疲れてピアノが寝ていた
狭いピアノだったので
添い寝をすることもできた
やがて、か
間もなく、か
多分それくらいのことだろう
僕であることを間違えた僕を乗せて
草の列車が発車する ....
彫りの深い司会者が
深い彫りの中で溺れて
ウェディングケーキはもう
瞼の中でしかカットされない
花束を越えて
何度も生まれてかわろうとする
たくさんの父と母は
まだ静かなまま ....
あんこの煮かたをおそわった
美しい母のそばにうろついて
台所で遊んでいた幼い頃に
小豆はたかいから贅沢ですよ
ささげを茹でてつぶしたあとで
木綿のふきんで皮を濾し
大きなお鍋にお砂 ....
涙の中を泳ぐ魚がいて
僕の源氏名はまだ忘れられたまま
あなたは僕の順番となり
順番は花びらのびらとなり
そのことで誰も困りはしない
こうして縮まった身体をひょうっとすれば
僕らの不 ....
花を探しているのに
目に映るのは死体ばかり
戦乱はこうして
新たな緑の苗床となるが
少女はいつも
涙をこらえることができないのだった
ひと続きの岩は
やわらかな苔に覆 ....
世界で一番悲しい人が笑った
花のようだった
花の名前と同じ速度で
列車は走った
良い陽が入るね
そう話す乗客たちの袖口は
等しく汚れていた
窓の外にはいつも窓の外がある
という ....
一家全員がそろったのは
昨年の正月以来だろうか
兄嫁が妊娠したという話を聞くと
父はたいそう喜び
押入れからアルバムを取りだし
いつもの昔話をする
それは色あせた一枚の集合 ....
駅前にはたくさんの
駅が並んでいて
降り出した雨に
みな一様に同じ音をたてている
線路は出鱈目にひかれ
それでも人は
誰かを待ち続けなければならない
世界で一番
悲しく笑うため ....
>>さて、ところで詩の余白ということに最初に着眼した方は1900年に活躍した詩人のマラルメさんらしいのです。
と前回「視覚詩と北園克衛 (と私の好きな視覚詩)について」の中で書いてからはや2ヶ月 ....
スパイスきょうじゅ
スパイクはいた
スパイクはいて
スパイスのんだ
いちめん ひろがる
じゃがいもばたけ
おくさんうめたの
だれでしょう
*
あさ うたたねをしていたら ....
海岸に沿って並ぶテトラポットには無数のお
っぱいが隙間なく張り付いていて、朝凪の時
刻になるときゅぅるるるぅーとすすり泣くよ
うな音を立てる。声にすら成り切れていない
その音はまるで餓えた乳呑 ....
水槽の中には
迷い込んだ
ひとつコブの駱駝がいて
その上は
とても静かなので
置かれるものがない
それをあなただけの
目が見ている
寝癖が空調にそよぎ
わたしはも ....
白線の内側におさがりください
融けかかった身体が通過して行きます
主成分は耳とし耳けるもの
声のいくつか
危険ではありませんが
触れると昔を思い出して
いささかに寂しい
窓とし窓 ....
夕暮れの空にはむくどりが群れて
毎日あんなことしてて
むくどりは飽きないのだろうかと思う私も
飽きもせず夕飯をつくる
いや飽きてるんだけど
夕飯に飽きても
生きてるのに飽きても
生きてな ....
靴下を洗濯籠に投げる
途中、失速して
僕の知らない野原に落ちる
しばらくすると
一匹の美しい横顔の生き物が
くわえて行ってしまった
もう何も無くさないようにと
決めていた ....
言葉のひとつひとつに歓声があがり
思い思いに笑い転げ
級友たちの恋の話は
昼休みの教室で佳境をむかえていた
数年も経てば
誰もが通る道である
ということを知るのだろうが
その前に ....
なくしたものと
もういない人とが
ありえないシーソーで
つりあってる
そんな救いのない話しか
思い出せない
と証言台で男は述べたが
語尾はすでに
空気と区別がつかなかった
街のい ....
ふわふわのシャボン玉の中では
ふわふわの魚が泳いでいる
しゅわんとはじけると
魚は空にかえっていく
私もかえりたい
空じゃなくていいから
ふわふわじゃなくてもいいから
....
きらびやかな服を着て
きらびやかな街に出て
たまごの美味しいお店で
美味しいたまごを食べ
たまごが美味しかったと
あなたに電話をした
何て答えたのか覚えてないけど
あの日はあなた ....
何故降り積もったのか
僕らを組成する因子は
間違えることなく
ある日僕らを僕らにした
悲しみは毎日のように語られけれど
掌には幾ばくかの幸せが残されている
まだ誰も本当の悲しみ ....
きみは船長で
ぼくは車掌だった
二人でずっと
夕日のようなものを見ていたけれど
夕日だったのは
きっと僕たちにちがいなかった
海にも線路にも続くことのない
ロープでできた乗り物を最初に降 ....
呑んだくれた父が
血まみれになって帰宅したことがある
前歯が三本折れていて
目の周りは真っ黒だった
何がおきたか怖くて聞けなかったが
父は喧嘩をするような人間ではなかった
呑んだくれた ....
国語の教科書
「急がないと」の「急」が
「魚」に見えた
魚がないと大変だと思っているうちに
心もひれになって
ふわふわと泳ぎだした
先生や友達もみんな
大きい魚や小さい魚 ....
もう自分の場所に
やすらぎがあるので
という理由で
前に進むことを停めた友へ
アガー整骨院は
久茂地交差点の近くにある
それは痛いという意味なので
痛くなったらおいで ....
重さ、とは
預かること
預かる、とは
許すこと
許されること
必然的に張り巡らされた
偶然によって
僕の細胞は君の細胞と出会い
やがてまたひとつの
重さとなった
雨が降って ....
ソーダ水で出来た犬が
門扉に挟まり痛がっていた
放っておけばどこまでも
転がって行きそうな僕の身体は
僕の心の中でまだ眠り続けてる
橋を渡る
腐食した金属のようなものが落ちてい ....
幹さん詩の朗読を教えてください
というメールがさいたま県草加市の女子高生から来たので
月曜に池袋で待ち合わせた
新宿のMARZで見たのだという
体験したのだと!
つまり、既におれを知っている ....
年が明けてから まだ太陽を見ていない
外には{ルビ只=ただ} 冷たい雨音
静かで薄暗い正月
朝
神棚に手を合わせたら
{ルビ揃=そろ}えた足元の床がへこんでいた
町では偽 ....
ある日、大学の売店で飲みものを買いました。
三十九ルーブルだったので、十ルーブル札を四枚だしました。
売店のおねえさんはお釣りの一ルーブル硬貨(日本円で四円くらいでしょうか)を探しましたが、ありま ....
1.
かみさまはいるよ、
って
教えてくれた人は
もうすぐ死んでゆく人だったけど
それは黙っておいた
だって、あいしてるんだ
2.
きのう、かみさまを見か ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45