晩夏
ヒヤシンス


 悲しみのヴェールに霧が溶けてこの村に訪れる晩夏が眩しい。
 お前と過ごした最後の夏はこのフィルムに焼き付いて時を彩る。
 優しさは或る晩の静けさに紛れて、一枚の絵画には音も無い。
 描かれたお前に美は永遠で、私の心は途方に暮れる。

 奪えなかった私にも神は平等に夜を与えた。
 窓越しに眺めた夜空に私は初めて流星を見た。
 たった一度だけ見せたお前の涙のようであった。
 大きな存在を失った私の心の涙のようでもあった。

 愛とはかけがえのないものである。
 愛とは奪うべきものである。
 愛とは真っすぐに表現するものである。

 その晩私はひっそりとした部屋の中で日記を書いた。
 お前のヴェールをこれ以上汚さぬように、ひっそりと。
 たった一言。・・・喪失、と。
 


自由詩 晩夏 Copyright ヒヤシンス 2016-08-17 03:53:17
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