毛羽立つ絵筆の雑木林を越えて
厚い雲が寄せて来る
足元に暗い犬を従えて
息のしかたを忘れた大気
鳥たちは問う
振り返り母の顔を仰ぐ幼子のように

時の切れ端に速写した
景色に映り込む影 ....
{引用=インセンス}
火を点けて
饒舌な沈黙の眼差しと
爛熟の吐息で苛みながら
突く牛の潤んだ目
獅子の尾で打ち据えた
定理のない
地獄をひとひら移植して
{ルビ舐=ねぶ}られ食まれ灼 ....
{引用=息よ}
ゆらゆらと光を含み

ゆるやかに 雪は 雪であることをやめ

それでも水は見え ふれると滲み うすく纏わり

やがて消える 目覚めの夢のよう ふれても気づけないまま

 ....
{引用=朝は容赦しない}
朝は砕け散ったガラス
遺言すら打ち明ける{ルビ暇=いとま}もなく
連行される
整列した諦念の倒れ伏した影が
みな時を等しく示す頃
目を閉じて 夜を
再び{ルビ紐 ....
{引用=旅行者}
その人は鶫のように帰って往く
旅行者だった
ほぼ全身が包帯でぐるぐる巻きになり
血と膿が染みている
新しいものに代えようと包帯を解けば
汚れた包帯は延々と続いて
やがて ....
{引用=破傷風}
この世界を憂い悲しむ心は知らぬ間に
蜘蛛より細い糸で繋がっている
見たことも触れたこともない天の何処かと
教育によって与えられたのではない最初からあった
見えない傷口のよう ....
{引用=デマ}
風に煽られるロウソク
それでも消されることもなく
怯えて 震える炎
ささやかな灯と温もりを
与える術も忘れたかのように




{引用=御免だね}
出来事は恐れな ....
{引用=糸}
絡んだ糸も根気と時間さえあれば解くことができる
だが砂粒のように固く結ぼれてはどうしようもない
ギミックとトリックを切り捨てれば 見えるか
見えないか 糸は揺れ
微風にも抗えず ....
{引用=涙}
厭きて見上げた雪空から
狙いすまして瞳に降りて
澄んだ涙を装って

誘発するものたち
悲しみに喜び
タマネギや目薬

夏の深い井戸 あなたは
美しいから美しい
詩の ....
{引用=梯子}
高く伸びた梯子があった
青い空の真中に突き刺さり梯子は行き止まる
果て無きものに接した微かな上澄み
触れていることすら定かでなはない
その虚無の厚みの中
降り立つ場所もなく ....
{引用=暖冬}
緩んだ根雪から枯草が
冬の裳裾を刺し留める
立ち姿も変わらずに
乾いた虚ろが季節を計る

雪を被って種子は眠る
殻を破って溢れ出て
日差しに青く繁る頃
穿つような骸も ....
{引用=朝}
朝を見た
眼球は冷え切り網膜は焼かれ
白銀が太陽光を押し広げている
湛え切れず溢れ返り飛沫を上げている
微かな凹凸にも蒼い陰影が添えられて
美しいという言葉は不釣り合い
目 ....
{引用=人形}
ソフトビニールの人形
成形と着色により記号化された
その中空の薄っぺらな面立ちを愛でて
こころ通わせる人もいる
宿る魂はない
ただ見つめる眼差しや触れる手が
意味を孕ませ ....
掌からすり抜ける水
砂の中の骨
早送りで咲いて散る花
骨に彫られた文字
一枚の夜の被い
火にくべられる絵画
壺の中の菓子
家から出ない女
表紙の千切れた古い詩集
頭を割られた男
鏡 ....
{引用=モデル}
マネキンのようにスラリとして
颯爽と 人前を歩く
絵画や彫刻の面持ちで
料理を盛る皿よりも大切な役目を担う

 これを着たら
    あなたもわたしのよう

美は憧 ....
{引用=窓}
梢に残された枯葉一枚
干乾びた想いの欠片
命はすでに記憶もない

生者の心は生乾き
過去と重ねて今を見る
いっそ綺麗に散ったなら


鴉が乗ると電線がゆれた
墨で描 ....
白い螢の舞う朝に
人魚たちは孵る
顔の裂け目から一斉に現れて
辺りの言葉を食い尽くす
囁きも擬態語も残らない
煽情の尾鰭 くねり
思考のすべてが
白い泡に包まれる


望遠鏡の前に ....
隣家の屋根から翼のような雲が見える
朝の微睡みから覚め
膝に居座る悪夢が霧散するまで
蛹の時間
軒の氷柱の光の粒は 
瞼につめたいやわらかな真珠
木々の梢を半ば強引に愛撫する風
その風に ....
 *
昼の薄暗い店
キーケースからはみ出した
鍵がぼんやり光って見える
蝶がビロードの翅を立てて止まっていた
氷が解けてもグラスが溢れることはなく
微かな光を傾けてもピアノは眠ったまま
 ....
 *

貧しい子どもたちのモノクロの微笑み
冬の頼りない日差しに委ねる頬

悪意は悪意のままでだけ美しい
信じることと騙されることが同義となった今

焦点は暈されたまま
クシャクシャ ....
 *

青空ではなく あおそら と
くちびるに纏わる
透けた胎児 月のように

発芽を奥ゆかしくも留め置いた
――エバの種

見上げる大気の透過した青
見下ろす海の反射した青

 ....
 *

終りのないものの終わりを決める
生きることは括り閉じることの繰り返し

言葉に置き換えられた
かたちのないものが夜うっすらと発光する
夏の夢の欠片が螢なら

抗うことを止めた ....
誰より上手く騙したつもり 早くひとりになりたそう


ハンドルネーム手ぬぐい一つ 前を隠さず顔隠す


恥ずかしいのは行為じゃなくて 自分と特定されること


猶予と往くか余裕と往く ....
高いギターでうんちく語り ボロンと鳴らし仕舞う人


素面じゃ{ルビ弾=ひ}かぬ吐くほど飲まず 歌の含みも酒で濡れ


部屋を片付け窓を開ければ 迷子の風も寄って往く


捨ててあげ ....
喚き散らすか痴情の縺れ 外でやらかす若さかな


奏でる風のグリッサンドに 音符くるくる降ってくる


風にカサコソ枯草語る 自慢じゃないが子沢山


箱を開ければびっしり絵本 親子 ....
休み増えても給料歩合 酒は増えても出かけない


端からなにも無かったくせに 失くしたものと想いたい


よどむ曇天どんより映す 病める瞳になにを読む


下手なエレキと下手な詩吟と ....
宵に呼ばれて寄れば良い酒 酔ってよろけた夜の路


魚も鍋も奉行がさばく アクをすくって膳こらす


熟した柿はむかずに啜れ 女むかずにゃ啜れない


周回遅れ時代と競う 若さ失くし ....
朝酒の代わりにシャンソン秋に酔う


幸せは演じることがその秘訣


極端に厚着と薄着の大学生


影を踏む鬼と知られずする遊び


花供え帽子目深に被る人


暗渠へと ....
家を出る秋の耳打ち襟を立て


空は澄み夢の骸か月白く


十姉妹通風孔を{ルビ窺=うかが}って


靴の紐ほどけて結ぶ霜の朝


人気ない路を横切る枯れ落葉


見上げ ....
愛死体秋すぐに冷たくなって


泣くように笑う男が書いた遺書


未来捨て過去と駆け落ち心中する


蝸牛踏めば悲しい軽すぎて


傘の花みんな流れて校門へ


ひっつめ ....
ただのみきや(988)
タイトル カテゴリ Point 日付
痺れながら自由詩4*20/4/25 19:54
壊疽した旅行者 五自由詩2*20/4/19 13:06
壊疽した旅行者 四自由詩2*20/4/12 13:38
壊疽した旅行者 三自由詩3*20/4/5 15:59
壊疽した旅行者 ニ自由詩2*20/3/29 15:12
壊疽した旅行者 一自由詩2*20/3/21 16:19
行方知れずの抒情 五自由詩2*20/3/15 16:05
行方知れずの抒情 四自由詩3*20/3/8 16:30
行方知れずの抒情 三自由詩3*20/2/29 15:52
行方知れずの抒情 ニ自由詩4*20/2/23 16:07
行方知れずの抒情 一自由詩2*20/2/16 13:14
点の誘い・線の思惑 五自由詩5*20/2/11 13:34
点の誘い・線の思惑 四 自由詩2*20/2/2 15:12
点の誘い・線の思惑 三自由詩3*20/1/26 15:20
点の誘い・線の思惑 ニ自由詩7*20/1/18 12:34
点の誘い・線の思惑 一自由詩3*20/1/12 14:19
原始人魚自由詩2*20/1/5 13:53
201912第五週詩編自由詩3*19/12/31 12:08
201912第四週詩編自由詩1*19/12/29 16:42
201912第三週詩編自由詩2*19/12/22 19:19
201912第二週詩編自由詩6*19/12/15 19:40
201912第一週詩編自由詩11*19/12/8 18:06
なにが良いやら悪いやら 【都々逸】伝統定型各 ...3*19/11/30 19:20
鬱憤に接吻 【都々逸】伝統定型各 ...2*19/11/23 16:44
エントロピーと鳥が鳴く 【都々逸】伝統定型各 ...2+*19/11/16 12:26
もう冬でいいでしょう 【都々逸】伝統定型各 ...7*19/11/9 17:20
老若男女恋愛事情 【都々逸】伝統定型各 ...6*19/11/2 18:58
真似事――空白に遠く鳴り俳句3*19/10/27 14:53
真似事――破れた包装紙俳句3*19/10/19 12:45
真似事――愛・死体・秋俳句4*19/10/12 19:47

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