最近ヤモリは現れなくなった
夜のはめ殺しの天窓に映させている
流線形のシルエットが好きだった
イモリだったかもしれない
それとも風に導かれて降り立った
小さな神様だったのかもしれない
便宜 ....
冬のまんなか
人のいなくなったリビングで
紅茶が湯気を立てている

季節は
迷うことのない水
人も犬も猫もミジンコも
みんな流れて
泳いでいく
目を開けているのが
辛くなったら
 ....
大きな欅が伐採された
ものの半日かそこいらで
姿を消した
あっけないほど
たやすく
死んでしまうことは
こんなに簡単

雨を飲み
光を吸収し
息を繰り返し
いくつもの季節をその身 ....
りんごを
横にスライスしていくと
星の形が現れた
こんなところに
ひっそりと
神様がいたことを
初めて知った
冬の日

湯気みたいな嬉しさを
胸であたためて
いっとき
死を忘れ ....
いとしいといわない
愛しさ
さみしいといわない
寂しさ

祖母と行く畦道
ふゆたんぽぽを摘みながら

手は
手とつながれる

枯れ野には
命の気配がして

墓所には
命だ ....
晴れた港の
防波堤を歩いた

コンクリートのひび割れから
小さな花は灯る
テトラポットは
夜ごと
組み替えられている
それらが
いつか砂粒になるまで
続いていくとしても
さかなの ....
足で漕ぐのは
オルガン
という名の舟

音符の旅
息でつなぐ
ときおり苦しくなって
とぎれる
生きていたという波の上
気配だけになった猫
ふんわり鍵盤の上を渡る

秋の日は
 ....
波の跡が
空に残って
だけど
いつのまにか風が消していく
秋の雲はことさら
はかなげで
明日にはもう
冬のものになってしまうだろう

空は
海のなれのはて

今はもう絶滅した海 ....
 とある街で

金木犀が香る
だけど金木犀はみあたらない
探しているうち
何年経ったろう
すっかり風向きは変わってしまった
行きついた先で
仕舞い忘れられた
軒先の風鈴が鳴った

 ....
赤い線が
皮膚の上に浮かび上がる
今朝
バラのとげが作った傷が


わたしのからだの中の
赤いこびとたちが
あたふたと
いっせいに傷をめざして
走っていることだろう

猫を飼 ....
羽が落ちている
本体は見当たらないから
誰かが食べてしまったんだろう
羽は食べてもおいしくないだろうし
さしたる栄養もなさそうな
だけど
錆ひとつない
無垢な部品

ない、みたいに軽 ....
小さなサイコロが
ころがっていく

平坦に見えた道に
傾斜がかかりはじめたから
なにもかもが
かろやかに
だけど
のがれることはできない

さよなら

さよならも
すなつぶも ....
小さく尖った歯で
骨付き肉に喰い付くと
遠い昔がよみがえる
自分がまだ産まれてもいない
遠い時間の記憶が

タイムマシンはまだ発明されてはいないけれど
かたちのないタイムマシンはいつだっ ....
 パリ、モンマルトルの享楽街の中でも、ひときわ輝く大きな劇場があった。
 名を『ムーランルージュ』という。

 彼らはそこで活躍する芸人だった。
「ねえジャン、あたしたちがコンビを組んでもう ....
雨の音のくぐもり
かえるの声は少し哀しい
遺伝子を残すために
自分とは違う誰か
或いは
自分と同じ誰かが必要なんて
生きていくことは
素敵で
残酷だね
結ばれない糸は
螺旋を繋げず ....
朝から珈琲をぶちまける。おそらく私が無意識にテーブルに置いたカップは、テーブルのふちから少ししはみだしていて、手を放した数秒後引力の法則によって、まっとうに落ちた。……なんてこった。一瞬の気のゆるみが .... 薔薇の散るかすかなざわめき
酸性雨はやみ
コンクリートは少し発熱している
大きな海で貝は風を宿し
小さな海では蟻が溺れる
波紋はいつだって
丸く
遠く
対岸で鳥はさえずり
ポストはチ ....
通夜のさざなみ

鯛の骨がのどに刺さって
死んでしまうなんてね
或る死の理由が
人の口から口へとささやかれ



悲劇

重力がない世界では
シャボン玉も落ちてはこない
だか ....
雨は降りやまない
けれど
雨音は音符に変換されていくから
赤子も子燕もやすらかに眠る

雷は遠く くぐもって鳴り
狙い撃ちされる心配はいらない

流れ星のいくつかは
蛍に生まれ代わり ....
まぶしいのは
ずっと目を閉じていたから
そこは優しい闇に似た架空世界で
行こうとさえ思えば深海にも
宇宙にも
過去にだって行けた

あのスカートはどこにしまっただろう
青い水玉模様
 ....
父母が買った墓を見に行く

高台にあるそこからは
海が見渡せ
なんのわずらいもない風が吹き渡り
小さな飛行機が雲間に光る

このお墓に入ったら
この景色を見て暮らす、という母に
いい ....
朝の光を浴びて
少しぬるみ
世の中のさかさまの文字を
投影している
硝子びんの中の液体の揺らぎに
ひと瓶飲んだら死ぬかなと
たずねても
答はみんなさかさまだから
解読できない
プリズ ....
春が流れていく

みなもに降り立った
無数のひとひらたちは
いたづらに未来を占ったりしない
何にも誰にも逆らわずに
やがて
その先でひとつになる

裏もなく表もなく
命は等しく終わ ....
 ふたば

冬の午後
水に挿した豆苗を見ていた
光を食べたその植物は
飛べない二枚の羽を
明日へ広げる


 さよなら

星はどこへ還るのだろう
色あせていく夜空
朝の襲来
 ....
夢の中だったのかもしれない
いつでもおかえり、と
声だけ聴こえた
或いは現実だったのかもしれない
耳の底の小部屋にそれは
棲みついた
文字にすれば水彩
いつでもおかえり

いつ帰って ....
深く眠って目覚めた朝のゆびさきは
少しまだ透明がかって
夜が
見えかくれしている

動いている心臓は赤い磁石
覚醒してゆく時間に
わたしのかけらを
元在った場所に吸い寄せて

願っ ....
キミが折った舟が
わたしを載せて
すべるように小川を下る
冬にさしかかれば
時間が凍らないようにと
祈る
どこへ向かっているのか
きけばよかった
それはたぶん大切なことだったのだと
 ....
忘れていたことを
ある日ぽっかりと思い出す

潮が引いた砂地で
貝が静かに息をしているでしょう
見ればそこかしこで
生きていることを伝える
そんな穴が開き始めて
私の足裏とつながる
 ....
秋の横顔は
暮れる空を向き
旅立ってゆく鳥の影を
ただ見送っている
あなたも早くお行きなさい
手遅れにならないうちに、と

バスは来た
回送だった
けれどいったいどこへ戻るというのだ ....
ほこりをかぶっていようといまいと
食品サンプルは食べられない

蜘蛛の巣に囚われた
きのうの夜の雨粒たち
夕刻にはその存在ごと食べられて
また空へ還る

バナナの黒いとこは
食べられ ....
そらの珊瑚(1019)
タイトル カテゴリ Point 日付
ヤモリ自由詩1219/2/28 11:09
はちみつとジンジャー自由詩7*19/2/8 10:29
かなしいおしらせ自由詩12*19/2/2 10:44
りんごの神様自由詩13*19/1/25 11:17
小さな散歩自由詩1919/1/18 11:51
冬のパズル自由詩16*19/1/7 14:10
秋の部屋/えあーぽけっと自由詩2118/11/5 9:10
思慕自由詩17*18/11/1 15:33
ダイアリー自由詩16*18/10/5 15:03
猫とバラ自由詩25*18/9/19 10:14
ひとひらの落とし物自由詩16*18/9/18 14:33
夏の入り口へ自由詩2018/7/15 8:40
野性の夜に自由詩13*18/7/2 9:42
ムーランルージュのふたり散文(批評 ...718/6/27 10:50
まっさらな海へつながる自由詩1218/6/19 8:36
不運も幸運もすべてシャッフルしたような雨上がり、ひとり洗濯機 ...自由詩1218/6/7 9:34
六月の朝はまどろむ自由詩1618/6/2 11:07
ふたつつむじのゆくえ自由詩19*18/5/26 16:14
架空の街自由詩10*18/5/23 10:06
燕よ自由詩1418/5/9 10:12
トランジット自由詩16*18/4/22 11:36
除光液自由詩18*18/4/8 9:42
a piece of spring自由詩14*18/4/3 15:04
のびていく豆苗の先はどれも、ふたば自由詩16*18/2/7 10:26
いつでもおかえり自由詩1218/1/16 12:11
新しい年自由詩19*18/1/4 12:54
紙の舟自由詩13*17/12/29 13:28
自由詩10*17/12/23 12:30
バス停自由詩17*17/11/16 11:04
食べられるもの食べられないもの自由詩11*17/11/8 10:04

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