夜の白が海へ飛び去り
やがて来る雨が冷たく香る
半ば空へと持ち上げられながら
ゆらめくように船は消えてゆく
長い時間に削りとられた
狭い砂浜へと夜は帰る
土 ....
ひな鳥の声が
どこまでもまっすぐにのびてゆく
こだまも 霧も
親鳥も知らずに
崖の上の森から
次々と旅立ってゆく
淡く灰色に点滅しながら
世界は世界から離れてゆく ....
迎える手
花びら
夜の青の水
二つから那由他への
同心円の道をゆく
数は消えてゆく
光が還る場所に
生まれ 育ち 死ぬ波
指と指の間の無に
立ち止まる
....
冬は起ちあがり
世界は染まる
風のない
夜の明るさからやってくるもの
輪の星の目を
時計の目が見つめる
舌 傷口 くちびる
ためらいのなかはばたく
夜の手の羽たち
....
誰もいない町が燃え
闇は闇のまま焼けのこる
このうえもないものから手渡された
かけがえのないものさえ消えてゆく
風はまやかしの花
やるせなく つめたく
咲きひらく
....
バス停にライオンが伏せていた
バスを待っている人々が
たてがみや尾や背をなでていた
いろとりどりのバスが来て
ライオンはそれに乗り行ってしまった
人々は
去ってゆくバス ....
けして明日へつながるとはいえない
痛点の少ない あなたの指を
かたちも色も知っているのに
ふたたび降りはじめるそのときまで
ふたたび忘れているのでした
忘れることなく ....
怒りを失い
怒りをさまよう
朽ちた腕 朽ちた拳
いのりのように
ねむりのように
土へ向かう
目覚めゆく音
水紋の音
高く堅く過ぎゆく音
聞こえない風の戯れに
....
空の行先を見つめ
夜の晴れ間を歩む者たち
道をかすめる光に目ざめた
灰緑色の羽虫の群れ
傷のあたたかさにすがりつく
繰り返される雨のなかに
妨げの意志が隠されている ....
{ルビξ=クシー}の波が
中庭のまわりを
ひとくくり漂う
崩れることなく
水平線までつながり
微笑みのはじまりのように微笑む
謎が終わり
風が生まれ
緑を示し
目 ....
空の明滅
月の繭
ささくれだった昼の陽の白
遠くにいるもの
遠去かるもの
時間に消されることのないもの
冬の霧が
音の無い滝となり
落ちてくる
地から立ちのぼ ....
雨のなかをはばたく雨
すべての音が去った後で
高く遠い静けさのように
冷気の指はやってくる
はじめて息を見つめるように
生まれ出る何かを見とどけるように
空が降り終 ....
空がうねり
濃さがまわり
夜は満ち足りる
放つもの
発するもの
それらに応え
季節は猛る
風が風に入り込み 抜け出る
けだものが雲の履歴を見つめる
残されることも ....
炎のなかに
失われた歩き方があり
手をのばすと
海のように引いていく
音の煙が
冷えた地に踊る
風
置き去りの石
波
割れた氷のにおい
息をたぐりよせるもの
....
緑の雨
緑の壁
岸辺に立つ
にじみゆらめく影
曇の網
粒子の街
浅い水底で
世界を呑む鉱たち
空のわずかな光に
海はゆるみ はなひらき
熱の歪みの蝶たち ....
雨の風
不確かな湿り気
夜を喰みにくる
けもののふりで
そばにいる
見えない夢
息をふきかける
己を抱くもの
羽に生える羽
重い羽
空に招かれることのな ....
音の一粒
音の一群
森のむこうに見える森
壊れた城も 偽りの城も
ほんとうの城も遠すぎる
風を浴びて立ちつくし
地図の上の文字に眩む
なんのつながりもなく
....
ゆるしはなく
叫びは消え
川に照らされ
独りになる
雨は去り
夜になり
小声は咲く
とどめの白
とどかぬ花
水と葉 ....
夜の水の手をにぎり
雲はなかへと入ってゆく
すこしけだるいしあわせが終わり
空と地とのさかいめは
わからないまま
いままでのまま
うすむらさきに ....
地の水と空の水とが出会う日を見つめる涙ひとりの涙
ふりむけば道は草木に沈みゆく路なき路と手をつなぐ径
木蓮と鳥が同じに見える子の笑みと踊りに降り ....
曇のかたちのしずくの群れ
髪色に肌色に羽色に染まる
あなたはあなたでありながら
少しずつあなたではなくなっている
緑が 鈍が
あなたの{ルビ背=せな}を追いつづけ
あなたの{ル ....
光の粒は増えては落ちて
空の青に波紋をつくる
大きな花の季節を切り
空を開け
冬を散らし
登山者の凍えた耳に
言葉を残す
雲の奥の淡い砂の陽
ほどけては集まる鳥 ....
土の光
空の影
獣のかたち
砂の雲
ゆるい風が作る蝶
水鳥のような
雨をゆく
すべてを乱し
飛びたつもの
湿気の輪と渦
金に現れる赤
刻まれ 燃えあがる
....
器の水と空気を揺らし
敗れたものの記を奏でる
青い氷の空と雲
青い氷の土地をゆく影
途切れたものをつなぐことなく
そのままのかたちで送りだす
自身で自身を選べるように
....
雨を受けとめるとき
光から醒めるとき
去る行為が消えるとき
ひとつの芽を知る
野をすぎ
雪を呼び
歩み 飛び 巡る影の
咲きひらく四肢を見る
温い朝の
羽のあ ....
午後 風
上下
光の水
空に触れ
ひろがる波紋
遠くから
ざらざらと
どうしようもなく遠くの原から
やってくる
色のにおい
短く魔を刈るもの
湿のありかを ....
夜の中の黒いオーロラ
帯の馬にからみつく蛇
ほどけながら近づく星は
月をかき消す粒の緑
沈むままに 見えぬままに
うごめくものは常にうごめき
まわりながらめぐりながら
夜は水 ....
言葉の無い場所から
降るむらさき
雪になっていく雨
きらめく細い
棘の氷
原を埋める
雲と同じ色たち
誰かに向けられた心と
他者のための方程式
絵 ....
花の痛み
虫の言葉
消えていく波
つぶやかれ
誰にも聞かれることなく
飛び去るもの
なまぬるい風から生まれ
梳くように 飾るように
森の細かさと弱さに寄り添う
仮 ....
目を閉じた赤子の笑みに触れる花
ひとひらをくちうつしする涙かな
赤子の手何を語るや散る桜
とどまらぬ光の糸をたぐる花
名づけても名づけきれぬ日花 ....
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