詩誌「荒地」に所属していた詩人たちの中でも、北村太郎の存在は一種特異である。鮎川信夫のように出発時に先頭に立つこともなければ、田村隆一のように低空飛行しながら生き延びることもない。最初期にはいかにも .... 春の鼻先で鶯どもが歌う
淋しい発声練習
その声に誘われて わが幼年の町へ向かう
死を虐殺する季節
音も 物も
すべてに色がつき始めるが
この骨のような町はいつまでも
錆付いた単色のまま
 ....
散歩する
ひとりで
世界に抗うための 肝試し
夜の墓地
君の他には誰もいない場所
君は闇の静かな渓流の中に
ひとつの影を見る
誰もいないはずなのに
墓地をうろつく黒い影
君は見る
 ....
ねむる石のねむれない夜のかたくこごえた思
い出のなかのあらゆる音をききあらゆる色を
みてあらゆる味をなめてあれはとおい海のな
がい砂浜の潮とたわむれる歳月だったあれは
ふかい青空のしたのひろい ....
ビニールが
     いきなり君の顔にはりつく
突風にあおられて
(どこから吹く どこに吹く 風)
君の顔面に
呼吸を奪う透明な仮面
ふと見渡すと
群集のひとりひとりに みな
ビニール ....
はら
  はら
    落ちる
       散る
風邪をひいた 熱 まだ、散らない
生まれ、愚鈍の、花
さっきまで
     五月まで
         月までの遊覧飛行、
乱費す ....
空の中に沈め
どこからか
笛が聴こえる
それは君を呼ぶ笛だ
やがて君も
死者の隊列に加わる
その時のために
空が君に向けて吹く笛だ
山の稜線があまりにもくっきりと際立っていて
空はあ ....
ふけよふけ風よふけふらふらとふらつきなが
ら歩く背中を笑うように風よふけふきげんな
女のみにすかあとをひるがえしふせいみゃく
にくるしむ老人ののこりすくない頭髪をおび
やかしふるいぺえじをめく ....
夜は暗い
夜は寒い
いまこの荒野を
この時間にしか在ることが出来ない騎士が
ひとりゆく
彼は自らの馬を失くした
それは五百年前のこと
彼は自らの体を失くした
それは五百年前のこと
い ....
 本当は、こんな文章を書くべきではないのかもしれない。ましてやそれを発表するなどということは、絶対にしてはいけないことなのかもしれない。だが、時には書かなければいられないこともあるし、書かなければなら .... ひるがえる
水の分子
玉となって
雨となって
降りそそぐ
鳥でさえも
ひるがえる
水の玉に
水のために
ひるがえり
ゆっくりと落ちてくる

空を見る
地に視線を落とす
ひる ....
夜、
扉は開かれる
恐れることはない
我々は誰もがそこへ向かっている
まずは 手による想像を洗い浄め
火をもってすべてを鎮めよ
みだりに本当のことを口にしてはならない
それは君を不幸にす ....
流れにさからってのぼってゆく鮭の産卵のよ
うにうたうたうものは自らを束縛するすべて
のものに抗いうたうたう水の飛沫がとびちる
ようにうたのかけらはとびちりその濡れてふ
とった水を全身に浴びて鰓 ....
飛行機の夢を見た
滑空する
雲の上の翼
その下にたたずみながら
許されずに在る 自らの境涯を
針のように感じていた

そんな 夢だった
朝の空気は変らずにひんやりとしていて
世界中の ....
その人は起き上がる
いまだ眠たげな目をこすりながら
一杯の朝のコーヒーを探し求める
たった一杯で
本当に目が醒めるのなら
世界は半日ごとに覚醒と睡眠を繰り返す
整理された場所になるだろう
 ....
 数年前、引越しの際に荷物を整理していたら、和室の天袋の中から、昔父が書いた詩の原稿が出てきた。以前から、僕の父親は若い頃に詩を書いていたらしいと、聞いてはいた。だが、僕の知る父の姿からは詩を書くこと .... 不幸な者が飢えるのは
あまりにも遠くを見すぎるためだ
降りそそぐ朝の洗礼に
われわれの首筋は鈍く痙攣する
釣り上げられた魚が
苦しげに未完の呼吸へ焦るように
われわれは前夜の遂げられなかっ ....
それから人びとは浜辺にゆっくりと集まって
きた。ぬめぬめした、軟体動物のような朝、
塩辛い希望を胸の前に抱えて持ち、人びとは
次から次へと、前の扉から次の出口へと、通
りぬけるように浜辺に集ま ....
生まれて間もない赤ん坊が眠る部屋の
窓枠に一羽の{ルビ鶫=つぐみ}がとまって鳴いている

ききききくわっくわっ

鳥の言葉を翻訳すればこうなる
――この家に新しい人が増えたよ
  次の世 ....
私は眠る
掛け蒲団の左右を身体の下に折りこみ
脚をやや開きぎみにし
両手を身体の脇にぴったりとつけた
直立不動の姿勢で
寝袋にくるまる旅人のように
防腐処理を施され
身体中を布で巻かれた ....
 田村隆一は太平洋戦争後の荒廃した社会を的確な詩語で捉え、戦後詩壇を代表する存在になった。と、日本の詩の歴史ではそういうことになっているらしい。僕は言うまでもなく戦後生まれ、それも高度経済成長の真っ只 .... 今日もまた水平に生きてしまった
床に零れた水のように
だらりと二次元に広がる憂鬱
その中で私は
音楽のような殺意を胸に秘めて日常に微笑む
空に観察されている
私は何者でもない

冬の山 ....
青空 青空が見えるよ ねえ
窓を開けてごらん 目を開けてごらん

頭を上げてごらん 見てごらん ねえ
寒さふるえる 透き通る 青空だよ

君は青い人 青い 未だ人ならざる人
空の青 静脈 ....
こごえる
声の
淋しい温度
舌は口の中に引きこもり
のぼってくる苦い味にじっと耐える
やわらかく
ただやわらかい音のままにこごえる
もえることのない白い声
たとえばここで
たとえばそ ....
第一の幽霊

{引用=私は待っています。
この地表に縛られて、待つこと以外に何も出来ないのです。誰を、何を、待っているのか、と問われても、私にはまるでわからず、それでも、
私は待っているのです ....
夜、

{引用=背後に
人は身体をこわばらせる
何がよぎったのか
誰があとをつけているのか
この暗闇の中では
振り返る勇気はなく
確かめるすべもなく
人は
いくつもの時を越えて
 ....
ここから先は人でないと渡れない
その橋を歩く
時は待っていて
ずっとおまえのために待っていて
待ちくたびれてさっさと行ってしまった
置き土産に
こんなに寒い冬を残して

ここから先の霜 ....
橋を渡る
ここから先であえて水の味を嘗める
遠い背後で冷たくなった人びとは
絶句したまま 熱い指を池の面に浸す
最初から順番に数を数えて
今日もまた
汚れた者がひとり
明日もまた
汚れ ....
ひとつの認識から始まる憂鬱
鶏が鳴く
もう朝である
月を背後に負った者は
木の幹の太さを計測して
空にまで届かない溜息を吐く
星の下につぶされた者は
動かない時計を見つめて
色のない繰 ....
混沌の中に
夜はある
夜の中には数多の息が
凍りついたまま存在していて
人々はその下で
ぶざまな眠りを眠っている
君は
やがて忘れ去られる
それが君の運命である
目的を持たない淋しい ....
岡部淳太郎(316)
タイトル カテゴリ Point 日付
北村太郎(その詩と死)散文(批評 ...12*05/4/17 8:00
骨の町自由詩4*05/4/13 18:43
鬼火の引力[group]自由詩5*05/4/10 7:33
石のための散文詩[group]自由詩4*05/4/7 23:53
悪夢とビニール・ジャングル[group]自由詩2*05/4/5 0:08
薔薇の虐殺自由詩5*05/4/3 22:16
空笛[group]自由詩4*05/4/1 23:20
風のための散文詩[group]自由詩6*05/3/30 23:30
夜の騎士[group]自由詩5*05/3/28 18:54
詩人の罪[group]散文(批評 ...40*05/3/25 23:38
水玉記念日自由詩12*05/3/22 0:11
降霊術[group]自由詩4*05/3/21 12:39
水のための散文詩[group]自由詩5*05/3/18 20:39
飛行機の夢自由詩5*05/3/15 19:31
詩人の誕生自由詩9*05/3/10 19:39
父が書いた詩散文(批評 ...6*05/3/5 12:15
終着の浜辺自由詩7*05/3/3 22:47
難破した船の来歴[group]自由詩4*05/2/28 1:52
祝福自由詩2*05/2/27 13:11
夜毎の木乃伊自由詩11*05/2/22 6:01
田村隆一(その詩行のかっこよさから語る)散文(批評 ...30*05/2/20 21:36
私たちの空自由詩9*05/2/19 9:48
僕が病気であるかどうか、誰も知らない自由詩2*05/2/17 22:02
寒い声自由詩3*05/2/15 20:37
幽霊たち[group]自由詩3*05/2/13 11:41
夜、幽霊がすべっていった……[group]自由詩9*05/2/11 19:07
冬に見る夢自由詩5*05/2/9 0:06
水瓶座の朝と夜自由詩6*05/2/6 1:01
遠い旅自由詩6*05/2/2 20:08
忘却[group]自由詩6*05/2/2 20:07

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