{引用=窓}
梢に残された枯葉一枚
干乾びた想いの欠片
命はすでに記憶もない
生者の心は生乾き
過去と重ねて今を見る
いっそ綺麗に散ったなら
鴉が乗ると電線がゆれた
墨で描 ....
白い螢の舞う朝に
人魚たちは孵る
顔の裂け目から一斉に現れて
辺りの言葉を食い尽くす
囁きも擬態語も残らない
煽情の尾鰭 くねり
思考のすべてが
白い泡に包まれる
望遠鏡の前に ....
隣家の屋根から翼のような雲が見える
朝の微睡みから覚め
膝に居座る悪夢が霧散するまで
蛹の時間
軒の氷柱の光の粒は
瞼につめたいやわらかな真珠
木々の梢を半ば強引に愛撫する風
その風に ....
*
昼の薄暗い店
キーケースからはみ出した
鍵がぼんやり光って見える
蝶がビロードの翅を立てて止まっていた
氷が解けてもグラスが溢れることはなく
微かな光を傾けてもピアノは眠ったまま
....
*
貧しい子どもたちのモノクロの微笑み
冬の頼りない日差しに委ねる頬
悪意は悪意のままでだけ美しい
信じることと騙されることが同義となった今
焦点は暈されたまま
クシャクシャ ....
*
青空ではなく あおそら と
くちびるに纏わる
透けた胎児 月のように
発芽を奥ゆかしくも留め置いた
――エバの種
見上げる大気の透過した青
見下ろす海の反射した青
....
*
終りのないものの終わりを決める
生きることは括り閉じることの繰り返し
言葉に置き換えられた
かたちのないものが夜うっすらと発光する
夏の夢の欠片が螢なら
抗うことを止めた ....
誰より上手く騙したつもり 早くひとりになりたそう
ハンドルネーム手ぬぐい一つ 前を隠さず顔隠す
恥ずかしいのは行為じゃなくて 自分と特定されること
猶予と往くか余裕と往く ....
高いギターでうんちく語り ボロンと鳴らし仕舞う人
素面じゃ{ルビ弾=ひ}かぬ吐くほど飲まず 歌の含みも酒で濡れ
部屋を片付け窓を開ければ 迷子の風も寄って往く
捨ててあげ ....
喚き散らすか痴情の縺れ 外でやらかす若さかな
奏でる風のグリッサンドに 音符くるくる降ってくる
風にカサコソ枯草語る 自慢じゃないが子沢山
箱を開ければびっしり絵本 親子 ....
休み増えても給料歩合 酒は増えても出かけない
端からなにも無かったくせに 失くしたものと想いたい
よどむ曇天どんより映す 病める瞳になにを読む
下手なエレキと下手な詩吟と ....
宵に呼ばれて寄れば良い酒 酔ってよろけた夜の路
魚も鍋も奉行がさばく アクをすくって膳こらす
熟した柿はむかずに啜れ 女むかずにゃ啜れない
周回遅れ時代と競う 若さ失くし ....
朝酒の代わりにシャンソン秋に酔う
幸せは演じることがその秘訣
極端に厚着と薄着の大学生
影を踏む鬼と知られずする遊び
花供え帽子目深に被る人
暗渠へと ....
家を出る秋の耳打ち襟を立て
空は澄み夢の骸か月白く
十姉妹通風孔を{ルビ窺=うかが}って
靴の紐ほどけて結ぶ霜の朝
人気ない路を横切る枯れ落葉
見上げ ....
愛死体秋すぐに冷たくなって
泣くように笑う男が書いた遺書
未来捨て過去と駆け落ち心中する
蝸牛踏めば悲しい軽すぎて
傘の花みんな流れて校門へ
ひっつめ ....
秋の雨引き戸を開き覗く夢
翻る少女の声も遠く去り
秋よりも秋を装う女たち
水槽に涙をためた金魚姫
翼切り歌を失くして人になる
手折るなら痛みの一つ分か ....
子を叱る母の帽子に赤とんぼ
バスを待つ頬の産毛に光差し
空軽く{ルビ眼=まなこ}を{ルビ纏=まつ}る金の糸
借りた本から押し葉の栞おちて
蔦燃える窓に映るは誰の影
....
窓ガラスを伝う雨
樹木は滲み油絵のよう
秘密を漏らすまいと
ずぶ濡れで走り続けた
若き日のあなた
尖った顎
靴の中の砂粒を取る間も惜しみ
聞えない声を聴くために
人々から遠ざかり
た ....
黄の蝶と白の蝶とが連れ立って渡る線路に光倒れて
風も無く半旗を垂れたわが心空は高くてなにも見えない
あてどなくふるえて迷う小さな蛾人に纏わりなにを思うか
説明も言い訳もも ....
言葉のフェイクを削ぎ落し
白骨化したあなたを抱いている
突風にあばらが鳴ると
手を取ってかちゃかちゃ揺らしてみた
骨盤に唇を押し当て目を瞑る
あなたは眠りからさまよい出た夢で
青いインクで ....
{ルビ開=あ}き切った青の深みに呼ばれたか秋津は震えて空に溶けた
梯子を失くした煙が人のふりをして野山をうろついている
透けたくびれには永遠も一瞬もないただ砂の囁きだけ
....
他の人生はない
次の人生もない
分かり切ったことだからあえて口にせず
「もしも」や「仮に」の世界を言葉にしたのだろうか
詩を書き始めた頃には多かった直喩から
あえて隠喩を多くしようと心掛けた ....
翅を欠く揚羽と並び歩く道白磁と見紛う骨の白さ
すずやかな朝にまどろむ娘たち夏の火照りを蓄えたまま
安全も安心も不安あっての約束手形不渡りもある
今朝はまだ世間の目には止まらな ....
互いから目を反らすため見るテレビテープを貼った風船に針
見開いて水に倒れた金魚の目土葬にした日の絵日記帳
酒が止み雨に酔ったら{ルビ螻蛄=ケラ}の声死ぬまで愚直に夢を掘り
四十万にも ....
兄笑い弟泣いた花火は海へ闇へ消え何も残らず
カブト虫カバンに隠し学校へ死んだ弟靴音軽く
廃屋の塀からおいでおいでする夏草に咲いた少女の指
死んでやる孫に向かって言う母をさ ....
{引用=独居美人}
託児所の裏の古びたアパート
窓下から張られた紐をつたい
朝顔が咲いている
滲むような色味して
洗面器には冷たい細波
二十五メートル泳ぐと
郵便物の音がした
....
わたしは 年老いたわたしの失われた記憶
小さく萎縮した脳の中 仕舞い込まれて
行方知れずの 動かしがたい過去の事実だ
茫漠として靄のかかる
瓦解した印象の墓場から
時折ガラクタたちが目 ....
熟れた大気をすっぽり両の{ルビ腕=かいな}に収め
瑞々しい空白に奏でる命の揺らめき
絃を断つ蝉ぽつり
また ぽつり
生の祭りの一夜飛行を終え
塵と積もる羽蟻 さらさらと風
山葡萄の花の匂い ....
憂いに厭いて 惚け 文ぬらし
爪を砥ぐ気怠さ
褐色の蝶 占わない空の果て 見失い
浸る暑さに
影を広げ すり足で
拾われない小石の顔点々と
避けながら奥へ 真中へ 綱で曳かれる畜生か
ち ....
灯りに群れる虫もいれば
闇に灯る虫もいる
子供と大人ははっきり区別され
子供の目的は大人になること
そのためにひたすら食う
大人の目的は子孫を残すこと
ひたすら交尾の相手を求める
あ ....
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