海は想う
 「わたしを包み込むこの方は誰?
 凪いだわたしを優しく撫で
 荒れ狂っても受け止めてくれるこの方は


空は想う
 「ちょいと撫でりゃこの通り
 吐息一つで身をよじりやがる ....
真昼の光の深層
魚のような身のこなし
リズムゆらめく角度から
乾いた{ルビ鼓膜=スネア}くすぐるブラシ


目蓋の裏を青く引っ掻いて
一匹の夜が踊り出す
はだけた胸
地を蹴るつま先  ....
白い蝶 光の眩暈
追って追われて
追われて逃げて
見えない糸が絡んだように
もつれてはなれ
はなれてもつれ
火照った空気に乗っかって
この夏の向こうへ


恋と憎しみは良く似ている ....
{引用=*名を呼ぶ}
名を呼ぶ
ここにいないあなたの
井戸へ放った小石のように
真中深く 微かに響き
瞑っても
抱き寄せることはできず 
こみ上げる揺らめきの 
糖衣はすぐに消えて
 ....
炎天下
  暗転する

極めて正直な
光の圧に屈服

発汗 溶解した エロチシズム

レイバンをかけたロダン
    考えない人たち

        薬指に カラスアゲハ
  ....
Venus flytrap
抱擁から解き放つと
――心臓から飲まれていたのはわたし
黒い孔雀は飛び去った
眼差しの影ひとつ 
落とすこともなく 
時の支流が無数に重なり合う彼方へ
ひとつ ....
つかみどころのない臓器
痛みはあっても在処のない

つるりと気取った陶器
来客用もちゃんとある

すきま風の絶えないあばら屋
震えている いつからここで

過敏すぎる 肉を削いで裏返 ....
滲む濃紺のシルエット
おくれ毛ぬれたその耳を塞いで
いたのは 誰の声だったのか

小さな手から逃げ出した
風船は 空いっぱいにふくらんで 
音もなく 破裂した 大人びて寂しい

始まり ....
夕日が朝日へ生まれ変わるように
死は生と生のはざまの休息だった

あと少し もう少し
満ち足りて安らかに

しなやかで純粋な生の欲求
飼いならされて往くプロセスで

ただ月や星の光が ....
書き連ねたその名が
細波となって 寄せては返す
好きだ 好きだと 漏らした声
海に降る雪 静かに跡もなく


わたしは溶岩
死火山の 抜き盗られた{ルビ腸=はらわた}
灰の伝道者だった ....
死の天使は軽妙がいい
悲壮は生にこそ相応しい
諦めもある一線を越えれば解放だ
概念だけの救いなんて幽霊にも劣る


仔犬のように震えている
不安の口に手を突っ込んで
ズルリっと裏返し  ....
{引用=*小樽カントリークラブ}

空は灰 まだらに吠え
泥めく海 見渡すかぎりの獣
分厚い風を羽織り
霧雨でぬれた頬
それでもゴルフ
おそらく
たぶん
見るからに
上手くはない老 ....
この糸のほつれをそっと咥えて
赤錆びた握り鋏はその蓮の手の中――
信仰と諦念の{ルビ臺=うてな}に眠る 享年「  」


景色の皮膚を剥がした 
耳は遠く
階段を上り下る 
橙色の帽子 ....
青い裂果 
   光の手中に墜ち


さえずる鳥 ついばむ鳥
文字へと変ずるか 黒く蟻を纏って


大気に溶けだす肉体は祈り
小さな動物の頭蓋のよう
未満の種子 生を宿すこともなく ....
  ――水脈を捉え ひとつの
薬湯のように甘く
 饐えて 人臭い
       廃物の精液  
            輸入された
どれだけ銭を洗っても
どれだけ子を流しても
      ....
風のグリッサンド
娘たちのうなじ
蜜蜂の囁きと遠い銃声
耳の奥 深く 深く


雨のアルペジオ
素早い波紋のダンス
生まれ 出会い 干渉しあう
飛べなくなった蜜蜂は冷たい


 ....
その美の真中に隠された荒野に
どうか 花ひとつ
植えるだけの土地を譲ってくれませんか

血の滲んだ足を隠して走り続ける旅路のどこか
ほんの一歩か二歩
見守る場所を許してほしいのです

 ....
{引用=どうかあなたという揺るぎない現実に対して
絵空事のような恋情を描くわたしを許して下さい
これらの時代錯誤で大げさな言い回しは
詩人気取りの馬鹿な田舎者がそれでも言葉だけ
精一杯めかし込 ....
生まれ持ったもの 遺伝だろうか
あるいは環境 日陰育ちなのか

わたしの扱い方が悪かったのか
つい荒々しく掴み 力任せに――

その瑞々しさとは裏腹 なんという辛口!
泣いているのは わ ....
がらんどう
でなけりゃ鳴らない
灯りはいらない
隙間から射し込む程度
《{ルビ外面=そとづら}はいつだって焼かれているさ
がらんどうで
鳴かねばなるまい


万華鏡を回す要領
青白 ....
透明な何かがかすめた
それで十分
脳は甘く縺れる痛みの追い付けない衝撃に
砕かれ 失われ
死に物狂いで光を掴もうと
欠片たちは
凍結されることを望みながら
永久に解読不能
時間の延滞の ....
淡い知覚の海に 
ふと あたたかな弾力
戸惑いながらも知らぬ間に 
綻んで往く 原初の蕾


声音と面差しは波のよう
外から内へ 内から外へ
柔らかい殻を脈動させながら
会得して往く ....
いくつもの門を通り
いくつもの問を越え
理解と誤解をなだらかに重ねては
綴り合わせる 欲望の道すがら
まるで古い雑誌の切り抜きや色紙を
ぺらぺら捲るような 陽気な悲しみ
目深に被り直して
 ....
「覚めない夢もいつかは覚める

闇の深みにスポットライト
行き来するたび変身する
――あなた
咬み合うヒュドラのよう
分裂と統合の具象化
象徴としての女神よ
純・錯覚 恋は
中空の象 ....
コンパスのように立て
最初から最後まで
近寄ることも遠ざかることもない
己の中心に
想いは帆のように憧れを孕み
どこまでも出歩くだろう


コンパスのように立て
滾る情熱は千切れるほ ....
なにもない
わたしのなかには
わたしがいるだけ
気だるげな猫のように
死後硬直は始まっている
小さな火種が迷い込むと
すぐに燻り 発火し 燃え上って
肉の焼ける匂い
骨が爆ぜる――生枝 ....
当たり前すぎることだから
素直に応じた
お椀に浮かべた麩のように
あなたはあなたに浸されている


――まるで 無い 
     ない みたい


家では
タツノオトシゴの溺愛
 ....
――黄金が憎いのだ
魅入られ 争い奪い合う 不動の価値が
金の卵を生む鶏は腹を裂かれて殺された
その輝きが飼い主を愚かにした
鳥でも蛇でもおよそ卵には天性の美のフォルムがある
それは新たな命 ....
すでに起きたのか 
これから起きることか
おまえの吐息 ひとつの形のない果実は
始まりと終わりを霧に包み
不意に揺れ 乱れても 損なわれることのない
水面の月の冷たさへ
わたしの内耳を し ....
樹木の恥じらいが小鳥の逢瀬を覆う頃
光を浴びてあなた
光を断って歩き
文字から浮き立つイメージのように
境界を越えて往く
今朝の雫にふるえながら幼さを脱いだ
蝶のように 華やぎながら
― ....
ただのみきや(984)
タイトル カテゴリ Point 日付
じっあーつ自由詩9*17/8/9 20:00
リズム自由詩6*17/8/5 20:05
去来蝶自由詩13*17/8/2 20:00
おかし詰め合わせ自由詩18*17/7/29 20:22
この夏へ捧げる自由詩9*17/7/26 21:25
女神の抱擁自由詩4*17/7/22 21:40
こころ自由詩10*17/7/19 18:13
暮れないまま自由詩16*17/7/15 20:34
混血神話自由詩4*17/7/12 20:50
忘我のプラトニック自由詩12*17/7/8 19:26
絵ソラシドう?自由詩3*17/7/5 21:03
海辺のカソカ自由詩7*17/7/1 20:53
秘密のラッコ隊自由詩9*17/6/28 21:51
青い裂果自由詩16*17/6/24 13:44
世代論自由詩16*17/6/21 21:30
六月と手口自由詩8*17/6/17 13:49
花ひとつ分の土地自由詩13*17/6/14 19:41
ミューズへの恋文自由詩9*17/6/10 14:40
白いふくらはぎ自由詩8*17/6/7 18:26
がらんどう自由詩13*17/6/3 21:23
スティグマティクス自由詩11*17/5/31 20:40
三つの微笑み自由詩5*17/5/27 18:21
白い頂のよう自由詩16*17/5/24 21:11
Ennui/ある朝の人生論自由詩5*17/5/20 20:08
コンパスのように立て自由詩12*17/5/17 21:08
喚き散らす肉自由詩14*17/5/13 21:05
一人の女優に捧げる詩自由詩8*17/5/10 21:03
ある錬金術師の告白自由詩9*17/5/6 15:33
濡れた火の喪失自由詩18*17/5/3 22:30
ご旅行ですか、お嬢さん自由詩10*17/4/29 20:45

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