レシートいりますか?』って言われたら
なんて答える?」
と中学生の娘が聞く。
「ふつーに『いりません』というかなあ」
と私は答えた。
「えっそうなん。私はどう ....
るる、と呼べば
りら、と響く
それは歌
スノードロップが
白い鈴を鳴らしている
水仙が
黄色い笛を吹いている
{引用=合唱団の申し込みは
春色のポストへ出してください
....
みつめる
みつめる
じっとみつめる
そうすると
何かが
語りかけてくる
種を手放したあとの
たんぽぽが
茎に残された
小さな瞳で
私をじっとみつめる
世界には
なんと
....
もう なんにちも
雨は降らないし 降りようがない
雨乞いの呪文も
もはや効き目は薄れ
わずかばかりの
水を流して
やり過ごしている
{引用=さかな 苦しいだろう
さかな 底に怯え ....
連なっている
ひとつひとつは
いびつななりであったとしても
連なることによって
ハルモニアを産んだ
重なり合っている
響き合っている
ひしめき合っている
峰 ....
生は死と向かい合っている
希望は絶望と向かい合っている
夜の
長いテーブルの端と端とで
見えない糸で引き合っている
まじまじと見つめれば
彼らは
なんと似ていることか!
わ ....
日曜日の朝風呂は
どこか わくわくとして後ろめたい
隣のおばさんがそろそろパクチー(犬です)を
散歩させる時間
湯気でくもっている気配の浴室の窓をちらり見て
一体誰が入っているのかしらんと思 ....
女の子の
苗字と名前にある
わずかな空白に
小さな川が流れて
いる
せせらぎのような気安さであるから
そこをいったりきたりすることが
できる
時々流れてくる桃を
無邪気に拾って遊んで ....
わたしたちは
いつだって
傘のかなしみを知らないのです
雨は水のふりをしているけれど
あれは
悪魔なのです
今は悪魔であるけれど
もとは穢れなき天使だったのです
傘は特別製の防御服 ....
夜に積み上げられた箱階段が
複製を繰り返す(発芽)
その上を
じゃばらの形に折れ曲がりながら
わたしの影が長く伸びつつ登っていく
星々が裏声でささやきあっている(給水)
そうやって
....
一枚の紙を
折りたたんでいく
半分に折れば
にぶんのいちの面積の
しかくが出来る
そこには
重なる相似形
出来上がりの形を
思い描きながら
そっと指で伸ばしていけば
ちいさなさ ....
終息に
ともなう安堵
かすかな
心残りを秘めて
三月が来る
中原中也賞を受賞した或る詩集を読む
悲しいことに心が揺れない
この詩集の良さは
三月が来ようとも
きっとわたしにはわか ....
朝
まっさらな白い紙に
一篇の詩を書きつけ
それを食す
奥歯でかみしめていけば
罫線はよじれ
句読点が記号に戻っていく
口腔内の温度で意味の糊付けが剥がされ
構築された言葉はゆるり ....
人なかで咳が出ると
はやく止まれとあせる
半径3メートルにいる人たちから
無言で疎まれていると感じて
目的地のことなどどうでもよくなり
消え去りたくなる
独りで居るとき咳が出ると
ほ ....
ごすいって
ひすいに似たような
石
たおやかに
睡り続ける
午後
もくもくと
宝石になる練習をしよう
纏足の爪先から
あたたかな成分が溶け出していく
あらがえない{ルビ麻薬=レ ....
朝がやってくる
風がやってくる
音がやってくる
虫がやってくる
雨もふりかかれば
猫もやってくる
人がやってくる
外へ広く放たれた
寛容な空間だった
祖母が景気よくぞうき ....
さみしいと
雪になる
凍えて咲く花になる
産まれて
すぐに旅立った
あの子の魂なのでしょう
てのひらで包めば
睦みあって水になる
笑って
消えてゆきました
なぐさめが
嘘だと知っていた
けれど
この世の中に
ほんとのことなど
在るのだろうか
わたしの躰に産みつけられ
冬を越した
薄黄色い{ルビ卵=カプセル}が
もうすぐ
孵化を始め ....
まばたきには
ばね がついていて
どれだけ
すばやく
まぶたを
弾ませられるか
競いあっている
{ルビ双子=シンクロ}
持ち主に
気づかれてはだめ
そんなに
凝視しても
真 ....
上へ
上へと伸びてゆくもの
下へ
下へと伸びてゆきたがるもの
いのちを生み出すために
細い指たちは
指切りを繰り返し
相反するからくりを育む
そのなかほどの混沌で
わたしは
ひ ....
海にも道があるよ
みえないだけで
空にも道があるよ
しらないだけで
そこを渡っていく者がいたよ
こちらと
むこうをつなぐ
透きとおった
{ルビ間=あわい}、で
首を切断された猫の骸が
もう何匹も発見されている
ニンゲンの仕業
ニンゲンから産まれて
ニンゲンとして生きている
ニンゲンの仕業
猫よ
ネコゴロシに捕まるな
ニンゲンのネコ ....
備え付けの
グレイのロッカーの扉を開けると
中に針金のハンガーが二本
ぶらさがっていた
わたしの前に
入院していた人が
使って残しておいたものだろうか
ただ一本の針金からできてい ....
なんにでも
なれるよ
手にも
足にも
明日の扉をあけたいと思ったら
鍵を差し込んでごらん
キミの心がそう望むなら
ボクはなんにだってなってみせるよ
翼にも
もう少ししたら
野焼きの季節になりますね
ふるさとの枯れ野に
火がつけられ
冬がおしまいになるでしょう
あなたには見えないけれど
焼け焦げた残骸の下には
根が生きているのです
春に ....
人は
たくさんの事柄を
忘れながら
生きています
朝起きてみれば
隣の空き地は
白く覆われて
ただひとつの足跡もない
とてつもなくやわらかい
真新しい道に思われました
その ....
冬の涙はさらさらで
誰も引き止めるものはない
蜂蜜ほどの粘度があれば
甘く熟成されようが
冬の涙が歩き出す
朝の魔法にうながされ
あなたの窓に
わたしの窓にも
偶然触れてしまった
手と手の間に
青い花火が散ったのを
キミは静電気だと言ったけれど
人と人の間に
ぶつかって発生する電気信号みたいなもんさと
ボクは思った
キミが粒ならボクもありふれた ....
雪のあと
空おだやかに澄みわたる
望みをひとつと問われれば
家族が健康で過ごせますように
儀式の火は燃え上がり
今日という実をはぜていく
紅白の餅は黒くこげ
昨年収穫した稲藁で編んだ ....
潮だまりに
奇っ怪な紫色の物体をみつけた
グロテスクな
おせじにも美しいとは思えない
そいつから
私は目を離せずにいた
素通りできない塊に
捉えられてしまった
学名 アプリシア ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33
0.44sec.