夜 眠ろうとすると
世界中のあちこちから甥がやって来て
カブト虫を探してくれと言う
逃げてしまったらしい
眠くてもしかたがない
夜はまだ長いから
大勢の甥たちと一緒に
カブト虫を探してや ....
詩はいつも夜明けの相貌
足の記憶をひもとく余裕もなく
私は迷う
自らの足を踏みつけながら
置き去りにしてきた
枯葉の午後を追う
踏破せよ
惑いの道
あらゆる塩に咽びながら
入眠の甘さ ....
      ――Sに




ひとつの雨
ふたつの雨
それらが落ちてきて
地上に 着地して

ひとつの感情を形づくる

ひとたびの雨
ふたたびの雨
降れば地上は濡れそぼる ....
ふうふうと
息をのぼらせ
この坂道をのぼってゆく
季節は溶解し
逆転し
暗転し
眠るものの肌を焦がした
ふうふうと
息をのぼらせれば
ふうふうと
あえぐ空 または地

(私はあ ....
傾いて
その周囲に小さな
豊穣を張り巡らせながら
季節の同調を軽んじてゆく
絵の中の成果
熟れすぎたくだもの
(あるいは くだくもの)
裂かれるために実る
歯のいのちの前でおびえるもの ....
 勢いこんで始めてしまった「近代詩再読」シリーズ。前回は長い詩暦を誇る草野心平をとり上げたが、今回はいきなり立原道造である。草野心平は八十過ぎまで生きていた人だが、立原道造はわずか二十四歳で亡くなって ....  詩のことについて考える。自分が詩を書いているということについて、その意味を考える。詩を書くことに意味はあるのか? あるといえば、ある。ないといえば、ない。はっきり言えばよくわからない。だが、自分が詩 .... 水の中に深く潜ると
魚たちの溜息がきこえてくる
どうせ水のある場所でしか
生きられないいのち
われらの時には
乾いた真実が欠けている
ソレイユ!
ソレイユ!
光は水の中にまで入りこみ
 ....
                 そして、
海は濁っていった。青黒く、あるいは黄色く、
濁ることで海はひとつの予兆を示した。水平
線までの正確な距離をはかろうと、漁師たち
は考えをめぐらせ、砂 ....
間違いを犯さずに
生きていようとつとめてきた
  少なくとも
    大きな間違いだけは

生後 という
言葉がある
生まれた 後
という意味だが
つまりはこの世に参入してからの
 ....
のこされた風の中
四月がやって来る
この思いをのこしたままで
新しい輪に入らなければならない
記憶を背後の倉庫に閉じこめて
残酷な月が始まる
すべての匂いや音や色が
われわれを呼吸困難に ....
 人が日常生活において言葉を発する時、それは普通ごく近い場所を対象にしている。家庭でも、職場でも、あるいは街中でも、言葉は近くにいる人に向けて、または自分がいるエリアの中に存在する人に向けて発せられる .... 罅割れた道の端に立つ
  この道は水分を欲している
左腕を伸ばし
拳の先で親指を立てる
すると 車が止まる
あるいは止まらない
二十世紀末という
古代でももっとも新しい時代
私はそのよ ....
夭折


{引用=まだ生きているのか
そんな声が聞こえるのは
夜の 穏やかな枕の中だ
まだ生きている
時代を通過して
場所を通り越して
まだ何とか 生きているのだが

もう生きて ....
箱入り娘に関する一連の推論は、世界という
もうひと回り大きな箱に対する裏切りのひと
つであり、それを論じる者たちは、それを奪
おうとする者たちと同じく、等しく同じ罰を
受けなければならない。箱 ....
書けなかった詩の断片が
ちぎれた草になって

風に舞っている

いのちは永すぎる未完
死してなお
始まりにさえたどりつけない 未完

私の夜はいつもと同じ旋律を
内側の街路にまきち ....
ご覧なさい
桜の花が満開じゃないの
ねえ

ご覧なさい
誰もが浮かれて
踊るように笑っているじゃないの
ねえ

花見だか何だか知らないけれど
生きている人って
気楽なものじゃない ....
ゆうらりと
ゆれてしまえばかげひとつ
かげとかげとがかさなって
もっとおおきなかげひとつ
もっとおおきく
もっとかぼそく
うたってしまえば 月 むざん
うたってしまえば 夜 むざん

 ....
 昔、一九九八年から九九年にかけて「夜、幽霊がすべっていった……」という連作を書きついでいたことがある。後に「現代詩フォーラム」に投稿し、個人サイト「21世紀のモノクローム」にも掲載した。
 いまさ ....
 以前から思っていたのだが、恋愛というものは詩のテーマにするにはあまりにも難しいものではないだろうか。それなのに、やすやすと恋愛をテーマに詩を書く人が多いのは、僕にとっては疑問である。恋愛詩を書くのは ....      ふと思いついて、昔書いた詩を投稿してみま
     す。一九九〇年から一九九四年ぐらいまでに
     書いたものを、自分の中では「初期詩篇」と
     呼んでいます(それ以前に書い ....
ひとつの了解からはじまる憂鬱。世界のすべ
ては青い色でぬられている。雨をはきだす雲
のありかである空、それも青ならば、雨その
ものも、青い水彩絵具にとけてふってくる。
人はみな、青にびしょぬれ ....
{引用=(水無川は、神奈川県秦野市内を流れる水量の少ない川である)}

市内を流れる汚れた川
水量が少ないために
汚れがすぐに目立ってしまう
この冬はまだ 誰もがふるえて
大川橋を急ぎ足で ....
 いきなり「近代詩再読」などと大きく出たが、僕に出来ることは限られている。一般に近代詩人に分類されている人たちの中で、僕が好きな詩人、興味を持てる詩人をとり上げて、数ヶ月に一回のペースで、何がしかの文 .... 冷えた夜が
低地を這っている
これもまたもうひとつの
忘れられた夜であろうか
――あの人は
  貴重な生を召し上がりました
何ひとつ 言い残すことはなく
混沌の角度で経験は薄まってゆく
 ....
(何ひとつ書くことはない)
あなたの存在そのものが
詩であり 世界であるからだ

鰐が天井にはりついて僕等を見下ろしている

それもまた
ひとつの世界だ

あなたは僕の父親と同じ歳で ....
このはれた
けれどもとてもさむいひに
うみにあらわれたはまべで
きみというこどもは
いたずらをくりかえす

うみねこたちがなきながら
きみのいたずらをみている



きみがした ....
            通り過ぎる日々を
読みながら、君は空気の囁きを聴いている。
時は裁かれた樹木。刈りとられた枝の先に花
は咲かない。その細い腕に鶯などがとまって
みても、その歌は、駐車違 ....
 いきなり断言してしまうが、名作とは天然である。隅から隅まで計算しつくして書かれたものは、実は名作の名に値しない。何だか自分でも辟易するほど古典的な考え方でいやだなと思うのだが、いろいろ考えていくと、 .... 円盤が
おまえの頭上高くを浮遊する
未確認の淋しさを乗せて
円盤は 氷点下の空を浮遊する
おまえの淋しさを憐れんで
おまえの淋しさに同調して
(いずれも認められていない淋しさ)
空の白さ ....
岡部淳太郎(316)
タイトル カテゴリ Point 日付
世界中の甥自由詩15*06/7/9 22:01
迷路、あるいは疲労した道自由詩9*06/7/1 18:32
ふたたびの雨未詩・独白5*06/6/25 23:19
地霊自由詩8*06/6/15 23:31
死物自由詩10+*06/6/1 22:55
近代詩再読 立原道造[group]散文(批評 ...15*06/5/21 22:22
平準化する世界に対抗するために ——池袋ぽえむぱろうる閉店に ...散文(批評 ...12+*06/5/7 22:10
不在票自由詩6*06/4/30 21:56
そして海は濁っていった[group]自由詩11*06/4/24 22:11
生後自由詩10+*06/4/17 22:10
四月のいる場所自由詩16+*06/4/11 23:14
遠い場所へ届こうとする言葉 ——中村剛彦『壜の中の炎』につい ...散文(批評 ...7*06/4/6 22:49
古代人のヒッチハイク自由詩10*06/4/2 21:33
夭折(三篇)[group]自由詩13*06/3/27 21:53
箱入り娘に関する詩的考察[group]自由詩6*06/3/21 22:31
未完の夜自由詩18*06/3/14 22:04
幽霊と桜[group]自由詩12*06/3/8 22:31
霊能者が書き留めた幽霊の聴こえない歌[group]自由詩8*06/3/1 22:46
「幽霊」についての私的覚書散文(批評 ...5*06/2/26 21:54
恋愛詩の可能性散文(批評 ...17+*06/2/18 22:01
初期詩篇選集「尾行者の音楽」自由詩7*06/2/12 0:18
Blue is the Colour[group]自由詩7*06/2/6 22:08
水無川自由詩2*06/2/4 22:26
近代詩再読 草野心平[group]散文(批評 ...10*06/1/29 20:38
雨になる前に自由詩10*06/1/17 22:03
鰐と谷川俊太郎自由詩5*06/1/15 13:27
このはれた さむいひに自由詩13*06/1/10 21:49
太陰暦の日々[group]自由詩5*06/1/4 22:36
名作は天然である散文(批評 ...8*05/12/31 20:45
冬の円盤自由詩4+*05/12/26 22:34

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