背中に秋の気配を感じさせぬままお前はやって来た。
 私の体内時計は正午を少し過ぎたばかり。
 もう夏ではない日盛りが私の乱雑な書棚を照らし、
 知らんぷりして書き物をしている私にただ時は静 ....
 沈黙を身の回りに置く時、私は決まってここに来る。
 森は必ずしも沈黙ではないが、きっとそれは心の状態なのである。
 沈黙を私は求め、愛でる。沈黙は私に寄り添う。
 物事の美しさは常に変化す ....
 清らかな川辺に降り立った白鷺を見た。
 しばらく彼の美しい立ち居振る舞いに目を奪われた。
 彼はどこからやってきてどこに向かってゆくのだろう。
 なせだか彼を自分と重ねてみた。
 少しも ....
 ある書物は私を受け入れ、私の居場所を示している。
 そんな時私の心は大きく開き、静寂の中の喧騒にただ驚く。
 私の頭上に雲はなく、大地の裂け目では清冽な泉がこんこんと湧いている。
 私の精 ....
 気が付けば四人で過ごす秋が来た。
 まだ早すぎる落ち葉が山荘までの道に降り積もり
 我らの道を優しくふさいでいる。
 後ろには我らの足跡が刻まれている。
 
 山荘に入ると、未だ夏の残 ....
 真夜中に飲むアールグレイに心は踊る。
 記憶の中のバレリーナのようだ。
 真紅の液体はほんのり苦い。
 記憶の中の初恋のようだ。

 煙草を一本。あの頃の記憶が蘇る。
 あれは横浜の ....
 森の中にひっそりと佇む湖に北風が淡く吹き抜ける。
 初秋の風にやましさはない。
 私は一人湖岸を歩き、秋の訪れを静かに待っている。
 夏が今、去ろうとしている。

 私は自分の心と対峙 ....
 悲しみのヴェールに霧が溶けてこの村に訪れる晩夏が眩しい。
 お前と過ごした最後の夏はこのフィルムに焼き付いて時を彩る。
 優しさは或る晩の静けさに紛れて、一枚の絵画には音も無い。
 描かれ ....
 西の空に希望を背負った夕日が消えてゆく。
 黄昏た公園で私は老人を見た。
 ベンチに腰掛け自分の両手を見つめている。
 その時初めて私にも皺だらけの掌があることに気が付いた。
 
 深 ....
 雨の雫が涙のように乾いた私の頬を伝う。
 黒、もしくは赤の色彩の中に、そう、それは夜だ。
 魅惑的な静まりの中でガラスの心を持つ者は
 人知れず暗闇に安堵し、一時の安らぎを得るのだ。
  ....
 驟雨の後の林道に僕の悲しみが溢れている。
 それは僕がそこにいない悲しみ。
 
 僕らが出会った薔薇園に憧れという名の薔薇が咲いている。
 憧れを持ち続ける勇気を見失わないように。

 ....
 暑さ厳しい夏を向こうに控えて
 君と聴くモーツァルトが今日は愉しい。
 無限の広がりをその音に託し、
 感情の極限を曝け出した楽曲達が
 この耳を刺激する。
 曇天が水滴を垂らすような ....
 内なる魂に呼応する音楽はどこへ行った。
 夜の帳のその奥に私は何を見た。
 全ては私の表面をなぞってゆくのみ。
 情熱の欠乏に微々たる感性が泣いている。

 瞳は轟炎の中の親子をただ見 ....
 今宵森の中の静かなアトリエでチェロを弾く君。
 君は自分の色彩を確かめながら求めているのだ。
 私は君の唯一の客。
 私も君のチェロの音色を聴きながら自分の色彩を求めている。
 私のヴィ ....
 月の調べにうっとりとする今日の夜だ。
 幾千幾万もの光の帯が私の窓辺にやってくる。
 天上の彼女は奏でる。
 今日も一日幸せな日だったと。

 深紅に染まったローズヒップティーを飲みな ....
 キャンバスいっぱいに塗りたくられた真っ赤な背景に
 ピエロの肖像画が悲しい瞳を私に向ける。
 有無を言わさぬその迫力に思わず目を背ける。
 その時私はやましいのだ。

 そのほとんどが ....
 寄る辺のない心持で湖岸に一人立ち尽くす。
 微妙な色彩で空に浮かぶ雲のように時間だけが過ぎ去ってゆく。
 確かなものは目の前の現実だけというのはあまりに寂しい。
 まるで見向きもされなくな ....
 遠い記憶を辿ると僕はいつでも森の中にいる。
 そこには寂しさも悲しみもない。
 ただ胸のワクワクするような楽しみや嬉しさばかりある。
 自分一人だけの秘密がいつでも隠されている。

  ....
 昨日僕は坂道のてっぺんから街を見下ろしていた。
 今日はどうだ。
 坂道を転げ落ちて深い谷底から宙を見上げている。
 たかが一日で人の人生なんてどうにでもなるようだ。

 昨日僕の窓は ....
 黒いドレスを纏った貴婦人が僕に手招きをする。
 ミッドナイトパープルのスーツを着た紳士が僕に目配せをする。
 あらゆる人が僕に甘い言葉を囁きかける。
 そして僕はまた一つ嘘をつく。

 ....
 ロベリアの水色が私の窓辺で咲いている。
 脇役に徹しているカスミソウの白い花は妻の好みだ。
 陳腐な言葉など必要ない。
 そこには小さな美が溢れている。

 どんなに小さな表現でさえも ....
 雨上がりが匂う緑の庭園で小さな世界は広がる。
 ピアノの音色が淡い世界に色付く。
 胸に抱えた定かでない悩みは昨日へ消えてゆく。
 私はただ黙々と小さな勇気を今日という日に積み重ねた。
 ....
 夜空に咲く花は美しい音楽を奏でる。
 恥ずかしがり屋の月が雲に隠れぬよう。
 眠りを知らぬ私らは窓辺に佇み
 チェンバロの響きに耳を澄ます。

 慈悲深い月がいよいよその姿を雲にくらま ....
 
 雨上がりの喫茶店で煙草の煙を追いかけていた。
 ここでは思想が絵となり、歌となった。
 私の目にするもの全てが題材となり得るのに、
 私は過程の楽しみを忘れていた。

 昔は一つの言 ....
 ワルツの流れる部屋の窓から遠く海を望む。
 海は二拍子だと昔から思っていた。
 先入観を捨てた時、私の世界は広がった。
 まだ見ぬ出来事や光景がこの世には美しく溢れている。



 ....
 淡い太陽とそよ風が流れる五月。
 森を抜けた小高い丘から見渡せる大海原。
 キラキラ光る波間に浮かぶカモメ達。
 沖合には大きな帆船が漂う。

 新しい季節の到来に胸が高鳴る。
 自 ....
 今日という日に新たな風が、吹き荒れている。
 それは喜びであったり悲しみであったりする。
 一つの言動や行動が新たな何かを生んでいる。
 希望や絶望が不可思議に織り込まれている。

  ....
 すべての家の窓は閉められている。
 通りには誰ひとりいない。
 路地裏は灰色の匂いがする。
 この世に僕一人しかいないような感覚。

 家並みを抜けると開けた田園地帯になる。
 僕は ....
 オルゴールが穏やかに流れる
 喫茶店の窓から外を眺めると
 桜がさらさらと散っている。
 春が終わろうとしている。

 桜の薄いピンク色の花びらが
 ひとつまたひとつと僕のいる
  ....
 私の永遠の旅人、桜の季節を軽々と飛び越えて初夏を待ちわびる君よ。
 届いた手紙には、すでに爽やかな風の匂いが沁みついていたのだ。
 それはまさしく五月の風。しかし君の無理難題には答えられそう ....
ヒヤシンス(425)
タイトル カテゴリ Point 日付
欲望自由詩1*16/10/1 0:46
美しき沈黙自由詩5*16/9/24 2:41
白鷺と太陽自由詩5*16/9/16 23:44
創造すること自由詩7*16/9/9 21:45
山荘にて自由詩3*16/9/3 6:06
アールグレイ自由詩3*16/8/20 3:57
今を生きる自由詩1*16/8/20 2:48
晩夏自由詩3*16/8/17 3:53
黄昏時の老人自由詩8*16/8/10 4:50
黒と赤自由詩4*16/8/6 4:09
いつかの生活自由詩3*16/7/30 3:07
峻厳自由詩7*16/7/13 3:23
情熱自由詩2*16/7/2 5:28
小品~三重奏自由詩3*16/6/25 0:46
月と天使自由詩5*16/6/18 1:58
心の膿自由詩4*16/6/18 0:46
一人時間自由詩4*16/6/18 0:16
森を想う自由詩3*16/6/11 3:52
後悔と反省の狭間自由詩4*16/6/11 1:18
嘘つき自由詩3*16/6/4 4:57
美~窓辺にて自由詩6*16/5/28 3:37
庭園自由詩11*16/5/18 6:48
夜空に咲く花自由詩4*16/5/14 4:19
創造するということ自由詩3*16/5/11 15:15
ワルツを聴きながら。自由詩3*16/5/7 6:06
五月~憧れ自由詩3*16/4/23 6:20
祈り自由詩2*16/4/20 5:07
人生の選択自由詩6*16/4/9 5:43
予感自由詩3*16/4/9 5:14
友へ自由詩6*16/4/2 4:48

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