{引用=ネズミ}
ネズミが死んでいる
毛並みもきれいなまま
麻酔が効いたかのように横たわり
玄関先のコンクリートの上
雨に濡れて隠すものもない
死んだネズミは可愛らしく
人に害など決して ....
{引用=無邪気な錯覚}
窓硝子の向こう木は踊る
風は見えない聞こえない
部屋に流れる音楽に
時折シンクロしたかのよう

時折シンクロしたかのよう
異なる声に欹てて
異なる何かに身を委ね ....
{引用=小乗奈落下り}
薄皮一枚
力ずくの力が萎えた両腕で
無垢な羽ばたきを模索する

庭園の苦行者は薄幸の煌めき
傷口は各々レトリックを備え
投げやりな否定で自らを慈しんだ

最初 ....
{引用=リバーシブル}
雨の{ルビ詳=つまび}らかな裸体と
言葉を相殺する口づけ
水没して往く振り子時計閉じ込められて
中心へ落下し続けるしかない時間
1095桁のパスワード
{ルビ木通= ....
{引用=幼恋歌}
暑さ和らぐ夕暮れの
淡くたなびく雲の下
坂道下る二人連れ
手も繋がずに肩寄せて
見交わすこともあまりせず
なにを語るか楽しげに
時折ふっと俯いて
風に匂わす花首か
 ....
{引用=傷}
抗わず流されず
風と折り合いつけながら
トンボたちは何処へ往く
銀の小さな傷のよう
翅で光を散らしながら





{引用=白紙のこころ}
尖った波に足を取られる ....
{引用=熟れた太陽}
暑い日だった
「スキンヘッドの大工さんの日焼けした後頭部に
もう一つ顔を描いて冷たい水を注ぎたい 」

マスクをした金魚がエアコンの波に裳裾ひらひら
上気したザリガニ ....
{引用=招待状}
時折 招待所が届く
ある時はコクトー
ある時は犀星
畠山千代子だったことも
メルヴィルの白鯨の一章だったりもする

だからと言っていそいそと出かけはしない
しばらく触 ....
{引用=影法師}
セイタカアワダチソウの囁き
太陽と雲のコラージュ
目隠しする乳房
一瞬で潰れた空き缶の音
湖水に跳ねる金貨 落ちる鳩
鉛筆を齧る数学教師のポケットの
癲癇持ちの日時計
 ....
{引用=蝶の行方}
レモン水の氷が鳴った
白い帽子に閉じ込めた
蝶はどこへいったのか

太陽が真っすぐ降る
眩い断頭台から眺めていた
あの蝶の行方

自殺した詩人
現実を消去して残 ....
{引用=散歩道}
彼女は二つの嘘を連れ歩く
いつも同じコースで
一つの嘘は人懐っこく誰にでも尾を振った
一つの嘘はところ構わず吠えたてる
どちらも夜のように瞳を広げ
油膜で世界を包んでいた ....
日暮れ前
誰も彼もが瞑り合掌し
高く掲げた花
   賜りものか捧げものか



            《2020年7月26日》
{引用=首}
なだらかな午後
ただそれ自体の円みと感性で
転がって
吸血する問いとなり
落下する 分裂の暗い谷へ

隠匿されていた
真っ赤な夜が溢れても
目交いすらなく
過る夜鷹に ....
その絵具セットには暖色がない
静止したかのような独楽を見つめ
もう一人の自分と根比べするかのよう


沢山もらったその中から母は
かたちの良いものをひとつ除けた
「お兄ちゃん用に」
茄 ....
{引用=とある一}
――――――それは
俯く若葉のこらえきれない涙
朝には珠となり蜘蛛の糸を光で撓め
――――――それを
誰が量ったか
人も地も飲み切れず地も人も飲み込むほどに

問う ....
{引用=*}
時間もその都度仮面を変える
あなたの役どころに呼応して
悲劇には悲劇の 
喜劇には喜劇の
だけど時折場違いな仮面
ピエロの場面に憂いの真顔とか
隠した心を見透かすように
 ....
{引用=むかしばなし}
幾千幾万の囁きで雨は静かに耳を溺れさせる
まろび出た夢想に白い指 {ルビ解=ほど}く否かためらって
灰にならない螢の恋は錘に捲かれて拷問されて
透かして飲んだ鈴の音も夜 ....
{引用=どうぞお先に}
誰も持って生まれてこなかった
それはなにかを表す記号
中は虚空で面は鏡張り
金より重くて空気よりも軽い

地球で一番重いものは何かと問われ
ある子供は「それは地球 ....
マスクを外す
雨上がり 草木の匂い
白蝶の群れる木




{引用=風船}
パンパンに膨らんで気づく
出口のない恋はつらいもの
でも破裂はしない
いつのまにか萎んでる

ここ ....
{引用尾=昨日まで聞えなかった蝉が鳴き出した}
 *
悪を行うつもりで行う悪はたかが知れている
だが善を行うつもりで行う悪に際限はない
それは敵対勢力と自己犠牲の陶酔感でより強固になる

 ....
 祖父の無線アンテナが世界中から不幸を手繰り寄せていた
朝はもう昔だ。ツユクサやイヌノフグリに覆われたあの土の
盛り上がった一角、あそこが祖父を埋めた場所だと、誰から
教えられた訳でもなくずっと ....
本能は満たされる
理性は
果てしない貪りへの扉である



錬金術師のように
どんなものからでも美を抽出する輩がいる
彼が対象に魔法をかけているのか
見ている者に魔法をかけているのか ....
雨の吐息に八重咲きの桜しばたいて
落ちたしずくを掻き抱き夢見心地で逝く蟻の
  複眼の曼陀羅
    太陽を入れた万華鏡

黒曜石は夜に溶けながら半球を渡る

うす闇からうす紅
八重に ....
鈴は沈む 大気の蜜へ
黙したものの{ルビ自重=じじゅう}により

若葉に光の飛沫
     木漏れ日の揺り籠に落下する蜂

五月の河畔を夢がさまよう
  ポケットの中に全てを失くしている ....
問い質すことはしない
その背にただ頷くだけ
否定も肯定もしないことで
ぬかるみを隠し
死へ そっと後押しする



数十億の盲人が夜を編む
匂いを持つ風は翼を解くと
女のつま先をし ....
愛は真っすぐ丘を登って行った
蹄の跡を頂に置き去りにして
光は渦巻いている
春の風がむき出しの土を{ルビ弄=まさぐ}っている

あの日太陽を塗りつぶしたのは誰だったか
わたしの心臓を突き刺 ....
毛羽立つ絵筆の雑木林を越えて
厚い雲が寄せて来る
足元に暗い犬を従えて
息のしかたを忘れた大気
鳥たちは問う
振り返り母の顔を仰ぐ幼子のように

時の切れ端に速写した
景色に映り込む影 ....
{引用=インセンス}
火を点けて
饒舌な沈黙の眼差しと
爛熟の吐息で苛みながら
突く牛の潤んだ目
獅子の尾で打ち据えた
定理のない
地獄をひとひら移植して
{ルビ舐=ねぶ}られ食まれ灼 ....
{引用=息よ}
ゆらゆらと光を含み

ゆるやかに 雪は 雪であることをやめ

それでも水は見え ふれると滲み うすく纏わり

やがて消える 目覚めの夢のよう ふれても気づけないまま

 ....
{引用=朝は容赦しない}
朝は砕け散ったガラス
遺言すら打ち明ける{ルビ暇=いとま}もなく
連行される
整列した諦念の倒れ伏した影が
みな時を等しく示す頃
目を閉じて 夜を
再び{ルビ紐 ....
ただのみきや(984)
タイトル カテゴリ Point 日付
人体実験自由詩2*20/10/10 16:26
詩と音楽と酒自由詩9*20/10/3 14:46
熟れた悪意の日々自由詩2*20/9/26 20:04
死と詩と虫と自由詩4*20/9/19 20:49
夭折自由詩10*20/9/12 16:06
李家の人々自由詩4*20/9/6 15:12
延長戦自由詩5*20/8/29 21:27
フロントガラスにちいさな蝶が止まった自由詩2*20/8/23 19:13
死者の戯れ自由詩4*20/8/14 20:32
夏の囚われ人自由詩2*20/8/9 14:06
なしごころ自由詩4*20/8/1 21:28
ねむの木自由詩2*20/7/26 17:48
早贄自由詩4*20/7/25 20:45
四から二へ/気質として自由詩4*20/7/18 15:14
とある二編自由詩5*20/7/11 15:54
新たな起点自由詩3*20/7/4 20:11
頭の上にかもめが落ちて来る自由詩8*20/6/27 18:29
一晩中娘道成寺を見ていた自由詩2*20/6/20 16:32
静かに乱れる呼吸自由詩5*20/6/13 13:36
六月酔歌自由詩2*20/6/7 15:30
帰郷自由詩4*20/5/31 17:11
道楽者自由詩3*20/5/24 16:02
八重に愚かに自由詩4*20/5/17 14:41
忘れられた一行のために自由詩7*20/5/16 14:23
流刑者の楽園自由詩4*20/5/9 23:29
術もなく自由詩10*20/5/3 14:00
痺れながら自由詩4*20/4/25 19:54
壊疽した旅行者 五自由詩2*20/4/19 13:06
壊疽した旅行者 四自由詩2*20/4/12 13:38
壊疽した旅行者 三自由詩3*20/4/5 15:59

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