熱が平らになって
どこまでも続いてる
けれども生きていれば
山も谷もあるものだから
人のからだも
地球に似てるのかもしれない
熱が途中で終わってる
そこが
海なのだとした ....
故郷での暮らしは
けっして貧しいものではなかった
手に入るものは手に入り
手に入らないものは手に入らない
ただそれだけだった
小さな都会で暮らして
もう二十年になるけれど
....
僕と妻にとてもよく似ていて
そのどちらにも
似てはいない
それが彼なのだ
君はいったい
誰なの
と息子の目を見てそう問うと
不思議な顔をしてる
ふと思い出す
僕と妻は
....
日陰に咲く花の
黒々と生えそろう髪とは対照的に
透けるように肌の白い
女を都会で見かけた
窓越しに
ハンバーガーを食べ
南中する真昼の太陽から逃れ
安堵したように
煙草を斜め ....
恋文を書いたつもりでした
まったく何年ぶりなのでしょう
こんな気持ちは
なんども破り捨てようと思いましたが
結局そうすることもできずに
他の誰にもわからないように書きました
あなた以 ....
ひとり遊びしてると
きゅうに孤独を感じることがある
ひとり遊び
という言葉を知らなくても
たしかに僕は孤独だった
夜遅くに
父さんが帰ってくる
忙しくて食べられなかった
と言 ....
指先から入る
表面張力の
弾力にはじかれて
はじかれるうちに音もなく
入ってゆく
指の骨の
白い洞窟のすきまから
声が降る
あの声もその声も
白く堆積する
カルシウム ....
そんなふうに
できたかもしれないのに
しなかったことが
いいと思う
しようとしたのかもしれない
けれでも
窓辺の通路がなくなるから
しょうがなく
しなかったと思う
それ ....
ひとさし指で手紙を書く
砂のうえに
潮が引くときだけ
ゆるされる
返事が来る
潮が満ちるときだけ
あなたから
光と光の
波にさらわれる
こぼれた文字の
貝殻をひろう
....
みわたすかぎりの草原でした
一頭二頭と牛が産まれると
そこは牧場とよばれました
牛は子供のように戯れて
やがて大人になると柵を越えていきました
柵をこえずに残る牛もいました
牧場とい ....
そういえば
結婚式しなかったね
ときどき妻が言う
僕は聴こえないふりをする
本当に
妻がそう言ったのか
確証のないまま過ぎてしまう
日々の幻聴のように
出会ってから
十 ....
本家の夜更け
障子のむこうの影を
目で追いながら
人の鼾と鼾を調和させ
命のありかを探すように
それらの影と音は
まだ幼い眠りの夢のように
瞬きを絶やさず生きのびていた
これ ....
昨日も
今日も会えた
あなたに
きっと明日も会えるだろう
考えたこともなかった
昨日と今日と
明日ばかりが繰り返された
日々のことを
時の果てで僕を待つ
あなたが
永 ....
サービスエースを決めようとしたら
今日からあたし入院します
と言って
ネットのむこうのあたしが
眠ってしまった
ときどき点滴したりして
管がネットにひっかかると
....
条件は無限にある
とすれば限られた
ひとつだけのような気がして
説明はできない
瞬きと瞬きの間に
なつかしい確信があって
ただそれだけのような気がして
つぼみのまま茎を折る ....
それからどうしても
行きたいところがあると言うので
つれていった
寝ているときは
額に汗をかく人だった
まぶたの裏の世界でも
雨が降っていた
誰かの涙なのだろう
誰かがと ....
羽を跳ねる
パネルを器用にとじて
鳥は止む
空は青く
そのかなたに生えた
おなじ色だけのソーラーを
背中で掴もうとする
てのひらを合わせる
人と人にも似た
ぬくもりから ....
仕事をもらった
知らない女の
角質を食べる仕事だった
女の足の中指は
親指より長かった
おれはその指のあたりを
重点的に食べたのだった
足の親指より
中指 ....
さわいでる
奪われたものを奪うため
あの山なみの
とても深いところで
秋の次は冬がきて
春はかならずやってきて
めぐりめぐって谷底を
ながれる夏の
水はもうな ....
獣たちがさわいでる
奪われたものを奪うため
あの山なみの
とても深いところで
秋の次には冬がきて
春はかならずやってきて
めぐりめぐって谷底を
ながれる夏の
水はもうなかった ....
斜路を行く
山脈をのぼりつめて
そのむこうには
街がある
ひとは呟く
おさない子供のように
どうして汽車は
ひとを乗せて行ってしまうの
はく息が白い
煙のように
あら ....
あたしが
死について考えてるうちは
死んでないから
ぼくが詩を書き終えるまで
思ってる
誰かが
そのことを
忘れたふりして
思い出した
ただそれだけの作業のような
気 ....
自転車を漕いでる
全速力で
ふみきりまで
息子を荷台にのせて
遠くから汽笛の音が聞こえる
蒸気機関車だ!
夢をみていた
眠りにつくまで
SLを夢みる
少年だったはずなのに
....
たくさんのくだが
生き物としてひとつひとつ
呼吸してる
反面そこにはいつも
ニヒルな顔して詰襟を着た
兄がいた
たぶん
高校生だった
彼のことを今は誰に聞いても
知らないと ....
景色を
琥珀色に染めながら
涙のように零れてしまう
煙が風に揺れてる
力いっぱい泣く
汽笛はいつも
理由も知らずに
旅立ってしまった僕らのように
涙をこらえてる
繋がり ....
頂角が
ひとつ消えてしまったなら
残りの頂角も
消えてしまうので
音は鳴るほうへと
響いていった
やがてそれは
指先につるされた
小さな楽器とは思えないほど
宇 ....
パセリは知らない
そのおそろしさのあまり
セージは見た
あまり気にしない様子で
ローズマリーは赤ちゃん
双葉のように腕をふるわせて
タイム
過ぎ去る意味はなく
訪れる ....
ぶるぶるとふるえてる
風もないのに
双葉のような腕を
ふるわせて
僕の息子だ
それはまるで捨てられたように
道端に生える雑草と
何がちがうというのだ
それが僕の息子である ....
なぜだろう
ただそれだけのことなのに
いらないものが
少しもない
テレビで見たものを買うよりも
増えていく
たくさんのあなたやあなた
そしてあなたも
それでいて
どこか ....
雑音が聞こえる
鞄の中から
聞こえる声を聞きながら
母は呆けた
雑音が聞こえなければ
昔のような
声で母は話した
鞄の中から
雑音が聞こえると
途端に母は
声を濁らせ ....
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